私の一枚

やりたいことがなかった10代の自分が演技にハマるまで 遠藤憲一

  • 2017年10月16日

10代後半の遠藤憲一さん、高校中退後、初めて俳優養成所に入った時に、宣伝用の写真をとった時のスナップ

  • 50代、ますます俳優として輝いている遠藤憲一さん

  • 卓球の男女混合(ミックス)ダブルスを通したスポ魂かつラブコメディー映画『ミックス。』©2017『ミックス。』製作委員会

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 これは、人生初のオーディションだったタレント養成所の募集に受かり、最初に宣伝用の写真を撮っていた時の1枚です。高校を1年の2学期で中退し、バイトも転々としてやりたいこともない。そんな時、養成所の小さな募集広告を見て、「こういう募集があるんだ」と、興味本位で受けたら合格。入ったはいいけど、これからどうなるかも全くわからない。だから不安で「無目的な顔」をしています(笑)。

 そんな風に将来の展望もなかったけど、しばらくして、この養成所が持っていた劇団の芝居に出たら、1発目から面白かったんですよ。それでやっと興味を持って、もっと勉強しないといけないと初めて思った。まず、その時出会った先輩の影響で、読書をするようになりました。それまで本なんて全く読んだことなかったので、正直漢字もろくに読めなかった。そんな僕の初めての1冊は太宰治の「人間失格」。タイトルが自分に近いと思ってね(笑)。読んだらすごく面白くて、それからよく読書するようになりました。

 また、芸術に詳しい別の先輩の影響で絵画を見たり、クラシック音楽も聴いたりするようになり、この年で初めて勉強する楽しさを知ったんです。暗記なんてやったことなかったから、台本を覚えるのも一苦労で。電車の中やバイトの合間などにも常に台本を見て、ひたすら暗記していましたね。

 そんな風に芝居に魅(ひ)かれたのは、人間を作るってことが面白いと思えたからなんです。中学の時は、唯一美術が好きでした。1枚の紙を渡され、そこに自由に描きたいものを描く授業で、先生から発想が面白いとほめられたことがあった。自分の発想の中で好きなものを作っていくことが好きだったので、俳優の仕事にハマったんだと思います。

 俳優として売れるようになるまで相当時間はかかったけど、実は僕、将来の不安って持ったことないんですよ。特に20代の頃はイケイケで「何とかなる」と勝手に思ってた。あの頃はオーディションにも落ちまくっていたし、何の根拠もないんですけどね(笑)。

 でも、年を重ねるにつれ、やればやるほど俳優の仕事の難しさを知り、いろいろ表現を工夫するようになりました。一番工夫を覚えたのは、Vシネマに出てた頃ですね。予算が少ないから、ト書きの1行をいろいろ考え、どうすればハラハラドキドキする場面になるか、監督やみんなと話し合ってね。若い頃、仕事がない時に脚本も勉強したので、より作り上げる楽しさを得ていったと思います。今はいろんな役をいただくようになりましたが、その時その時をオーディションだと思うようにしています。今後も求められる限り、演じていきますよ。

 この世界に入ったのは偶然だったけど、普通に高校を卒業していたら今の僕はなかったと思います。僕が中退したのは「夏休みに教科書を机の中に置いていったら燃やす」と先生に言われていたのに置いていって、本当に燃やされてしまったことがきっかけ。あの時は「なんだよ!」と反発したけど、その先生の厳しさがあったから、自分はこうしているわけで。今は逆に感謝の思いがありますね。

 今回改めてこの写真を見て、当時の自分の内面がもろに顔に出ていて驚きました。こんなに不安で「無目的な顔」、今は演技でもできませんね(笑)。

    ◇

えんどう・けんいち 1961年神奈川県生まれ。劇団に所属し、22歳の時「壬生の恋歌」でドラマデビュー。その後、多くのドラマや映画、Vシネマに出演。近年は「民王」の主演や、「ドクターX~外科医・大門未知子~」、NHK朝のテレビ小説「わろてんか」などに出演。

◆遠藤憲一さんが出演する映画『ミックス。』が10月21日(土)から全国東宝系にて公開される。脚本はドラマや映画の大ヒットメーカーの脚本家・古沢良太さんだ。舞台となるのは卓球の男女混合(ミックス)ダブルスで、「ラブコメディーのための競技に思えた」という古沢さんが描く、スポ魂とラブコメが合体した作品。それぞれ心の傷を抱えた主人公たちが、卓球を通して再生していく。遠藤憲一さんは妻役の田中美佐子さんとミックスダブルスを見せてくれる。主人公の新垣結衣さん、瑛太さんら出演者たちの白熱の卓球シーンが大きな見どころだ。出演はその他、広末涼子さん、瀬戸康史さん、蒼井優さん、真木よう子さんなど。

「僕はいつも強面(こわもて)の役が多いけど、今回の情けない性格の役は実は自分に近いので、ほとんど素で演じています。僕と美佐子さんは、ヘナチョコ卓球だけど、みんなものすごい迫力でがむしゃらに卓球に挑んでますよ。最近、僕は家族で楽しめる作品に出るのが好きでね。ただ、家族で見られて、しかも面白い作品は実は少ない気がします。その中で、この映画は若い層だけじゃなくて、年配の方まで間違いなく面白いと思っていただける作品です。ぜひご覧になって、笑って、いろんなことを感じていただけたらと思います」

(聞き手:田中亜紀子)

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