私の一枚

再婚した妻との共同作業「自家製ラーメン作り」 松尾スズキ

  • 2017年9月25日

今年1月27日に、自宅で製麺作業を行う松尾スズキさん。撮影は奥さま

  • 「大人計画」を主宰し、俳優、作家、映画監督など多彩な活動を行っている松尾スズキさん

  • 再婚した20歳年下の妻との日々を綴ったエッセー「東京の夫婦」 1400円(税別)/マガジンハウス刊

[PR]

 今年1月、自宅で買ったばかりの製麺機でラーメンを作っている写真です。タオルをまいているのは、ものすごく力のいる作業で汗だくになるから。この製麺機はインターネットで約6万円で購入しました。有名な「小野式」のレプリカで、もう本物は売ってないらしいです。妻は特に反対しなかったのですが、機械が届いたら組み立て作業が必要になって、僕はそういうのが苦手で、結果的に妻が必死で組み立てることになりました(笑)。

 僕はもともとラーメンが好きで、今の妻と再婚してからは、家や近所で食べるほか、彼女の運転で遠出してまで食べ歩きをするなど、ラーメン生活は充実していたんです。が、YouTubeでラーメンを一から作っている人を見て、家でどうしても作ってみたくなりまして。何と表現したらいいか、違う素材を融合させてできた新しいものが、製麺機からムニュッと押し出されてくるのはすごいカタルシスがあるんじゃないかと。その何かが生まれる瞬間に立ち会いたいという気持ちが強かったんですね。実際、それはやはりとても面白いものでした。

 作業はとにかく体力が必要。まず小麦粉とベーキングパウダーと塩をポリ袋に入れて、足で踏んでは踏んでを繰り返し、少し冷蔵庫で寝かせてまた踏む。そのかたまりを薄く伸ばして、製麺機に入るように何回も調整し、ようやくムニュッと押し出されて麺ができる。麺だけでも朝から晩まで時間がかかり、その上スープも手作りしようと思うと、本当に面倒です。ですが、僕は今まで面倒なことは一切避けて通ってきたタイプだったので、今回は一からすべてやると決めていました。

 スープに関しては、業務用スーパーに行って鶏の手羽先とガラを買い、鶏ガラスープを作ります。そしてラーメンにはス―プと合わせる「かえし」というタレがいるので、それを作るために粉砕機も購入。エビや昆布などを粉砕し、醤油(しょうゆ)とみりんで煮たりと、本当に手間をかけました。ス―プは自分で味をみながら好みのものにしていける楽しみがあります。妻は途中で何をやっているのかわからなくなったと言っていましたが。

 それだけ苦労して作ったラーメンは、もちろんおいしいんです。とにかくラーメンというものは遊び心があって、正解がないのが面白い。出たところ勝負で作るのは僕の性にも合っているしね。

 ラーメン作りは大満足でしたが、実は何回かやって、春ごろからまったくやってないんです。なぜかというと、作る途中に何度も味見するので太っちゃってね。現在やっている芝居で服を脱ぐシーンがあったので、しばらく糖質制限やカロリー制限をして、一番太っていた時より5キロほど落としました、

 その芝居が10月に終わったら、冬に向けて、しまいこんだ製麺機を出してまた作りたいですね。今度はうどんもやってみたいし。

 でも気のせいか、妻は製麺機のことを忘れよう忘れようとしている気がします。絶対に手が届かない押し入れの奥のほうにしまってあるのを見ましたので(笑)。

    ◇

まつお・すずき 1962年福岡生まれ。作家、演出家、俳優、脚本家、映画監督。88年に「大人計画」を旗揚げし、97年舞台『ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~』で第41回岸田國士戯曲賞受賞。2001年ミュージカル『キレイ—神様と待ち合わせした女』で第38回ゴールデンアロー賞受賞。06年小説「クワイエットルームにようこそ」が第134回芥川賞候補作となる。08年映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で第31回日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞。

◆2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾スズキさんが、その結婚生活を綴(つづ)ったエッセー「東京の夫婦」が発売中だ。「僕、51歳、福岡出身。M子、31歳、茨城出身」。東京で出会って、東京で夫婦になった二人の、時々シビアで、時々ファンタジーな日々のストーリー。松尾さんならではの諧謔的(かいぎゃくてき)で赤裸々な描写と共に、時に本質を鋭く見据えた視点から「今の社会に漂う閉塞感(へいそくかん)や歪み(ゆがみ)」があぶりだされている。

「このエッセーの話が来た時に、ちょうど再婚したばかりだったので、新しい生活のことを書いてみようかと始めたんです。いつも僕のエッセーはギャグが多いのですが、この作品は、ちょっとだけまじめに生活ってものを書いてみようかと。やってみると、毎回些細な日々のことをどう面白くとらえるか、というのが大変でした。妻は書いたことに怒りはしなかったけど、自分のセリフや事実関係など、細かいところの正誤に厳しくてね(笑)。日ごろからきちんとしていて、僕のアバウトなところを補ってくれる存在なんです。僕は子供の頃、配られたプリントに何が書いてあるか読めなくて、いつも隣の席の女の子が助けてくれたんですね。妻はそういう人たちが一つの形になって現れた、プリントを僕に説明する妖精みたいな人(笑)。そんな妻との日々を綴ったエッセー。いろんな夫婦が世の中にはいるけど、こんな夫婦もいるということで読んでみてください」

(聞き手:田中亜紀子)

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ(PR)

Pickup!