没入できる面白さ、「VR」の魅力 演出家・宮本亜門さん[PR]

  • 2017年11月10日

  

 奥行きや傾きが、リアルに感じられる。目の前に迫ってきたものに、あたかも触れられそう――。コンピューターによって作られた仮想的な世界が、現実の世界のように感じられる「バーチャルリアリティー(仮想現実、VR)」。

 最近ではゲームへの活用が進むなど、VRが身近なものになってきている。朝日新聞社は今年6月、VRを使用した報道「NewsVR」をスタート。その活動の一環として、広くVRコンテンツを募集する「朝日VRアワード」を実施する。審査委員をつとめる演出家の宮本亜門さんにお話をうかがった。

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360度、体感しながら没入する

――宮本さんは、さまざまなところでVRを体験されていると伺いました。

 この間は、今年新宿にオープンしたばかりの「VR ZONE SHINJUKU」で、自転車に乗りながら空を飛んでいくようなゲームを体験しました。あれは興奮しましたね。僕、自転車乗れないんですよ。誰も乗り方を教えてくれなくて(笑)。でもゲームでは自転車に羽がついていて飛び立って、山を越えたり滝の下をくぐったりして。映像も、すごくきれいでいつまでも見ていたいような映像。僕にとっては本当に幸せで、叫びながら乗っていました(笑)。

――VRにハマったきっかけは、何だったのでしょうか。

 最初に体験したのもやはりゲームでしたね。僕は、演出家として演劇を作る仕事をしています。演劇は劇場という空間ありきのものですよね。その中で、本当は舞台と客席が紛れることがいちばんいいんです。それは、僕らが作り上げた物語、世界感に没入してほしいからなんですね。いま劇場もどんどん進化していて、たとえばニューヨークには、イマーシブシアターというものがあります。舞台と客席に分け目がない。出演者とお客さんが絡んで一緒に体験をし、そこでストーリーを感じていくものなんです。360度体感しながら没入できるというのが、VRにハマっている理由でもあります。

――没入感を作り出すという点で、演劇との共通点があるんですね。

 日本でも海外でも VRを体験できるところにはなるべく足を運んでいます。ゲームのときには大はしゃぎして、ときには緊張感から冷や汗で手のひらをベタベタにしながら。VRでの体験って、五感に響いていくんですね。これはあくまで映像だ、作られた音だと頭でわかっているつもりでも、身体の反応として出てしまう。この没入感がもたらす人間の反応の変化は、知っておくべきだとも思っています。いい意味でも、もしかしたら悪い意味でも、 VRが我々にもたらすものをちゃんと知っておかないと。

――悪用しようと思えば悪用できる、と。

 洗脳のようなことが、いくらでもできると思います 。VR でいちばんビジネスがうまくいってるのはアダルトだと言われていますし、いろんな意味でとても危険性を孕んでいるとは思います。VRがどうあるべきかという点も含めて、これからコンテンツがそろって、議論が深まっていくんじゃないかな。単なるゲーム感覚の技術という段階はもう越えていると思います。

演劇におけるVRの可能性

――ご自身のお仕事との関連を、どのように考えていらっしゃいますか。

 僕は演劇を作る仕事をしているので、VRが洗脳ではなく、人々の自分で判断していく力をあげるようなものになったらいいなと思います。演劇は、人が人のことを語り、人のことを探っていく場所です。人って謎の生き物じゃないですか。人の心理って一筋縄ではいかない。いろんな歯車があって、表で言ってることとは違う、煮えたぎった思いが裏にあったりね。ドラマというストーリーを使ってあぶり出しながら、いろんな考え方を提示してるんです。演劇を見る人は、自分が何に感動し共鳴するのか、あるいは抵抗するのか、気づくことになります。そういう意味で、僕は人が何に反応して何を感じるのかということに興味がある。VRにもきっとそういうのがあるから、惹かれるんじゃないかな。

――芸術表現としても、これまでの表現とはやはり違いがありますか。

 たとえば映画だったら、ある視点から一つの平面を切り取ります。二人が話しているとしたら、相手から見た視点で僕を撮っているのか、それとも監督から見た視点で二人を撮っているのか。もっと俯瞰して天の目、神の視点で撮ることもできますが、いずれにしても誰の視点なのかがはっきりしている。一方で、VRでは視点は常に中心に置かれます。360度、上も下も右も左も後ろも、常に見ることができて、その中心にあるのは自分。それはつまり自分自身の在り方を意識させられる、ということでもあると僕は思っています。自分という存在を意識せざるを得なくなりますよね。

