「お金」じゃない幸せのカタチを体現! “パンク一家”の揺るがぬ価値観

  • 2017年11月9日

左から谷ぐち順、共鳴(ともなり)、YUKARI。全員が音楽活動に励むバンド一家!

 私は人生で一番大事なのはお金だと思っていた。お金を持っていると欲しいものはたいてい手に入る。20代の頃はあまり意識していなかったが、30歳で結婚するとそれは実感になり、40歳になると確信に変わった。

 だが映画「MOTHER FUCKER」を見て、その考えが大きく揺らいだ。大事なのはお金ではなく「自分自身」なのではないか、と。

 この作品は、25年にわたりアンダーグラウンドで活動を続ける自主音楽レーベル「Less Than TV」の主宰者でフォークシンガーの谷ぐち順と、「ニーハオ!!!!」や「Limited Express(has gone?)」といったバンドで活動する妻のYUKARI、そして息子・共鳴(ともなり)の生活に密着したドキュメンタリー。バンド活動、仕事、子育て、夫婦関係などが赤裸々に、かつコミカルに記録されている。

人生初のライブを行う谷ぐち家の長男、共鳴。(C) 2017 MFP All Rights Reserved. 

 CDが売れなくなって久しい昨今、テレビに出ているようなアーティストでもミリオンセラーは非常に難しい。10万枚売れれば比較的大きな成功という時代だ。大型音楽フェスに出演するようなアーティストも一握り。ビジネスとして音楽をやる場合、常に大衆性を意識しなくてはならない。

 「Less Than TV」は90年代初頭に誕生した瞬間からゴーイングマイウェイだった。一般論にこびない。そこが音楽ファンに支持された。

 だが、 今は音楽だけで食べていくことが難しい時代。映画で映し出されていた谷ぐち家はお世辞にも豊かとは言えなかった。

 それでも彼らに悲壮感は一切ない。お金がないのに、なんでそんなに笑顔なのか? その理由が知りたくて、私は彼らに会いに行った。そして、取材の場で二人は確かな口調で言い切ったのだ。

 「今が幸せです」。

グズグズ言ってないでやりな!

 谷ぐち一家はとにかくエネルギッシュだ。これはYUKARIのとある1日の過ごし方。

 「朝6時くらいに起きて、朝ごはんの用意をしたり、掃除洗濯をしたり。2人を送り出して、9時頃に仕事に行きます。イタリアンのシェフをしてるんです。14〜15時には終わって、その後ジムへ。あまりカッコよくない話ですけど、いま38歳でこれから体力が付くことはない。ボーカリストとしてちゃんと歌い続けるには鍛えるしかないんですよ。1時間くらいトレーニングをして帰ると、息子が学校から帰ってきます」

谷ぐち家の日常を語るYUKARI

 そう言って一息つき、再び話を続ける。

 「でも大変なのはここから(笑)。夕食を作りながら子供に宿題と自作のドリルをやらせます。これがとにかく時間かかるんですよ! 家事も仕事もジムも私ががんばれば済む話だけど、子供の勉強はそういうわけにはいきませんから。ドタバタで勉強を終わらせてからご飯を食べさせると、もう息子は寝る時間。なんとか寝かしつけて、ちょっと楽器を触ってると夫が帰ってくるので、また食事のしたくをして」と一気に話した。

 夫・谷ぐちはレーベル運営に加えて介助の仕事をしている。「働く時間帯は日によりますが、早い時は朝6時、普通の日でも7時半の電車に乗って、帰ってくるのは終電かな」と話す。

 これが彼らの日常だ。仕事と子育てで余裕のない毎日に見える。だが2人はミュージシャンでもある。こんなスケジュールの中でいつ音楽活動をしているのだろうか? YUKARIは「共鳴を寝かしつけた後」、谷ぐちは「介助の仕事の後」と口をそろえる。

 本作監督の大石規湖によれば、2人は普段、1日3時間ほどしか寝ていないらしい。それでも時間は全く足りていない。「土日はライブが入ることが多いし、息子との時間も一応作っておきたい。休みは月に1日くらい」(谷ぐち)という多忙ぶりだ。

ライブ中の谷ぐち順。(C) 2017 MFP All Rights Reserved. 

 私は谷ぐちになぜ介助の仕事をしているのか尋ねてみた。家族との生活やバンド活動、レーベル運営に必要なお金を稼ぐなら、もっと効率の良い仕事があると思ったからだ。すると、子供のような顔をしながら「めちゃくちゃ好きだから」という答えが返ってきた。

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 「空いてる時間があるとつい介助の仕事を入れちゃうんですよ(笑)。現場は慢性的に人手不足だから、僕はいま4つの事業所に登録しています。でも本当はもっとやりたいくらい。今は24時間介助が必要な人の対応に加えて、視覚障害を持った小学生の子の送り迎えもしています。赤字になるからどこの事業所もやりたがらず、その子のお母さんも困っていたんです。そこで『俺が責任を持つ』と言って、所属先の一つに受けてもらいました」(谷ぐち)

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