ファン待望のオリジナル作品 音楽プロデューサーPUNPEEの飽くなきクオリティー追求

  • 2017年11月28日

PUNPEE(パンピー)/ヒップホップMC、トラックメイカー、DJ。GAPPERと実弟S.L.A.C.K.からなるユニット「PSG」や、原島“ど真ん中”宙芳とのDJコンビ「板橋兄弟」のメンバーとしての活動で知られる。2002年に板橋録音クラブとして始動。09年にPSGでアルバム・デビュー。以降、ミックスCD制作や客演参加などを展開。近年、「光」のオフィシャル・リミックスを担当するなど、宇多田ヒカル周辺でも話題になった。17年に初のソロ・アルバム『MODERN TIMES』をリリース。

 PUNPEEの名前を世に広めたもののひとつは、2016年12月9日に配信された宇多田ヒカルのネットイベント「30代はほどほど。」だろう。彼はDJとして番組に参加し、この日のために制作したとびきりかっこいい宇多田ヒカルのリミックス音源を初披露してファンの度肝を抜いた。

 PUNPEEはいつも観客をあっと驚かせる仕掛けをどこかに潜ませている。例えば「FUJI ROCK FESTIVAL '17」では、往年のフジロッカーたちもよく知る過去のヘッドライナーアーティストたちの音源で作ったトラックを用意してきた。DJの現場でもその場のためだけに作った音源をプレーしたりもしている。

 自らを“一般ピープル”の俗語であるPUNPEE(パンピー)と名乗っているにもかかわらず、ひょうひょうと奇想天外なことをする。私はそんな彼が本当にかっこいいと思っていた。今年10月4日にリリースされた1stアルバム「MODERN TIMES」は、PUNPEEが歩んで来たここまでの集大成と言える内容だ。この機会に、彼の楽曲制作に対するこだわりを聞いてみたいと思った。

  

直感的、堅実、妥協なし PUNPEEの真摯(しんし)な制作スタンス

“君の閉塞(へいそく)的な脳みそに 少しだけ微量の閃光(せんこう)が差せば全て変わるから

それはRenaissance, Renaissanceお目にかかるよ

君のRenaissance じゃあさ 作り出そう ”(「Renaissance」/PUNPEE)

 アルバム「MORDEN TIMES」に「Renaissance」という収録曲がある。PUNPEEのクリエーティブワークについて歌った作品だ。

 「ヒップホップは他の音楽と違って、事故みたいなひらめきが重要なんですよ。例えば、NASというラッパーの『It Ain't Hard to Tell』という曲は、途中で調子っぱずれなブラスの音が急に入る。たぶんあれはトラックメーカーが作曲中にいろいろ試行錯誤していて偶然生まれたものなんです。楽譜が読めるような普通の音楽家なら、あんな展開は昔は思いつかなかったと思います。けど『It Ain't Hard to Tell』はその唐突なブラスがかっこいい。そういう想定外のアイデアこそがヒップホップの魅力のひとつなんです。一見突拍子もないようなひらめきが曲を劇的に良くすることがある」

 彼は2000年代半ばからアンダーグラウンドのヒップホップシーンで、プロデューサー、ゲストラッパーとしてオリジナリティーの高い楽曲を数多く発表してきた。多作にして駄作なし。知らないアーティストでも、PUNPEEと組むなら何か面白いことが起こるだろう、と思わせてくれた。PUNPEEのアイデアはいつもユニークだった。

 「それは、いつもめちゃくちゃ下調べをしているからかもしれないですね。一緒にやる人がどういうスタイルの音楽をやってきて、どんな活動をしてきて、どんなアーティストなのか。可能な限りインプットしてから制作します。それくらい丁寧にやらないと良いものは作れない。あとやるからには、俺もその仕事から何かを得たいんですよ。だからいつも1曲作るのに、ものすごく時間がかかっちゃうんですよね」

  

 そう言ってPUNPEEは苦笑した。彼の制作は直感的でありつつ同時に堅実でもあった。そして良い曲を作るためには絶対に妥協しない。PUNPEEがゲストラッパーとして参加した曲「夜を使いはたして」の制作エピソードは、彼のこだわりの一端を感じさせるものだった。

 「『夜を使いはたして』はSTUTSというトラックメーカーのアルバム『PUSHIN’』の収録曲なんですけど、俺があの曲の歌詞をなかなか書けなかったせいでアルバムの発売日を延期させてしまって……。『SUNRIZE』とか『DAWN』みたいな仮タイトルのかっこいいトラックだったけど、なかなか良い歌詞が浮かばなかった。それでいろいろ考えているうちに『夜を使いはたして』というワードが出てきて。最初は歌詞の一部でしかなかったんだけど、言葉のインパクトがすごいからタイトルにしたら面白いと思ったんです。STUTSはそれまで収録曲のタイトルをすべて英語で統一していたから最初は迷って、粘って説得しちゃいました(笑)」

 PUNPEEの制作スタイルはいつもこんな感じらしい。むちゃくちゃだが、『夜を使いはたして』はSTUTS、PUNPEEそれぞれにとって代表曲となった。そんな調子だからPUNPEEには常にオファーが殺到している。

 「たぶん日本のヒップホップに関しては、ほとんどのクルーと色々関わらせてもらった気がする。もちろん直接みんなとやってるわけじゃないけど、クルーの誰かの作品は何かしら手がけたと思います。面白そうな話はどんどん引き受けちゃってたから、自分のアルバムを作る時間なんてまったくなかった」

