横田尚哉 誰のため?何のため?

従業員が受ける研修って誰のため? 覚えたスキルは誰のもの?

  • 文・横田尚哉
  • 2017年9月28日

IT技術やコミュニケーションなど、従業員が受けることを推奨される研修は多い(gettyimages)

 会社に入れば新入社員研修が、課長になれば課長職研修と、企業には階層別研修や職能別研修がいくつもあります。企業が、雇用した人材に対して開発や育成をすることは、組織活動を行う上で必要なことです。しかし、企業が多くの時間と費用をかけて育てた社員が辞める場合、企業はその投資を回収する機会を失ってしまうことになります。

 いま『働き方改革実行計画(案)』(2017年3月28日、首相官邸)が公表され、副業や兼業が推進されていく時代において、企業が行う教育訓練とはいったい誰のためなのか。そして何のためなのか。気になりましたので取り上げてみました。

 教育訓練は、《スキルを教える》業務に他なりません。つまり、従業員のために行われるイベントです。そのために《教材を与える》コトや《指導者をつける》コトをしています。もちろん教えるだけではありません。《スキルを発揮する》機会や《スキルを試す》課題を与え、《スキルを身につける》目的があります。

 企業は、教育訓練に投資をすることで《個人力を伸ばす》効用を得て、《業務成果を高める》狙いがあります。その結果、《売上を高める》効用や《利益を増やす》効果が得られます。その一部が《投資を回収する》コトになる訳です。つまり、長期的に見れば、教育訓練は、企業のために行われるイベントとも言えます。

 そうなると、《スキルを身につける》時と《利益を増やす》時とに、時期的なズレが生じる可能性を考える必要があります。スキルによっては、数年かけて経験と実績を積まないと身につけられないものがあります。その間、企業は多くの投資をします。従業員がスキルを身につけたとしても、その投資はすぐには回収できず、これまた数年かかることも珍しくありません。その間、企業は《雇用を継続する》必要に迫られます。

 これからの時代、多様な雇用形態が生まれるとなると、「教育訓練により個人が身につけたスキルの所有者は誰なのか」という問題が生じます。身につけた個人か、または投資した企業なのでしょうか。個人の所有となると、スキルの発揮に応じて相応の対価を与えることになるでしょう。企業の所有となると、スキルに対する手当程度はあるとしても、報酬が大きく上がることは考えにくく、投資の回収に当てられるでしょう。

 スキルを個人の投資で身につけているプロスポーツの世界では、組織に所属する選手は別として、スキルを発揮した選手に、相応の報酬が与えられていると思います。選手は、得た報酬の中から、更なる教育訓練を自らに投資していくのです。この場合、教育訓練は明らかに、選手のためとなります。

(gettyimages)

 一方で、「人生100年時代構想会議」(2017年9月11日、首相官邸)がスタートし、「人づくり革命」の実現に向けた政策に係る企画や立案が行われようとしています。企業や個人に代わって、国家戦略として教育訓練を投資していこうというものです。ここまでくると、スキルは日本のために発揮していくコトが求められていくでしょう。

 私は、『時代の変わり目 『働き方改革』で雇用が柔軟になると、企業と社員はこう変わる』(2016年10月28日、Yahoo!ニュース)でも書いたとおり、終身雇用と年功序列の終焉とともに、スキルへの投資の考え方は変わらなければならないと思っています。

 個人は、企業から与えられる受け身の教育訓練に期待するのではなく、自らスキルを高める努力をしていく時代になると思います。そして企業は、従業員が発揮したスキルに相応の報酬を与えるべきです。それが個々人の成長につながり、労働参加へのモチベーションになっていくのだと思います。

 このコラムは、今回で最終回となります。第1回の『「働く」って、誰のため?何のため?』から始まり、教育訓練で終わるコトで、日本の未来は一人ひとりにかかっているというメッセージを込めました。

 これまで読んでいただいた読者の方々には、「誰のため?何のため?」という問いかけを通して、いま置かれている立場や役割について、少しでも見つめ直すキッカケとなれば幸いです。

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ファンクショナル・アプローチ(FA)では「役割=ファンクション」を《》で表しています。

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PROFILE

横田尚哉(よこた・ひさや)

横田尚哉

経営コンサルタント、改善士。株式会社ファンクショナル・アプローチ研究所代表取締役社長。大手コンサルタント会社、本社部長から単身独立。世界最大の企業・GE(ゼネラル・エレクトリック)の改善手法をアレンジして10年間で総額1兆円分の公共事業の改善に乗り出し、コスト縮減総額2000億円を実現させた実績を持つ、業界屈指のコンサルタント。著書に『ワンランク上の問題解決の技術《実践編》視点を変える「ファンクショナル・アプローチ」のすすめ』『問題解決のためのファンクショナル・アプローチ入門』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ビジネススキル・イノベーション』(プレジデント社)、『第三世代の経営力』(致知出版社)、『問題解決で面白いほど仕事がはかどる本』(あさ出版)など。

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