今日からランナー

丸めたゼッケンを片手に一気にゴール! 「サブ4」完遂秘話

  • 山口一臣
  • 2017年11月2日
  • トップランナーの集う「Aブロック」からスタートは始まった

  • 雨に濡れてゼッケンがとれたので手に持って走った。こんな経験は初めてだ……

  • サブ4が達成できて安堵の表情

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 サブ4復活プロジェクト@ベルリンマラソン報告第3弾(最終回)をお届けしよう。

 ベルリンマラソンも他のマラソンと同じくタイムの速い順にブロックスタートとなる。私は「Fブロック」だったが、あえて「G」へ移動した。本来のブロックから速いブロックへ移るのはNGだが、遅い方へ動くのはOKなのだ。なぜ、1ブロック落としたのかというと、「F」のタイムは3時間30分から3時間50分、「G」は3時間50分から4時間15分が目安だったからだ。

 「Gブロック」には4時間のペースメーカーがいる。ベルリンマラソンは3時間から15分ごとに4時間半までのペースメーカーが用意されている。ペースメーカーとは、決められたタイムできっちり走る主催者側のランナーだ。くっついて走れば、確実にそのタイムでゴールできる。ただし、私はペースメーカーについていくつもりはなかった。なぜなら、ペースメーカーはスタートからゴールまでほぼイーブンペースで走るからだ。前回説明したように、私の作戦は、前半はスローに、後半で追い上げるというものだった。そこで、4時間のペースメーカーより数十メートル前からスタートすることにした。前半スローペースといっても遅すぎると後半で盛り返しできなくなる。もし、ペースメーカーに追い越されたら、「遅すぎ」の警告にしようと思ったのだ。

 午前9時15分、号砲が鳴った。Aブロックから順番にスタートが始まる。20分後、Gブロックのランナーもゆっくりと動き始めた。この「時間差」が、いつもたまらない。期待と不安とワクワクがゴッチャになったような感覚だ。前夜の大雨は小雨になり、やがてあがりそうな気配だった。太陽が出ていないから気温も上昇しそうにない(12℃くらい)。コンディションは悪くない。これはイケるかもしれない。ひそかにそんなことを考えながら進んで行くと、いよいよスタートラインが近づいてきた。さあ、42.195kmの長い旅の始まりだ。

 最初の1kmまでは試運転のようなものだ。混雑もあって、なかなか思いどおりに走れない。1km目のタイムは5分44秒だった。設定より4秒遅い。いつもならペースを上げ気味に調整するところだが、ここは我慢がまん。前半は、はやる気持ちを抑えて淡々とペースを刻むことを心がけた。

 何度も書いているがコースは極めて平坦(へいたん)で道幅も広く走りやすかった。ヨーロッパのレースは1kmごとに表示があるから日本人にも違和感がない(アメリカはマイル表示)。沿道は、応援が絶えず、前回、写真を掲載した戦勝記念塔をはじめ、旧東ベルリン市街のシンボルといえるテレビ塔、旧西ベルリン庁舎、カイザー・ヴィルヘルム教会、国立歌劇場と観光的な見どころも満載なのだが、今回ばかりは景色を楽しむ余裕はなかった(もったいない!)。前半の7km付近から13kmの間とゴール直前の39kmあたりから旧東ベルリン市街となる。なんとなく建物が地味なのと、路面電車のレールがあることでそれとわかる。

 スタート前の超弱気は、10kmも走ると段々強気になってきた。前半スローペースと決めていたので脚も心肺もかなり余裕があったからだ。イケるかもしれない、とまた思う(笑)。距離表示を通過するたびにラップ(区間タイム)を確認する。遅れは気にせず、キロ5分40秒キープを心がける。ほぼ計画通りと思っていたが、ハーフ通過時に時計を見てがくぜんとした。2時間06秒(公式記録では2時間03秒だった)と“6秒の借金”ができていたのだ。作戦上、前半での借金は想定の範囲内だ。しかも、たったの6秒である。しかし、わかっていても“負債”を目の当たりにするとやはり焦る。前半、きっちりキロ5分40秒で走れていると25秒ほどの“貯金”ができるはずだった。

 そんなことをグルグル考えながらふと脇を見ると、なんと4時間のペースメーカーに追いつかれているではないか。これはマズイ。しかし、焦りは禁物だ。冷静に考えれば6秒の遅れは余裕で盛り返しできるはずだ。レースは半分しか終わっていない。ペースを上げるのは、まだ早い。そう思ってしばらくはペースメーカーの後に付いて行くことにした。ところが、25kmを過ぎてそろそろエンジンをかけようとしたところでアクシデントが。ゼッケンをとめる穴が雨で破れて、剝がれ落ちそうになったのだ。走りながら安全ピンを刺し直そうといろいろやってみたが、うまくいかない。立ち止まって付け直すとタイムをロスする。仕方がないので、ゼッケンをはずして、手に持って走ることにした。

 丸めたゼッケンを片手にさあペースアップだ。4時間のペースメーカーを抜いて前へ出る。キロ5分35秒まで上げていく。30kmを過ぎても快調だ。脚もなんとか持ちそうだ。イケるぞ! イケるぞ! 残り約5kmの37km地点で計算すると2分近く余裕があった。イケるぞ気分はさらに盛り上がったが、油断は禁物である。38kmを過ぎ、再び旧東ベルリン市街に入る。40km地点のコーナーを曲がったところで時計を見る。あと2km。ここまで来れば、もう大丈夫だ。このレース、もらった!

 顔がほころんでくるのがわかった。41kmの先を右に曲がってクランクすると正面に最後の名所、ブランデンブルク門が見えてくる。もはやサブ4は絶対確実だった。門の手前から少しペースを落としてゆっくりゴールを目指すことにした。3時間58分51秒でのフィニッシュ。思いつきで始めた「サブ4復活プロジェクト」も成功裏に終わった。その報告ができることが、なによりうれしかった。

 レース後、公式記録を見ながら各区間のペースを計算すると、
・最初の10kmまで=キロ5分41秒
・次の10km=キロ5分42秒
・その次の10km=キロ5分39秒
・残り12.195km=キロ5分36秒
と、“後半追い上げる”作戦どおりの、きれいなネガティブスプリットになっていた。

 報告が長文になったが、マラソンとは、こうして事前の準備(練習)→計画→実行が思惑どおりに運んだときに、想定した結果が得られるスポーツなのだ。それがまた、マラソンのだいご味、本当の面白さなのだと思っている。

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PROFILE

山口一臣(やまぐち・かずおみ)

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1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。その後、朝日新聞出版販売部長、朝日ホール総支配人を経て14年9月からフォーラム事務局員。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWS代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン17回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

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