マッキー牧元 エロいはうまい

<45>“とろり”と“はらり”恋に落ちる、上海蟹味噌がけ炒飯/麻布長江 香福筵

  • 文・写真 マッキー牧元
  • 2017年12月7日

上海蟹味噌がけ炒飯

  • 上海蟹味噌がけ炒飯

  • エビたっぷり春巻き

 上海蟹(がに)は高い。

 年々値上がりして、あの小さな蟹が一杯安くとも4千円はする。

 それでも人は、この季節になると、上海蟹を食べようと奔走する。

 上海蟹の魅力は、肉よりミソや卵にある。

 少ししかない身は、かすかな甘みを持つだけだが、ミソや卵には人を熱狂させるだけの味わいがある。

 10月から12月末までの二カ月間、好きな人は(お金持ちは)数十杯の蟹を食べるという。

 普段は冷静沈着で、上品な方も、チュパチュパ音を立てて蟹をかみ潰す。

 さて、そんな上海蟹を手軽に食べようと思うと、僕はここに行く。

 メニューを開くと、姿蒸しの上海蟹、上海蟹味噌(みそ)で煮込んだフカヒレ、上海蟹味噌小籠包、上海蟹の紹興酒漬けなどが誘惑するが、まっしぐらに頼むのが「上海蟹味噌がけ炒飯(チャーハン)」である。

 やがて湯気を立てて現れたそれは、茶色の器の中で、黄色いミソのソースが誇らしげに輝いて、炒飯にかけられている。

 そして所々にオレンジ色の卵が点在している。

 ソースの下にうっすらと見える、炒飯がいじらしい。

 たまらず口に運べば、とろりと蟹味噌アンが舌に流れる。

 炒飯がはらりと崩れる。

 この“とろり”と“はらり”という、対比的食感の相互作用がいい。

 濃厚な蟹味噌の味が広がり、そこに炒飯の卵の甘みが加わる。

 そして丸いミソの旨味は、口の中でさらに膨らむ。

「ううむ」とうなる。

 圧倒的なうまみなのだが、優しい。

 口腔(こうくう)内をなめ回すようにして消えてゆく蟹味噌に、うっとりとなる。

 これは恋かもしれない。

 蟹味噌にディープキスをされて、恋に落ちたのかもしれない。

 そう思うほど、濃密な時間を与えてくれる炒飯なのである。

 できれば昼下がり、時間を気にしないでゆっくり食べたい。

 そうしてこそ、恋は成就する。

    ◇

麻布長江 香福筵
東京都港区西麻布1-13-14
03-3796-7835
http://www.azabuchoko.jp/

[PR]

 人気四川料理店。四川料理の名菜だけでなく、春巻きなど点心類も素晴らしい。「上海蟹味噌がけ炒飯」は2600円。12月まで。そのほか「ふんわり卵乗せ上海蟹味噌がけご飯」も逸品。

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問

写真

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

今、あなたにオススメ

Pickup!