私の一枚

植木等の付き人時代、逃げたスタントマンの代わりにぶっ飛んだ 小松政夫

  • 2017年10月23日

植木等が主演の映画『大冒険』(クレージーキャッツ結成10周年を記念して1965年に製作・公開)で、逃げたスタントマンの代理を務めた小松政夫さん

  • 75歳の今もますます盛んに「フザケる」小松政夫さん

  • 発売中の著書「時代とフザケた男」。扶桑社刊1400円(税別)

[PR]

 これはアタシが植木等の付き人時代。『大冒険』という映画で、植木のスタントマンがブルって逃げてしまった時に、その身代わりを務めたシーンです。あまりの大ジャンプで、写真からはみ出しちゃってる(笑)。植木は運動神経がよく、アクションざんまいの『大冒険』もほとんど自分で演じてましたが、このシーンはさすがにスタントマンがやるはずだったのね。でもジャンプ台が高く、しかも近所に買い物に行くようなバイクでさ。できないと言うスタントマンに、監督が「プロだからできるだろ」と言うと、「プロだからできねぇって言ってるんだよ」と怒って帰っちゃって。

 監督はこのシーンにこだわり、植木が困っていたので、アタシが「やります!」と申し出たんです。あの時は怖さより何より、とにかく植木の役にたちたい一心でした。思い切りスピードをつけて飛んだら、上がりすぎて、前から着地後、転倒しちゃったの。失敗と思って「もう一度やります」と言ったら、監督も「こわいこわい。もういい。よくやった」と。お蔵入りになるかと思ったら、植木がその転倒から起き上がり「あいてててて、くっそ~」と言って、敵の追跡を続ける植木の真骨頂のシーンになったんですよ。

 アタシは子供の頃から俳優になりたくて、高校卒業後に上京したんだけど、お金がなくて劇団に入れなくてね。それでいろんな仕事をし、20歳頃から横浜トヨペットのセールス担当になったら、話の面白さと努力でトップになった。当時大卒の初任給が約1万円の頃、10万円以上もらってましたよ。これは今だと200万円ぐらいの感覚ね。チャンスをうかがっていたら、雑誌で「植木等の付き人兼運転手募集。やる気があるなら面倒見るよ~~~~~ん」という広告を見かけすぐ応募しました。

 応募は600人。当時のアタシは社長相手のセールスでスーツも靴もあつらえで言葉遣いもよかったからか一発で採用されました。月給は7千円に減り、大スターだった植木があまりに忙しく、アタシは週に合計10時間位しか眠れないことも多かったけど、苦しいとか嫌だと思ったことは一度もありません。それどころか植木のオヤジさんが大好きで、そばにいられるのが本当にうれしくてね。オヤジさんを喜ばせたくて車はいつもピカピカに整え、何をすれば喜んでもらえるかを一生懸命考えていたものです。

 植木やクレージーキャッツの芸を身近で見られたのはもちろん貴重な体験ですが、植木からは芸以外にも多くを学びました。へこたれない強さや、苦労を苦労とは思わないこと、そして優しさです。植木は本当に優しくて、たとえば昼に店で、アタシが遠慮してかけそばを頼むと、植木は自分の分として親子丼と天丼を頼み、途中で「おなか一杯になったから、こっちを食ってくれ」と、丼ぶりを一つくれる。そんな気づかいをいつもしてくれました。

 付き人をしたのは3年10カ月。徐々にアタシはチャンスをもらい、仕事もするようになったある日、植木から「明日からこなくていい」と言われたんです。クビかと驚いたら、すでに事務所の社長と話をつけて、アタシの独立の環境を整えてくれていたんですね。それを運転中に聞いて、涙がとまらなくて。路肩に止めさせてもらい、しばらく泣いてましたよ。

 それからずっと仕事を続けてきて、75歳の今もありがたいことに仕事が本当に忙しくてね。今の自分があるのは植木のオヤジさんのおかげです。この写真の頃は、道を歩いている一人ひとりの肩をたたき、「アタシ、植木等の弟子なんだよ」と言って歩きたいぐらい、毎日が幸せでした。

    ◇

こまつ・まさお コメディアン、タレント、俳優、声優。1942年博多生まれ。植木等の付き人を経て独立。「シャボン玉ホリデー」の出演で人気者に。その後、伊東四朗と組んで行った「デンセンマンの電線音頭」や「しらけ鳥音頭」で一世を風靡(ふうび)し、今も映画やドラマと意欲的に活動中。横浜トヨペットのトップセールス担当時代と付き人時代を描いた著書「のぼせもんやけん」を原案としたドラマ「植木等とのぼせもん」がNHKで放映中。

◆小松政夫さんの著書「時代とフザケた男」が発売中だ。活動50年以上となる喜劇人・小松さんが、底抜けに明るくフザケていた昭和の芸能界を彼ならではの温かく優しい目線でつづった。昭和のアイドルやスター、コメディアンとの交友の数々や元気のあった時代を自ら振り返った半生記。エノケンさん、高倉健さん、勝新太郎さん、藤田まことさん、吉永小百合さん、キャンディーズからAKB48まで仕事を通じて知り合ったスターやアイドルの知られざる素顔が読める。

「早いもので、アタシが芸能活動して50年以上。昔も今も『フザケて』きました。その50年間に仕事で知り合った方は相当な数で、今回書いたエピソードはほんの一部なんだけど、交遊録として軽く読んでもらえたらうれしいです。意外な素顔が書いてあるかもしれないけど、これはあくまでも私が出会った時の話です。これからも体が動く限り、白髪振り乱して汗びしょびしょかいて、笑わせた後にほろっと泣かせる。そんな喜劇の神髄を求めてフザケていきますよ!」

(聞き手:田中亜紀子)

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ(PR)

Pickup!