マッキー牧元 エロいはうまい

<43>興奮といじらしさが止まらない!ふるふるとろとろ、オムライス/YOU

  • 文・写真 マッキー牧元
  • 2017年11月9日

オムライス

  • オムライス

  • ぷるぷる、とろとろのオムライス

  • タマゴサンドイッチ

 「ふるふる」。

 テーブルに置かれたオムライスが、小刻みに揺れている。いや正確には、チキンライスに乗ったオムレツが揺れている。

 置かれて10秒もたつのに、まだ揺れている。

 焦げもしわもない艶(つや)やかな肌を揺らすのは、緊張か、喜びの身震いか?

 真ん中辺りを一気に崩したい。

 いや端からそっと、崩さないように食べたい。

 今すぐ、口一杯にほおばりたい。

 いや人目を忍んで、その柔肌に口づけをしたい。

 相反する感情が去来する。

 食べる前に、こんなに興奮をさせるオムライスが、どこにあろうか。

 映画「タンポポ」では、オムレツの中央にナイフで切れ目を入れて開き、中の半熟が流れ出すという方式で、映画公開以来、このやり方をする店が多く増えた。しかし「YOU」のそれは、オムレツをのせたままである。

 悩み、興奮していても、事態は進展しない。

 スプーンを持ち、端から慎重に崩してみた。

 豊満な体にスプーンを刺し込めば、甘い湯気とともに半熟卵がとろりと流れ出る。

 オムレツの固まった表皮は、紙一枚の薄さで、中は均一な半熟状態となっている。

 見事な職人技である。これほどの仕上がりのオムレツを作れる人は、そうはいない。

 「ふるふる」。

 またオムレツが震える。ああ、いじらしい。

 いやいやをしているようであり、ようやく食べられて、喜んでいるようでもある。

 口に運ぶ。甘い香りが顔を包み、半熟になった卵が、とろりと舌に甘える。

 もし僕が女子高生だったら、「キャア!! 超ふるふるで、とろとろ」と、叫んでいるところである。

 オムレツというより卵のムースであり、その滑らかさがチキンライスの甘みと相まって、心を堕落させる。

 揺れ続けるオムライスは、こんな桃源郷を隠していたのか。

 「ふるふる」と揺れていたのは、最高な状態に仕上がったオムレツの、存在証明だったのである。

 そんなオムライスは、最後の一切れまで小刻みに揺れ、気持ちをじらし、魅了し続ける。

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    ◇

東銀座喫茶「YOU」
東京都中央区銀座4-13-17 高野ビル1F
普通の喫茶店でありながら、オムライスの名店として知られる。連日オムライスを求めて列ができ、大半の客はオムライスを注文するので、各テーブルにて美しきオムライスが「ふるふる」と揺れる様は、圧巻。ぜひこのオムライスは、真ん中からスプーンをささずに端から食べていただきたい。
またタマゴサンドイッチも隠れた名品。ふわりと仕上げた紡錘(ぼうすい)形の美しいオムレツを、温めたパンの間にそっと挟んである。食感を損なわないように、パンを上下からはつかまず、パンを左右に配置してそっとつかむのがいい。こうして食べると、まず唇に、ふんわりとオムレツがキスをする。次に玉子の甘みが広がって、パンの味が顔を出す。パンには薄く薄くバターとマヨネーズ。ケチャップなし。この上なくオムレツに肩入れしたサンドイッチである。

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PROFILE

マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問

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1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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