いしわたり淳治のWORD HUNT

マクドナルドのメニュー、UQモバイルのノリカCM、西野カナの歌詞……etc. いしわたり淳治 世に舞う注目フレーズを斬る

  • いしわたり淳治のWORD HUNT〈vol.1〉
  • 2017年11月30日

  

 Superflyの代表曲『愛をこめて花束を』をはじめ、600以上の楽曲を手がける作詞家のトップランナーであり、チャットモンチ-やGLIM SPANKYらを世に送り出した敏腕音楽プロデューサーでもある、いしわたり淳治。

 人気音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)ではロジカルな歌詞分析を披露。福山雅治は「(手の内が)バレている!」と驚嘆し、クリープハイプのフロントマン尾崎世界観は「されたくなる分析」と称賛した。

 そんな鋭い批評眼を持つ男が次に狙うのは“世間のコトバ”。歌詞やCMコピー、ドラマ・映画・書籍のタイトル、はやり言葉など、世に舞うあまたのフレーズを独自の視点で斬っていく。題して「いしわたり淳治のWORD HUNT」。コトバを巡る新連載がここに始まる。

いしわたり淳治 いま気になる6つのフレーズ

  

 この秋から始まった櫻井翔主演の学園ドラマ。このタイトル、素晴らしいと思う。この言葉を額面どおりに受け取ると、ただの自虐のように聞こえるのだけれど、これが学園ドラマのタイトルだと考えると生徒と同じ目線に立つすてきな教師という崇高な人間像がほんのりと浮かび上がって来るから不思議だ。

 なるほど。考えてみると、「〇〇しただけの〇〇」という言葉のロジックには、えたいの知れない崇高さが醸し出される魔法が宿っているのかもしれない。例えば、ふと立ち寄った創作料理屋に、「長く煮込んだだけの肉」なんてメニューがあったらどうだろう。暗に素材に自信がありますと言われている気がして、頼んでみたくなる気がする。


  

 マクドナルドが保存期限切れ鶏肉問題を起こして、どれくらい経っただろう。もう世間では「そういえばそんなこともあったね」くらいに風化している感じがする。あの問題以降、マクドナルドは「えぐち」だの「名前募集バーガー」だの、過剰に“ポップすぎるネーミング”の商品を投入して、ある種のカラ元気を振りまいていた感じがする。

 そして、ここへ来て「ヘーホンホヘホハイ」である。ポテトのホクホク感、アツアツ感、そして言葉のキャッチーさ、どれも表現できていて素晴らしい。でも、どうだろう。ちょっとオーバーランしているというか、もうそんなカラ元気は振りまかなくていいのでは? と思ってしまうのは私だけだろうか。頼みにくくしてどうする。という気がするのだ。果たしてこれで売り上げは伸びたのだろうか。と同時に、歯のないおじいちゃんなんかは今も昔も「ヘーホンホヘホハイ」と言っていただろうな、と思った。だからどうってことはない。そう思っただけだ。


  

 西野カナという人は天才だと思う。ラブソングというのは詰まるところ「愛してる」をどう表現するかの大喜利のようなものだ。その表現がとっぴ過ぎるとギャグのように聞こえてしまうし、だからといって置きにいった凡庸な表現では誰の心にも響かない。出来ることなら “まだ誰も使ったことのない意味のわかる表現”というのを見つけられるのが理想だ。

 でも、もし仮にいい表現が見つかったとしても、それがメロディーにうまく乗らなければ、努力は水の泡。それが作詞家の悲しいところだ。歌詞を書いたことのない人でも、この作業がいかに困難であるかは想像に難くないと思う。そして、彼女の新しいシングルのサビの歌詞を見て欲しい。「恋をしていると なぜか身体が 心で温もる」。素晴らしい。言われてすぐに意味がわかるのに、今までにはあまり聞いたことがない言い回し。この絶妙な温度感の言葉を、ずっと探し続け、第一線で活躍し続けている西野カナという人がどれだけすごいか、お分かりになるでしょうか。


  

 字面がすごいことになっている。衝撃的なコピー。日本語が壊れていて、もうわけがわからない。そこが逆に気になってしまうのだけれど、とはいえ、こういうインパクト重視の“ズルい”言葉の商品広告ばかりになってしまったら、もはや日本の広告界は完全にカオス。何が何の宣伝なのか分からなくなってしまうので、あまり賛成できないなとも思う。せめて、「借金まみれなのにまるで不老不死の気分」みたいなコピーの住宅ローンとか、本来の意味をもう少しかすっている文言にして欲しいなと思う。


  

 会話が途切れて、一瞬、場がシーンとなったとき、フランスではそう表現するのだという。へえー。なんて粋な言い回しだろう。さすがはフランス。なるほど。しゃべった話がイマイチ盛り上がらなかった時、「いま、天使が通ったね」なんて言えば、場が和むかもね、と一瞬思ったけど、いや待て。お前スベったくせに何をカッコつけとんねん、と、二度目の静寂が訪れて、ただただ傷口に塩を塗るだけに違いない。というわけで、私には使い道はないけれど、おしゃべり好きなのに話がつまらないドMな方がもしいたら、この言葉を使ってみてはいかがでしょう。


  

 飲食店のレジで「A」「B」どちらのセットメニューにするかを選んでいる藤原紀香が「ノリカ、A」とオーダーするCM。つまりは「乗り換え」のダジャレである。このダジャレがどう、という話ではない。見ていて、これって「ノリカ」という名前であれば誰でも成立するCMだなと、ふと思ったのだ。そして、そのすぐ後に、この世は「ノリカ=藤原紀香」であると気づいたのである。

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 「ノリカ」という名の有名人が彼女の他に思いつかないのだ。でも、「ノリカ」という名前は決して珍しい名前でもないし、実際私の知り合いにもいる。こんなにも一般的な名前のイメージを、ひとりの有名人が独占しているなんてケースは少ないのではないだろうか。例えば私は「ジュンジ」という名前だが、当然、芸能界にも「稲川」と「高田」の二大巨頭、偉大な先輩方がいらっしゃる。もし名前に独占禁止法があったら藤原紀香はそれに違反している。それくらいに、彼女はノリカの中のノリカなのだと思った。


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PROFILE

いしわたり淳治(イシワタリ・ジュンジ)

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当し、アルバム7枚、シングル15枚を発表。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、Little Glee Monster、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。さまざまな音楽ジャンルを横断しながら現在までに600曲以上の楽曲を手掛ける。

BOOK

『次の突き当たりをまっすぐ』
筑摩書房/1400円(税別) いしわたり淳治 著

ミニマルな構成にシャープな風刺と驚きの結末が仕掛けられた“ことば”のエンターテイメント。鮮やかな幕切れの連続が読者を虜にする。20万部を突破した前作『うれしい悲鳴をあげてくれ』から10年。“歌詞解説”で話題沸騰の作詞家・いしわたり淳治による筑摩書房ウェブマガジン「webちくま」の連載「短短小説」に書下ろし作品を加えた28編が待望の書籍化。

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