私の一枚

自分が「空っぽ」だと気づかされた27歳の私 クミコ

  • 2017年10月2日

27歳、渋谷のライブハウスで初めてのライブを行った時。「友人や元夫がお膳立てしてくれました」

  • 活動35周年を迎えた歌手、クミコさん

  • 作詞家・松本隆さんをリスペクトするアーティスト達が一堂に集結する「風街ガーデンであひませう2017」が10月6日(木)から8日(日)に開催される。クミコさんも出演

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 私が27歳の時、初めてのソロライブでの写真です。渋谷のライブハウスで、30人ほどのお客さんの前で歌いました。この頃はすでにシャンソン歌手として東京・銀座の「銀巴里」で歌っていましたが、一度に1人で十何曲も歌ったのはこれが初めての経験でした。

 この時思ったのは、「私って何て空っぽなんだろう」ということ。「銀巴里」では耳の肥えたお客さんの前で歌う恐怖感はあったものの、1人2曲ずつ歌って数人でステージを回すので、目の前の自分の課題をこなすのに精いっぱいで、余分なことを考える必要はありませんでした。でも、自分のコンサートというのは、来てくださった方からお金をいただいて、私の歌だけを聴いてもらうこと。例えばお菓子を買った方なら、「おいしい」とかお金を払った分の何らかの対価があるけど、私の歌を聴いてくださった方には、それがあるのだろうかと考え込んでしまったんです。

 歌うということは、自分をさらけ出すこと。それを考えたら、「空っぽの私」の歌を聴いてくださる方は、何か持ち帰ってくださっているのかと。この時初めて、プロとアマチュアの境目がわかった気がします。以降、一つひとつの歌に対し、しっかりとした自分の考えを持とうと思うようになりました。

 そんな20代後半から40代半ばまで、私はなかなかメジャーシーンに出ることができませんでした。その間には「おもしろい歌い手がいる」と思ってくださる方もいて、よく「ほら、こっちに来るといいよ」とパン食い競走のパンをぶらさげるように、私にいろんな戦略や方向を示してくれたんですね。でも私がなかなかそのパンをうまくつかんで食べられなくて。空腹感を抱えたまま40歳になり、ますます気持ちが焦っていきました。

 そこから何度もやめたい気持ちが襲ってくるようになってしまい、やめたら何をやるのかを一度真剣に考えてみたんです。「目指せ向田邦子!で脚本家」と「銀座のバーのママ」の二つの選択肢が浮かんだ私は、あの時やっておけばよかったと後悔しないように、脚本家養成講座に通い、また友人の店を借りてバーの経営を経験。しかし、どちらの道も自分が成功するには100年かかる、という結論に至りました。私はやはり今まで長くやってきた歌の世界でがんばろうと決意したんです。

 そんな頃です。スタッフの働きかけなどもあって、作詞家の松本隆さんが私のライブに来てくださったのは。そして「あなたの歌声には言霊(ことだま)がある」と私の歌を気に入ってくださり、アルバム全編の作詞とプロデュースをしてくださることになりました。奇跡が起こったと思いました。また当時、「高橋久美子」という名前だった私に「別れた旦那の名字なんてつけてるから売れないんだ」と、名字を取ることを提案してくれて。その時の私は、失うものなど何もありませんでしたので、「クミコ」として松本さんのアルバム「AURA」で再出発。結果、45歳でみなさんに注目していただけるようになりました。松本さんとの出会いは、私の人生を変えてくれたと思います。

 早いもので今年活動35周年ですが、今回17年ぶりに、松本さんと一緒にアルバムを作りました。実は今回初めて自分のアルバムを客観的に「すばらしい!」と思えたんです。この年齢になってようやく自分が納得する歌が歌え、進む方向が見えた気がしています。これからも自分と歌を磨いていきたいですね。

    ◇

クミコ 1954年茨城県生まれ。早稲田大学卒業後、82年銀座の「銀巴里」でシャンソン歌手としてプロデビュー。87年に高橋久美子の名でアルバム『POKKOWA PA ?』をリリースしアルバムデビュー。さまざまなライブハウスなどで歌い「街角の歌姫」と呼ばれる。00年、45歳の時にクミコと名前を変えて出したアルバム「AURA」でブレーク。その後、「わが麗しき恋物語」など数々のヒット曲を生んでいる。

◆作詞家・松本隆をリスペクトするアーティスト達が一堂に集結した伝説のコンサート「風街レジェンド2015」から2年。「風街ガーデンであひませう2017」が10月6日(金)から8日(日)まで開催される。10月5日(木)には「風街前夜祭2017」があり、妻夫木聡、リリー・フランキー、そして松本隆が登場。本番は南佳孝、太田裕美、秦基博、手嶌葵、藤井隆、ハナレグミ、上白石萌音などそうそうたるメンバーが集まり、松本隆の曲を主に歌う。クミコさんも10月7日(土)に出演する。場所は恵比寿ザ・ガーデンホール。

「私の運命を変えてくださったともいえる松本隆さんをリスペクトするイベントで、いろいろなアーティストの方たちと松本さんの歌を歌えることがすごくうれしいです。松本さんはあれほどの大御所なのに、今も現役でご活躍なさっている作詞家。好奇心が旺盛でいろいろなことにチャレンジされている姿は、本当にすばらしいです。そんな松本さんの歌で、私も大人のポップスをようやく歌えるようになりました。みなさんにもぜひ聴いていただけたらと思います」

(聞き手:田中亜紀子)

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