都市と地方にある“モチベーション”の格差……、幸せなのはどっち? 【IT評論家・尾原和啓】

  • IT評論家・尾原和啓
  • 2017年11月13日

  

 AIが人間を超えていく時代における幸福とは、何か? IT評論家・尾原和啓が、“地方の若者”を切り口に、あらゆる業界のプロフェッショナルをお迎えし、議論します。今回のお相手は予防医学研究者の石川善樹(いしかわ・よしき)さんです。

変化の時代の恩恵を受ける人、受けない人

尾原 初回なので、まずは、なぜ僕がこの対談連載を始めようと思ったか、何を目指しているかについて、お話しさせてください。実は9月末に、3作目となる拙著『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』(幻冬舎)を上梓(じょうし)したのですが、いただいた反響の中に気になる声がありまして、それが出発点となっています。

 本の内容を簡潔に説明しますと、まず仕事におけるモチベーションが、時代の変わり目の影響で、30代前後を境に変化している。例えば戦後、なにもない更地から作り上げてきた世代が、「あれが欲しい、これがしたい」とあらゆる欲望で“渇いている”のに比べ、若い世代は何でもそろっている時代に生まれ、すでに満たされてきたから、“渇けない”。だから上司に「目標を達成すれば美女と赤ワインで乾杯できるぞ」とあおられても響かず、「サイゼで友達と乾杯した方が楽しいや」という本音をなかなか言えずにいる。

 この食い違いをひもときつつ、一方でAIによってあらゆる仕事がロボットに代替されていく時代で、若い世代の特性である“仕事にも意味合いを見出したい”という欲求や、“好きなことをとことん追求したい”という「偏愛」こそが、生き残る鍵になる。つまり変化の時代において、若い世代がいかに可能性にあふれているかを主に書いています。

 ただ、僕の元に届いた反響のなかに、「これはあくまで都市部の若者に向けた本ではないか?」という指摘があったんです。例えば地方では、実家に残った長男は家業を継がないといけない義務を背負っている一方、家業が時代についていけず、なくなるかもしれない閉塞(へいそく)感の中で、うつ病になったり、自殺したりするケースが増えている。これから5年くらいはそういうケースがますます増えるのではないか、という懸念もあるわけです。

 あるデザイナーの女性から、こんな話も聞きました。「うちの地元で一番モテるのは、トビ職や建築業、つまり肉体労働者なんですよ」と。理由はお金持ちだから。でも東京で働く彼女から見れば、肉体労働はAIによって真っ先にとって代わられる可能性の高い職業に見えるから、「都市部と地方で、価値観の断絶が起きているように見える」という。

 つまり、同じ若者でも、都市と地方ではずいぶん事情が違う。そこで、「AIが人の仕事を置き換えてくれるようになるから、みんな自分の偏愛やこだわりを追求して、それを仕事にして生きていくことだってできるよ」と提案しても、ピンときてもらえない。だけど、時代は確実に変化している。なら、地方の若者の幸せをどう考えるべきなのか、彼らのことをよく知るプロフェッショナルな方々と、議論していきたいと思ったんです。

「別にAIに仕事を奪われたって、そのうちベーシックインカムでなんとかなるじゃないか」という声もありますが、僕はベーシックインカム否定論者です。今だって、石油という“ほっといてもお金を生む存在”があるのに、それを等分にみんなに分ければ飢える人はいないはずなのに、結局人口の数%の人に、石油の富が集中している。

 AIの時代が来ても、これと全く同じことが起こると思うんです。例えばAIが次の石油として登場しても、AIの源泉となる学習データは、GoogleやAmazon、Facebook、Appleに独占されている。彼らが全員に富を分配してくれるようになるかは、今の時点ではまだわからない。

 そうなったとき、地方の若者たちは、AIによる時代の変化がもたらす恩恵を受けられないかもしれない。ならどういう風にしていくといいのか? 「人がよりよく生きること」について、多方面で研究を続けられており、最近も吉田尚記氏との共著『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』(KADOKAWA)を出版された石川善樹さんに、この問いを投げかけてみたいと思いました。いかがでしょうか。

地方の若者たちは、本当に不幸なのか?

石川 尾原さんのお話をいきなりひっくり返してしまうんですが(笑)、むしろ地方の人たちは、結構充実感を持っているんじゃないかと思うんですよね。

 例えば今の時代は、19世紀のイギリスによく似ていると言われます。機械が登場して、人が機械を操作するために働くようになると、「機械を打ち壊せ!」とラッダイト運動が起きたり、格差も広がったりした。まさに今の時代ですよね。ただ当時、労働者は賃金の安さに対してのみ怒ったわけじゃないんです。仕事がつまらなすぎることに怒った、と言われているんですね。

尾原 なるほど。機械を打ち壊したのは、機械のために働いている“単純労働”がイヤだから怒った、ということですね。

石川 やがて、アーツ・アンド・クラフツ運動(美術工芸運動)が起きる。これによって、そもそも人が働くとはどういうことかが見直された。結局、機械とともに働くというのは、作業の一部を担うということなんです。そうじゃなくて、仕事とは、最初から最後まで人の手をかけて、その中で創意工夫したりするものであるべきだ、ということを訴えかけているんですね。

 それでいうと、トビ職は最初から最後まで人の手でできる仕事だから、非常にクラフトマンシップな、素晴らしい職業なんですよ。むしろかわいそうなのは都会で働いている人たちで、機械の一部を担当している労働者なのかもしれない。