  

オリジナルアルバムは「自分の好きなものの最大公約数」

 PUNPEEが素晴らしい楽曲を量産すると、当然ファンは「オリジナル作品を聴きたい」と騒ぎ出す。だが、PUNPEEはここでも自らの姿勢を崩さない。

 「実はオリジナルアルバムを出してないことに対してそこまで重く考えてなかった。周りからの期待はもちろん感じていたけど、いつか出せればいいやって。だけど宇多田ヒカルさんとも共演して、次に何をしようか考えたら『やっぱりアルバムかな』とも思った。制作に入ったのは2017年の1月くらい。最初はなかなか自分らしいアイデアが出てこなくて……。曲を作って並べるだけなら誰でもできる。そうじゃなくて、映画やコミックスが大好きな自分らしい作品にしたかった。でも『作れねー』と悩むというより、ずっとヒントを探して歩いてたような感じでしたね」

  

アルバム制作の糸口となったのは、おじいさんになったPUNPEEが昔を思い出して語るというものだった。

 「俺みたいに、なかなかアルバムを出さなかったラッパーが『やっと登場したぜ! これからカマすぜ』『俺が来たからにはもう大丈夫』みたいなこと言うのって、ありきたりすぎて寒いと思ったんですよ。それでいろいろ考えていたら、アルバムの冒頭でおじいさんになった俺が昔を懐かしむというアイデアが浮かんで。ようやく俺らしい落とし所を見つけた感じがしました。それまで断片的だったものがつながったというか。ストーリー性もあって、視覚的にも想像しやすい内容で、かつ時間の概念も入っている。自分の好きなものの最大公約数を表現するアイデアが見つかった感覚でした」

 「MORDEN TIMES」にはPUNPEEのこだわりがこれでもかとばかりに詰め込まれている。だが散らかった印象はなく、むしろ編集力の高さを感じさせる。

 「そこは今までいろんな人と曲を作ってきた経験のたまものだと思います。言いたいことややりたいことをみんなに聴いてもらうにはどうすればいいか、そこは常に工夫しようとしています。やっぱり良い曲を作ることが一番大事だと思う。日本ではサビをわかりやすくするためにシンガーを連れて来ると、『ヒップホップ的に邪道』とか言われるけど、そうは思わない。海外では分業で制作するなんて当たり前だし、聴きやすくするためにいろんな工夫をしている。日本でヒップホップが市民権を得る一番の近道は、みんなが良い音楽を作るためにもっと努力することだと思う」

 PUNPEEはなぜそこまで真摯(しんし)に音楽制作と向き合うのだろうか? スケジュールを優先して、わからないように手抜きすることなんて当たり前の世の中なのに。

 「みんなに楽しんでもらえることを考えるのが好きなんですよ。例えばめちゃめちゃ忙しいのに、友達にしか配らないミックスCD用にオリジナル音源を作ったり、そのために1万円くらいするレアなレコードを買ったりとか(笑)。バカみたいだけど、頑張って凝った作りにすると友達はちょっと楽しんでくれるんですよ。それが人伝いに広がって行くのが好き」

  

順風満帆なクリエーター人生。PUNPEEはやはり世界を見据えているのだろうと思った。だが……。

 「いや、先のことは何も考えてない。毎回ベストを尽くしたい。将来設計とかなんにもないし。あとのことはあとで考えればいいやって感じ。お金もすぐ使っちゃうから、全然貯金できない。本を買ったり、PVで着たい服を買ったり、3万円くらいする変な模型を買ったり。この前は自分がメインじゃないPVのために8万円くらい自腹を切りました(笑)」

 PUNPEEが笑いながらそう言うと、音楽レーベル・SUMMITの増田岳哉代表も「PUNPEEはPV撮影の時にいろんな小物を持参してくれるんですよ。取材のテーマに合わせてレアなマンガを自発的に持ってきてくれたこともあったし」と付け加える。

 「毎回ベストを尽くす」という言葉を聞いて、私は襟を正されたような気持ちになった。なぜなら人生に明日がある保証なんてどこにもないからだ。極端な話だが、次の瞬間に死んでしまう可能性は誰にだってある。人生には今しかない。

 PUNPEEはミュージシャンで、好きなことをしているからそんなふうにやれるんだ、と思う人もいるかもしれない。そんな質問をぶつけてみると、彼が以前共演した意外な人物の発言を引用してこう答えてくれた。

 「前に加山雄三さんの『お嫁においで』という曲をリミックスしたんですよ。その時、加山さんが言っていたのは、『俺はものを楽しむための努力もするね』ってこと。加山さんって多趣味で有名ですよね。『バイオハザード』っていうゲームでは国内の記録を持っているし、鉄道の音とかも大好きらしいんですよ。今は太陽エネルギーで動く船を作っているって言っていました。あの人、船の設計もできるらしくて(笑)。でもそれも楽しむために努力しているからなんですよね。全然興味ないことでも、ちゃんと背景を調べたりすると見方が変わって楽しくなることがあるし」

 もしも今が楽しくなければ、楽しむために努力する。確かにおっくうだけど、そこにはもしかしたら、自分でも想像していなかったような楽しさが隠れているかもしれない。ひょうひょうとすごいことをしているように見える人も、実は影で努力している。灰色の世界に閃(ひらめ)きを与えるのは自分自身。天才なんて概念は幻想なのかもしれない。

(文・ライター 宮崎敬太、撮影・アカセユキ)

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