――360度、どこを向いて何を見るかは、見る人の選択に委ねられます。

 ただ与えられたものを見るのではなく、自立せざるを得ないというか。自分の意思で存在できるおもしろさがありますよね。だからこそ、映画と同じ論法を使ってコンテンツを作っても、うまくいかないんですね。映画のように登場人物の視点にただVRを入れ込んで作っても、見る人の意志が邪魔する場合があります。

 以前、ハリウッドのとてもお金のかかったVRを体験したんですが、巨大な恐竜が襲ってくるようなVRだったんですね。隣にいる人に「逃げろ!」と言われて、自分も逃げている設定なんだけど、本当は僕はずっと恐竜を見ていたかった(笑)。そういうふうに、見る人の意思とズレてしまうことがある。それはあまりよくないVRだという声もありました。その点は製作者の人たちが苦しんでいるところでもありますね。

 これほどの技術が見えてきたのに、なかなかこれがVRのおもしろさだ、というコンテンツが生まれていない。僕もいつか作ってみたいなと思ってるんですが。物語の表と裏、違う面をいっぺんに醸し出せるような、そういうものが作れたら、VRならではだと思いますね。

  

VR作品の公募に期待すること

――見る側だけでなく、作る側としてのおもしろさも、これから注目されていきますね。宮本さんが審査委員を務める朝日VRアワードは、一般の方々からVR作品を公募するものです。

 VRって、作り手が何を考えているか、何を感じたくて作っているのかがとてもクリアです。その人の脳の中に入っていくというか、身体の中に入っていくような、そして物事を見るという感覚があるんですね。作品にもそれがはっきり表れると思う。カメラを置く位置ひとつで、その意味合いがまったく変わりますから。だから今回この企画をすごく楽しみにしているんです。

――これから撮ってみようかなという方へ、アドバイスはありますか?

 まずは撮ってみることでしょうね。あまりあれこれ考えすぎるよりも。試しているうちに自分の想像と違ったり新たな発見があったりすると思うんです。平面の写真を撮るのと違って、一瞬頭がねじれるというか、頭を三次元、四次元に使うような複雑さがある。何度か撮ってみて、自分なりの視点を発見していくのがいいと思います。

――作品に期待することをお聞かせください。

 ペット部門、人部門、自然部門の3つの部門がありますよね。どれも非常に生活に近いものです。日常に密着しているからこそ、日々の生活や生き方のなかで、どのように物事を見ているか、生活の何を喜びとしているかが作品に表れやすいと思います。

 舞台は例えば自分の寝室であるかもしれないし、庭かもしれない。普段は入れない他人の生活の中に実際入っていくような、その部屋の香りが匂い立つような空気感が出るとおもしろいなと思います。そして、ただカメラで写すだけじゃなく、どうしてその場所を見せたいのか、裏に秘められたストーリーが紐解かれているような作品を期待しています。

(文・高橋有紀 写真・篠塚ようこ)

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宮本亜門(みやもと・あもん)

1958年、東京・銀座生まれ。ミュージカル、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎等、ジャンルを越える演出家として国内外で幅広い作品を手がける。
1987年、ミュージカル「アイ・ガット・マーマン」で演出家デビュー。翌年、文化庁芸術祭賞受賞。2004年、ニューヨークのオン・ブロードウェイにて、東洋人初の演出家としてミュージカル「太平洋序曲」を上演、トニー賞4部門でノミネートを果たした。2013年、初の欧州でのオペラ演出を手がけ、オーストリアにて宮本亜門版「魔笛」(モーツァルト作曲)を世界初演。2016年10月には、2020年東京五輪などに向けたキックオフイベント「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」の公式プログラム文化イベントを演出。また、世界で初めて能楽と3D映像を融合した「幽玄」をシンガポールにて世界初演。
今年で演出家デビュー30周年。古典芸能から最新のエンターテイメントまで、日本のあらゆる芸術文化の演出・発信にも力を入れている。

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朝日VRアワード

朝日VRアワード

■主催:朝日新聞社メディアラボ
■後援:一般社団法人VRコンソーシアム

■応募部門
 ペット部門:犬・猫など、ペットを被写体とした作品
 人部門:家族や友人など、人を被写体とした作品
 自然部門:自然の風景などを被写体とした作品
 ※各部門1作品の応募とします

■賞金:大賞(1本)10万円、各部門賞(計3本)5万円
■応募期間:2017年9月29日(金)~11月30日(木)
■入賞発表:2018年1月中旬(予定)
 朝日新聞デジタルNewsVR(Web・アプリ)で発表、公開

詳細はこちらから

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