マッキー牧元 エロいはうまい

<40>フランス料理店が生み出す色っぽいとんかつ料理/つかんと

  • 文・写真 マッキー牧元
  • 2017年9月28日

とんかつ

  • とんかつ

  • カツサンドに

  • カツ丼

  • カレーをかけて、カツカレーに

 ついにとんかつは、ここまで来た。

 とんかつ人生50年、数々のとんかつを食べ、ここ3年間では130軒くらいのとんかつ屋を巡った。

 しかし、とんかつという料理は、さらに新たな高みに向かって、進んでいる。

 フランス料理店で、だ。フランス料理店で「とんかつ」が出されているといううわさを聞いて、取るものも取らずに駆けつけてしまった。

 現れしとんかつは、切られてふた切れしかないものの、堂々たるとんかつである。

 松阪ポークを8割加熱し、わらであぶってから、衣をつけて高温でサクッと揚げたのだという。

 ソースもオリジナルである。

 田村浩二シェフは、ソースを作るにあたって、ブルドックのぜいたくソースの成分を研究し、タマネギをあめ色になるまで炒め、セロリやニンジンを別で炒めて合わせ、五種類のフルーツや、豚のウデ肉でとっただしを入れて三日間かけて作ったのだという。

 キャベツは、細切りにした後で冷たい昆布だしに漬け、キャベツのピュレとパセリ油をあえた。

 カリリと香ばしい衣を突き破ると、肉肉しい香りと燻製(くんせい)香を放ちながら、肉が舌の上で躍る。

 ソースは優美な香りを放ち、キャベツはどこまでも甘い。

 さらに天然酵母のパン、ロデブを焼き、ブーダンノワール(豚血のソーセージ)を塗って「よろしければ、後で挟んで、カツサンドにしてください」と添える。

 ああ、夢なら覚めないで。

 しかし、これだけではなかった。

 カツ丼にカツカレーである。

 白トリュフとパルミジャーノのリゾットに、卵と昆布だしのエスプーマをかける。

 サイコロ状に切って揚げたとんかつと、小タマネギのピクルスをのせ、大葉の細切りをのせる。

 一口食べて、笑い出す。

 豚肉とトリュフの出合いがなんとも色っぽいではないか。

 ああ。カツ丼がエロくなるなんてダレが想像しただろう。

 途中まで食べたらカレーをかける。

 子豚の切り落としなどを入れて、数日間熟成させたカレーは、スパイスの香りの奥に、何日間もかけて作られたデミグラスソースのような、甘い香りとほろ苦さの混沌(こんとん)があって、一口食べただけで恋に落ちる。豚汁は、赤だしと白みその合わせで、みその甘みにショウガ油の酸味が絶妙に効いている。さらに具は、かめば、ほろりと崩れる豚肉のコンフィである。

 参りました。

    ◇

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「つかんと」

白金台のフレンチ「TIRPSE」が、毎月期間限定で開催する昼のみのとんかつ定食屋。料理4皿に小菓子と八女の玉露ほうじ茶で締めるコースは、4320円。
とんかつ定食に4千円! なんて思わないでほしい。人生の幅を広げる知的好奇心と刺激とおいしさを満たす時間が待っている。デートにもウケること間違いないだろう。ちなみに店名「TIRPSE」はフランス語のエスプリの逆読みであるので、とんかつは「つかんと」。

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PROFILE

マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問

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1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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