小川フミオのモーターカー

キュートな小型車「フィアット600ムルティプラ」

  • 世界の名車<第186回>
  • 2017年11月6日

全長3535ミリ、全幅1450ミリ、全高1580ミリで、ホイールベースは2200ミリ(写真提供=FCA)

 クルマ好きは常に二つの嗜好(しこう)性を持っているのではないかと、ぼくは思っている。ひとつはスポーツカー、もうひとつは超小型車。どちらも知恵と情熱の結晶だからだ。

 小さな車体にエンジンを搭載し、乗員をなるべく多く(できれば快適に)乗せる超小型車はエンジニアの腕の見せどころだ。

 印象的な超小型車はいくつもあるが、筆頭は1956年に発表された「フィアット600ムルティプラ」である。

6人乗れるし、荷物だって積めるため、マルチパーパスビークルの先駆けだった(写真提供=FCA)

 設計者は、「600」や「ヌオーバ500」も手がけたフィアットのダンテ・ジアコーザ。「アバルト」などのスポーツカーの土台となったぐらい「600」の基本設計はしっかりしていた。

 「ムルティプラ」の全長は3535ミリと日本の軽自動車よりほんの少し大きいだけ。エンジンを狭いところに押し込め、3列シートを実現。フロントはバスのようだ。室内をぎりぎりまで広げた結果である。

前のドアは後ろヒンジ、後ろのドアは前ヒンジで開く(写真提供=FCA)

 おかげで知らないひとが見ると、どちらが前かわからないぐらいだろう。短頭種の犬みたいで、ユーモラスかつキュートな感じすらある。

 ベースにした「600」と基本的なパーツを共用しつつ、ホイールベースは20センチ伸ばしている。独特なデザインのため前サスペンションも専用設計だ。

 リアエンジンのレイアウトも「600」と共通。当初633ccだった4気筒エンジンは後車軸より後ろに搭載されている。そのため3列シートの場合、リアに荷室スペースはない。

3列シートと2列シートの仕様があり、後者はタクシーとしても使われた(写真提供=FCA)

 現在では衝突安全性を確保するために、衝撃吸収スペースが前にないクルマは作れないだろう。クルマとしての理想と法規は相いれないことが多い。その好例といえる。

 日常の足として多目的(ムルティプラの意味)に使えるよう企画されたこのクルマ。公共交通機関が発達していなかった当時のイタリアにあって、人々に喜ばれるクルマを設計しようという技術者の心意気が感じられるようで、ぼくは大好きなのだ。

荷物をたくさん積むひとは2列シートバージョンを、という宣伝パンフレット(写真提供=FCA)

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PROFILE

小川フミオ(おがわ・ふみお)

写真

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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