<42>ビールが止まらない。真の「手作り」を律義に守る餃子/十八番
- 文・写真 マッキー牧元
- 2017年10月26日
出会いはいつも突然にやってくる。
ある日の昼下がり。
突然、無性に餃子(ぎょうざ)ライスとラーメンが食いたくなった。
そう。「餃子ライスにラーメン」は、突発的に、突如として、食べたくなるものなのである。
「餃子ライスにラーメン」を求めて歩く。
できればどの街にでもあるような店で、やや古い感じがいい。
その店はあった。
「十八番」。店名がいかにも街の中華ですと語っている。
すすけた料理のサンプル、油でてかっている店内メニュー、コショウやしょうゆ差し。
お世辞にもきれいとは言えない。
うむ。実に理想的である。
だが、値段を見て首をかしげた
餃子550円、焼売(しゅうまい)650円、ラーメンにいたっては700円もする。
五目そばは1100円と、かなり強気の設定である。
しかし頭は、「餃子ライスにラーメン」で一杯になっている。
座るなり「餃子」。と頼む。
餃子を焼き始めた頃合いを見計らい「ビール」と頼む。
冷たいビールとザーサイを入れた小皿が運ばれた。
ザーサイでビールを半分、ゆっくり飲む。
すると、ちょうど餃子が運ばれてきた。
「おおっ」。街の中華のそれとは、一線を画すそのお姿は、実に凛々(りり)しい。
焼けた茶色い面と白い皮のグラデーションが明確で、ふっくらとしている姿は、間違いなく自家製の皮であると推測した。
餃子についてきた小皿には酢とコショウ。
ザーサイが入ってきた小皿には、酢としょうゆとラー油、少し一味。
まずは酢コショウをつけて、口に運ぶ。
自家製の皮がカリリと音を立てて弾け、香ばしさが鼻に抜ける。
皮にもちりと歯がめり込むと、肉のあんに到達し、ほの甘い肉汁が飛び出しそうになるので、慌てて、吸うようにかじりつく。
そこへ、すかさずビール。
うまい。
次に酢じょうゆ油、ラー油。
皮に歯が包まれると、気分が優しくなる。
再びビール。
うまい。
客が来なくとも、理解する客がほとんどいなくとも、真の「手作り」を律義に、丹念に曲げていない。
情報化社会になっても、こんな店もある。
誠実な味わいにうれしくなった。
餃子の命は皮である。
そのことを、中野「十八番」の餃子は証明している。
◇
中野「十八番」
東京都中野区大和町2-2-2
環七通り沿いに面した、やや不便な場所にある、一見普通の中華料理店。しかし餃子や焼売の皮、麺も手作りである。焼き餃子はぜひ。また焼売もうまい。箸でつかむとずっしり重い。皮が薄いながらも存在感があって、肉汁に富むあんが一体になって、口に攻め込んでくる。やや甘い味付けも、ちょいと下品でいい。
辛子酢じょうゆをたっぷりつけて、「はふはふ」とほお張れば、幸せに満ちる。小麦の甘い香りを放ちながらモチモチと弾む自家製麺のコシが、具材との歯ごたえの対比を生んで楽しい、「焼きそば」もおすすめ。

PROFILE
- マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問
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1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。