フレンチ界の重鎮が夢中に!  “今まで食べたことのないラーメン”の正体とは……!?

  • 2017年10月27日

  

「世界一グルメな国」と呼ばれるようになった日本。このまれにみる豊かな外食文化を支えてきたベテラン料理人は普段、どんなお店でどんな食事を楽しんでいるのだろうか。卓越した技術・味覚・知識を持つプロフェッショナルの日常食は、やっぱりちょっと違うのである。

今回の大御所シェフ

  

酒井一之さん
1980年代のグルメブームを率いたスターシェフ。1968年の五月革命をパリで体験し、名門の「ホテル・ムーリス」ではかのサルバドール・ダリの料理係を担当、「ホテル・メリディアン・パリ」副料理長という輝かしい経歴を経て帰国し、渋谷「ヴァンセーヌ」のシェフとして一時代を築いた。“クスクス”を日本ではじめて出したのもこの店で、現在の日本にビストロ文化が定着したのは、酒井さんの功績が大きい。

フレンチの重鎮が日常的に通うラーメン店「麺や一途」

  

 フランスの日常食を愛する酒井さんが通うのは、やっぱりフレンチ。ただし、ラーメン。

 化学調味料が入っているものは食べたくないので、酒井さんは原則、ラーメン屋には行かない。目下、日本で唯一食べられるのが「麺や 一途」のラーメンだ。この店のスープはすべて、フォン・ド・ヴォーがベースの「フレンチラーメン」なのである。

 フォン・ド・ヴォーは、仔牛の脛骨と香味野菜を長時間煮込んでとる、フランス料理でもっとも重要な出し汁のひとつ。肉料理のソースには不可欠なものだが、コストと手間がかかるため、今では大ホテルでも業務用の市販品を利用しているところが多い。

 そんな貴重なフォンを、惜しげもなく一杯千円以下のラーメンスープのために仕込んでいるのが「麺や 一途」だ。

重鎮も褒めた!「今まで食べたことがないラーメン」の正体

  

 ラーメンメニューは約10品。特筆すべきは全種類、スープの味がまったく違うことだ。これも、フレンチのソース作りからの発想。ベースさえしっかりとっておけば、あとは足し算でいくらでも変化応用が利く。それがソースの技法だ。

 酒井さんは行くたび、店主がすすめる違ったラーメンを食べる。なかでも絶賛したというのが、「衣利(えり)」(900円)だ。

 テーマは、「今まで食べたことがないラーメン」。店主の仲田一途さんの説明によると、「はじめはドロドロで、次第にサラッとしてきて、ラー油を入れると味がまったく変わる」。 

 供されたそれは、表面をネギ(タマネギ、赤タマネギ、長ネギのミックス)と肉のそぼろが覆い尽くし、麺はほとんど見えない。

  

 麺をつかもうと箸を入れたら、驚いた。スープの濃度というか粘度があまりにも強く、麺を引き上げるのにかなりの力を要する。それはスープというより、麺にからむソースのよう。しかし味は思いのほか、やさしい。味噌のほのかな甘味とクリームのコクがフォンのうま味に溶け込んでいる。

 途中でラー油を入れてみると、たしかに味がキリリと引き締まって別物になる。あまりに個性的なので好き嫌いがはっきり分かれそうだが、ただ「濃厚」の一語では表現しきれない、まさに未体験のラーメンである。

超個性的で癖になる! クリーミーなカレーラーメン

  

 「利(とし)」(800円)も、衣利に負けず劣らず超個性的なラーメン。生クリームを溶け込ませたカレーソースをバーミックスという機器で攪拌(かくはん)し、空気をたっぷり含ませてから器に注ぐ。つまり、スープが泡になっている。

 現代のフレンチでは、より軽く仕上げるために、ソースを泡立てることが多い。その技法を取り入れ、濃厚なクリームソースにふんわりとした新食感を足したスープは、ちょっと癖になりそうだ。クリーミーな中にもカレーの軽い刺激が効いて、するすると麺が喉を通る。

