密買東京~遭遇する楽しみ

長い旅をしてきたような一冊 「IONIO&ETNAのノート」

  • 2017年10月19日

長い旅をしてきた古い書物のようなその姿

 人生は、よく旅に例えられます。

 まるで長い旅を経て、ようやく手元に届いたかのようなこの姿。いやそれ以上に、めくるめく冒険や探検の記録が、ぎっしりと書き留められているのでは……と。

 そんな空想さえかき立てるこのノート。

 ある人から、このノートの写真を見せられた瞬間、頭の中に広がった空想。果たしてそれは本物なのか? それを確かめるため、高円寺へと向かいました。

 訪ねたのは、にぎやかな商店街から少し入ったところにあった、小さな店「IONIO&ETNA(イオニア&エトナ)」。おそらく元はアパートだったであろう、古い木造の2階建て。2階の一室に、その店はありました。

大胆に波打つページたち

 まるで古い書物のようなその姿。年季の入った風合いを感じる表紙と、そこからはみ出さんばかりにうねるページ。

 実はこのノートにはその発想の元になった、一冊の本があります。

 とある蚤の市で出会った、古い洋書。ボロボロでしわしわ、長い時間の中で、もはや朽ちそうになっているその姿に、「IONIO&ETNA」の狩野岳朗さんは、すっかり心を奪われ、それを手に入れたそうです。

 その本から着想を得て、その風合いを表現しつつ作ったのが、このノート。

 元の本も見せてもらいましたが、このノートはその本からさらに要素をそぎ落とし、シンプルになっていたのが印象的。それが逆に、物語性をより強く感じさせる仕上がりになっています。

表紙の文字は活版印刷のようにプレスで表現。狩野さんが手作業で、一冊ずつ文字を刻み込んでいます

 子供の頃、夢中で読んだ冒険物語や、探検記の主人公は、きっとこんなノートにその旅をつづっていたに違いないと、想像が膨らんでしまう、その姿。

 冒険の書を閉じて日常に戻るとき、いつもの見慣れた街並みには、どこかに新しい世界への入り口が、そっと開いているような気がして、子供心に世界がいつもよりもキラキラして見えたのを思い出します。

 見知らぬ世界への旅を想像させるこのノート。

 そこにメモが書き込まれるとき、何げない日常の中にも、新しい何かが発見できそうな気がしてしまうのは、……ちょっとロマンチックすぎるでしょうか。

こんな存在感のあるノートがあったでしょうか

 でも多くの人は、こう思ってしまうかも。「これってホントに使えるのかな?」と。

 下の写真は、狩野さんが自身で使っているノート。各ページにアイデアなどがたくさん書き込まれていました。

 その見た目は、かなり落ち着いた印象。表紙はかすれ、うねっていた中のページも、平らな状態に近づいて、最初とはまた別の、奥行きのある表情を見せています。

 この状態は、あの古い洋書にかなり近い。本当に古い本になってしまったような味わいです。

 ということは、毎日使って一冊分書き込む頃には、こんな雰囲気の本ができてしまう。そしてそうなるまでの過程を楽しめる、ということです。

手前は狩野さんが使っているもの。使い込むほどに表情を変え、深みのある見た目に

 思えば紙のノートにメモを取るという機会は、もはや減りつつあるのかもしれません。それは徐々にデジタルに取って代わられるものなのかも。

 単にメモをするという機能だけで考えるなら、それで十分だと思います。デジタルの方が、場所も取らず、手軽だし、半永久的にアーカイブもできる。

 そういうデジタルが便利な部分は、デジタルに委ねても良いのでしょう。でも書きながらアイデアが誘発されてしまうような、予想外の連鎖が起こってしまうのが、何かを書き留めるときの楽しみの一つ。

 このノートの雰囲気や、ページのしわに触発されて、新しいアイデアが生まれそうな予感もして……。

 あるいは旅や冒険、探求や研究を想像させるこのノートに書き留めたいと思うようなことに、自分から出会いに行く、というのもワクワクします。いや、むしろそれが一番楽しくて正しい使い方なのかもしれません。

 そしてこのノートにはもう一つの使い方があります。それは何でも挟んでしまう、という使い方。旅先の小さな思い出も、すてきな招待状も、楽しみなお知らせも、そして小さなアイデアの種も、ここに挟んで持ち歩きましょう。まるで小さなカバンみたいに。

一目見て、心を揺さぶられたこの質感

 一冊の古い洋書から触発されて作られた、このノート。作り方自体も、その古い洋書にならっているそうです。

 ページをとじているのは、たった1カ所。1本の細い糸だけです。この少し頼りない感じもまた、狩野さんがその洋書を気に入ってしまった理由の一つ。

 その昔、本は読み終わったページから千切り、外していったのだと、その洋書を売っていた人は言っていたそうです。そのために、あえて外れやすいように製本してあったと。まだ紙が貴重だった頃の話でしょうか。

 そんな時代の風習にならって、このノートも“もろい作り”にしているので、ページも取れやすくなっています。

 だからこのノートには、黒いゴムの輪が付けられています。それはページが取れても挟んでおけるように。そして色々なモノを挟んでほしい、という意図から。

かつて高円寺にあった「IONIO&ETNA」の店は、無国籍でどこか旅を感じさせる雰囲気でした

 かつて高円寺にあった狩野さんの店「IONIO&ETNA」には、半畳ほどの小さな“くぼみ”があって、そこが狩野さんの作業場になっていました。

 このノートも以前はその作業場で、一冊一冊作られていたのです。

 狩野さんの実家は、商店街の中でメガネと時計を売る店をしていたのだとか。修理などもしていたという、その店の遺伝子を引き継いでいるのか、色々な道具が手の届く所にズラリと並んだその作業場が、とても落ち着く空間だったそうで、日々そこで静かに作業をしていました。

小さな“くぼみ”でノート作りの作業をする狩野さん

 店の名前の由来は、イオニア海とエトナ山。

 20歳の時に、バックパッカーとして初めて訪れたイタリアが、その後の人生に大きな影響を与えるほど、忘れられない思い出になっているという狩野さん。そのとき特に印象的だった、シチリア島の小さな村から見えた景色を、店の名前にしたそうです。

 店も日本を含む世界各地から集められた、小さな宝物たちが並んで、どこか旅を感じさせる雰囲気でした。またいつか、どこかで狩野さんが店を出したらいいなと思っていますが、それまではこのノートで雰囲気を楽しんでもらえたらうれしいです。

(文・写真 千葉敬介)

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