「モチベーション革命」では、仕事に意味合いを求める若者の気持ちを肯定していますよね。ここで肯定されているのは、都会的な、つまり機械の一部を担うような働き方をする人たちじゃないかと思いました。19世紀のイギリスにも、都会に住んでいる人ほど、むしろ仕事に意味合いを求める風潮があったんです。

尾原 なるほど。

  

時間に追われない人々の幸福

石川 いまだに地方では、例えば「良い暮らしとは何か」とか「一人前になるとは何か」という問いの答えが、はっきり定義されているんです。家を買って、家族を持ってこそ大人だ、という。だからそれに乗っかっている限りは、みんなハッピーなんですよね。「どうだ、俺は家族を抱えたぞ!」って。

尾原 まさに家業ですよね。ただ、論理的にはそうなんだけど、これからも家業でやっていけるのか、という問題がある。それと、例えばひと昔前の人には、SNS世代のように承認欲求がなかったかというと、そうじゃない。彼らの時代には、会社の中でパーツのように働くことがえらい、とされる価値基準があったから、それをやれば満たされた。でも今の地方の人たちにはそういう基準があまりないんじゃないか。

石川 どうなんですかね? 地方って、自分たちのコミュニティーで完結していることが多いので、都市の企業ほどのスケーラビリティーを求められないじゃないですか。冷静に考えてみると、一人とか、あるいはその従業員と言ってもせいぜい数人、多くても数十人ですよね。

尾原 数人のケースが多いですよね。日本は中小企業が就労人口で言うと比率が高いから。

石川 地方で生きていくのに、それほど稼ぐ必要があるのか。いつも思うんですけど、もともと僕は島に生まれ育ったせいか、都会に住むと、お金がないと何もできないなと感じるんですよ。全てをお金に依存しているから、お金に対する不安がとても強くなる。地方だと、初めから親の家があったりして、意外とお金って必要じゃないんです。

尾原 ご飯も、ご近所さんとおすそ分けし合えるし、農産物も、地方は価格コントロールが離れた世界だから、余れば近所に配ったりしますよね。

石川 そうそう。それもあるし、あるいは時間に追われていないから、地元の自治会に出たりして。

尾原 それぞれの役割をつくって楽しむ。

石川 今、僕が研究しようと思っているのも、人生を充実させているのはどちらかということなんです。

 例えば先日も、ある企業で働き方改革をやっていて、そこに呼ばれて社員のみなさんの話を聞いてきたんです。その企業では、「仕事をしていないとき、みんなは何をしているんだ」というテーマで、全国の支部が集まって発表し合ったそうなんですね。すると、地方の工場などで働いている人が、まあ楽しそうだと。みんなで趣味の釣りをしたり、仕事が終わって家でご飯を食べて、そこからまた遊んだり、とにかく私生活が充実している。それに比べて東京の本社の人たちの、まあ無趣味なこと(笑)。

尾原 ただ仕事して帰って。

石川 給料が高いのは本社です。ただ、みんな「退職後のことを考えたとき、どっちが本当の意味で幸せかわからないなあ」ということを言っていましたね。

 あるいは先日も、とある技術会社に呼ばれて現場を見学しに行きました。福島と新潟だったんですが、そこでも、やはり地元の人は幸せそうだと言うんですね。やっぱり地元に根付いているから。

尾原 地元への明確な貢献感もありますしね。

石川 東京から赴任している人もいっぱいいるんですよ。で、子どもがある程度大きくなって50代とかになると、単身赴任になる。東京の家はどうなっているかというと、奥さんに占拠されているんですって。ある職員の方が言ったのは、「こないだ家に帰ったら、東京にある自宅が勝手にリフォームされていて。俺の部屋が、書斎が、玄関入ってすぐ左にできていた。これは、これ以上奥に入ってくるなよってことだよね」って。

尾原 ええ! つまりあんたの居場所はここまでねと……。

石川 もう完全に難民です。モチベーション難民どころか、家庭難民になっている。だから、人生を豊かに生きると考えたときに、なんか都会にいると「仕事をなんとかせんといかん」って気持ちになりがちなんですよね。

尾原 仕事の比重が高かったりするから、仕事の中に意味合いとか価値をもたせようとせざるを得ないし、お金でいろんなものを買うから、お金を稼ぐということに比重を置かざるを得ないけど、そんな生き方は都市部だけの話じゃないか、それって幸せなのか? ということですね。

  

 地方の若者は、AIによる変化の時代の恩恵を受けられないのでは? という考えに対して、「そもそも、地方の生き方こそ人間の幸せに近いのではないか」と投げかける石川さん。皆さんにとっての幸せは、地方と都市、どちらにあるのでしょう。

    ◇

プロフィール
■石川善樹(いしかわ・よしき)
予防医学研究者・医学博士。1981年、広島県生まれ。
東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。新著に吉田尚記氏との共著『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』(KADOKAWA)など。Twitter:@ishikun3

■尾原和啓(おばら・かずひろ)
IT評論家/Catalyst(紡ぎ屋)
シンクル事業長、執筆・IT批評家、Professional Connector、経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー。
京都大大学院で人工知能論を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立ち上げ・投資を歴任。13職目を経て、バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディション、Burning Man Japanに従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。
著書に「ザ・プラットフォーム」(NHK出版新書)「ITビジネスの原理」(NHK出版)。近著に「モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書」(幻冬舎)。Twitter:@kazobara

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