 上にのった豚バラと鶏胸肉のチャーシューはどちらも、真空低温調理してある。肉汁の損失を最大限に防ぎ、思いどおりの柔らかさに加熱できるフレンチの技法だ。肉自体の旨さが凝縮し、スープとのマリアージュ(フランス料理で料理とワインなどが調和することを表現する言葉)も満点。

フォン・ド・ヴォーを楽しむシンプル醬油ラーメン

  

 フォン・ド・ヴォーそのものを楽しむなら、もっともシンプルな醤油味ラーメン「卓」(800円)がいい。

 一口目は「ちょっと薄いかな」と感じるほど淡泊だが、スープも全部飲み干して、最後に「ちょうどよかった」と満足できる。考えてみれば、一口目が旨いラーメンは、食べるうち、次第にしつこくなることが多い。脂ぎったラーメンを食べたときの後ろめたさのない、健康的な味だ。

 ただ、食べ終わった後、上下のくちびるがくっつきそうな粘着性が残る。これこそ、仔牛脛骨から多量のコラーゲンが溶け出しているフォン・ド・ヴォー効果。口あたりは重くないが、スープ自体がタンパク質のかたまりなのだろう。疲れたときの滋養食になりそうだ。

サイドメニューも抜かりなし!

  

  

 サイドメニューも魅力的。夜はビールやワインで小皿料理をつまみ、しめがラーメンの客も多いそうだ。ワインリストもなかなか立派なのである。

 これらにもフレンチの技法が駆使されている。たとえば「しょう」(400円)は、鶏の骨付きもも肉を低温の油でゆっくりコンフィにしたもの。「特製味玉」(100円)は、ポーチドエッグの白醤油マリネだ。

「新しいことを!」前人未到のラーメン店への挑戦

「麺や 一途」店主の仲田一途さん

 銀座「マキシム」で10年、「目黒雅叙園」では洋食調理長を11年間つとめ、2013年に50歳で独立した仲田一途さん。「前人未踏の新しいことをやろう」と開業したのが、ラーメン屋だった。

「フレンチのキャリアは長くても、ラーメン歴はまだ4歳の幼稚園生。作るたびにワクワクドキドキして、時間を忘れるほど毎日仕事が楽しい」(仲田さん)

 フレンチ時代は調理場にこもり、客とは距離があったが、ラーメン屋のカウンターでは、おいしいと思って食べてくれているか、そうでないかがストレートに伝わる。

 だから今は、「こだわらないこと」にこだわって、自分の作りたいものより、客の求めるものを出せる料理人でありたいと、強く思うようになったそうだ。

 これは酒井さんの意見だが、一般的に人が行きつけにする店はせいぜい5軒か6軒。その中に自分の店を食い込ませるための努力や工夫を発見することが、何より大切だという。

 仲田さんの姿勢には、いい店の秘訣がたくさん詰まっている。

 いくら日常食とはいっても、せっかく食べに行くんだから、そこに非日常が少しでも入っていたほうがやっぱり嬉しいし、何より食べ物屋は客本位であることが一番。それに、楽しんで作っている人を見ながら食べると、もっとおいしくなる。

                     ◇◇◇

■PROFILE
畑中三応子(はたなか・みおこ)
編集者、ライター、フードジャーナリスト。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)の元編集長。料理本を幅広く手がけるかたわら、流行食関連の研究や執筆も行う。著書に『ファッションフード、あります。――はやりの食べ物クロニクル 1970-2010』(紀伊國屋書店)、『カリスマフード 肉・乳・米と日本人』(春秋社)など。

■店舗情報
麺や 一途
東京都品川区小山2-17-30
03-6426-8428
https://www.facebook.com/menya.ichizu/

*予約すれば個室でコースにできます

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