十手十色

「もののけ」を感じる現代アーティスト・小松美羽が守護獣を描く理由

  • 文・加藤千絵 写真・小林浩志
  • 2017年10月31日

「長野の坂城町が私の原点。どこにいても原点を大切にして生きていきたい」と小松さん

 壁にかかった大きなキャンバスに向かってしばらく目をつぶっていたかと思うと、床に並べられたアクリル絵の具のチューブをおもむろにつかんで、直接キャンバスの上に絞り出す。そのまま線を描いたり、手や筆で伸ばしたり。絵の具をつかんで、少し離れたところから投げつけもする。絵の具は四方に飛び散り、手も足も、身につけた白い服も汚れていくがお構いなし。その一心不乱な姿からは、鬼気迫るものすら感じられる。

ライブペイントには「見られる喜びがある」と話す。「その時にいる人のエネルギーで描き方も変わるので楽しみです」

 現代アーティストの小松美羽さんが描くのは「守護獣」だ。狛犬(こまいぬ)からスフィンクスまで、世界各地の神獣文化を学んだという小松さんの守護獣は、獅子のようだったり龍のようだったり、角が生えていたり翼を持っていたりと独特の姿をしている。

アクリル絵の具で描く時も、銅版画で学んだ線描を大切にしている

 この日、小松さんの地元の長野で開かれたイベントの来場者が見守る中でライブペイントしたのは、ベトナムで建設中のとある施設の玄関に飾る予定だという巨大な絵画。小さな生き物たちの頭上で、背中合わせになった2羽のフェニックスが、まるで世界を祝福するかのように翼を広げる。

 「アトリエで描いているとどうしても細かい作業になってしまうんですけども、限られた時間の中で人に見てもらいながら描くライブペイントだと絵に勢いが出るんです」。大きな瞳を輝かせながら話す姿は、可憐そのもの。しかしそのルックスとは対照的に、奔放な線と極彩色で描かれる守護獣は力強く、エネルギーを放っている。

大胆なパフォーマンスと外見のギャップに驚かれることもあるという

自然の中にもののけを感じる

 小松さんが守護獣をテーマにするのは、「山犬様」と呼んで親しむニホンオオカミのような姿をした生き物との出会いに始まる。周囲をぐるりと山に囲まれた自然豊かな長野県坂城町に生まれ育った小松さんは、幼いころから「もののけ」のような存在を身近に感じてきた。山犬様もその一つで、山で道に迷った時に必ず現れては道案内をしてくれて、家に着くころには消えていた。

最近はライブペイントの後の手形をTシャツに押してほしいというファンが行列をつくる

 彼らはどこから来て、どこに帰っていくのか。それに気づいたのは身長も伸びた小学5年生の頃。地元の大きな神社で台座に乗った狛犬を目線の高さに見た時、山犬様も狛犬と同じように、ここで自分たちを見守ってくれている守護獣なのだと直感した。

「線で表現する画家」にあこがれて、美大では銅版画を学んだ

 それから狛犬に興味を持った小松さんはそのルーツを調べる中で、世界のいたるところに守護獣がいることを知る。エジプトのスフィンクスやシュメールのイナンナ。ヨーロッパにはグリフォンやガーゴイルがいて、インドにはナーガが、タイにはシンハーがいる。

 「造形は違っても、文化や宗教を超えて存在している守護獣には平和性があるなあと感じるんです。だからユダヤ教やキリスト教などさまざまな文化の中で生まれた守護獣のいいところを採り入れながら新しい守護獣を生み出して、忘れてしまったスピリット(精霊)文化や本来の人間の魂の在り方を伝えていきたい。それがもののけやスピリットを感じることができる、私の役割なのかなとも思っています」

幼い頃から動物が好き。動物図鑑を買ってもらい、動物図鑑で育ったと笑う

狛犬パワーで世界進出

 美大では銅版画を学び、モノクロで細密な表現をしていたが、26歳の時にニューヨークを訪れたことをきっかけに今のダイナミックな作風へと変貌した。知人のつてで有名な美術オークションの現場に立ち会い、「私の作品のスケール感がどんだけ小さかったか」を思い知ったと話す。「落札されるっていう場所だと作品の緊張感も美術館とは全然違うんです。そこで今を生きている若い作家さんがどういう表現で勝負しているのか、生の姿を見て、自分の主張をもっとしていかなきゃいけない、燃えていかなきゃいけないと思いました」

 絵の具の色が持つ強さ、自分がいる土地の力、ライブペイントをする時はそれを見守る人たちの熱気など、すべてのエネルギーを取り込んでいく小松さんの作品は近年、出雲大社に奉納されたり、ニューヨークのワールドトレードセンターに常設展示されたりと世界的な人気を博している。2015年には有田焼で作った狛犬が、イギリスの大英博物館に収蔵された。「狛犬パワーですね」とほほ笑む小松さんの勢いは、もはやとどまるところを知らない。「地球の守護獣だけじゃなくてこれからは宇宙のスピリットも描きたいなと思っています。そうなると、まだまだ描き足りない。私の命が足りるのかな、という感じです」

ライブペイントをした作品は後日加筆して、完成させた(株式会社風土提供)

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    ◇

こまつ・みわ 1984年生まれ。2005年、女子美術大短期大学部卒業。作家活動スタート当初は「美しすぎる銅版画家」として注目を集めたが、2010年に米ニューヨークを訪れたことを転機に作品の幅を広げると、美術館やギャラリーなどで積極的に個展を開催。近年は作品が大英博物館に所蔵されるなど、国際的な評価が高まっている。長野県坂城町出身。坂城特命大使。11月18日(土)~12月3日(日)、東京・銀座のホワイトストーンギャラリーで「創業50周年記念 銀座新館オープニング展 小松美羽特集」を開催。18、19両日は本人が在廊。詳細や最新情報はホームページ(http://miwa-komatsu.jp/)で。

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PROFILE

加藤千絵(かとう・ちえ)ライター

東京外国語大学スペイン語学科卒業。約9年間、朝日新聞の夕刊や別刷りに執筆し、2012年以降は&Mの「ブラボー★NIPPON」をはじめウェブや雑誌、書籍などで活動する。週末はもっぱらサッカー観戦。趣味の俳句は今年で句歴10年を迎える(が上達にはほど遠く)。岐阜県出身。

小林浩志(こばやし・ひろし)写真家

株式会社新建築社で編集部、写真部を経て独立。建築写真、デザイン、出版を主とした株式会社スパイラル(http://photo-spiral.co.jp/)を設立。以降、黒川紀章をはじめ、日本を代表する建築家の作品写真や書籍のデザイン、編集など精力的に活動している。

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