大御所シェフのいつものごはん

イタリアンの重鎮が太鼓判 美味なる「ラーメン界のアルデンテ」

  • 文 畑中三応子
  • 2017年12月21日

  

「世界一グルメな国」と呼ばれるようになった日本。このまれにみる豊かな外食文化を支えてきたベテラン料理人は普段、どんなお店でどんな食事を楽しんでいるのだろうか。卓越した技術・味覚・知識を持つプロフェッショナルの日常食は、やっぱりちょっと違うのである。

今回の大御所シェフ

  

原 宏治さん
 日本橋浜町「アルポンテ」オーナーシェフ。祖母が千葉県庁前で茶そばの店をやっていたこともあって、小さな頃から料理好き。フランス料理を6年間みっちり修業後、フランス研修の帰りにローマで食べたパスタに感激。昼夜コースで食べてもあきないおいしさと、胃もたれしない軽さに、これからはイタリア料理の時代だと転向を決意した。西麻布の名店「アルポルト」副シェフを3年間務め、90年「アルポンテ」オープン。イタリア料理協会副会長として、さらなる普及活動と後進の指導にも熱心に取り組んでいる。

オーダーは「すべてお任せ」が正解? 主人の心技を堪能したい店

  

 かつて粋で華やかな料亭文化が花開いた浜町界隈に、イタリア料理を根付かせたのが「アルポンテ」。飲食店同士の横のつながりが強いこの町で、原さんが足しげく通うのは、やっぱり「アルデンテ」がキーワードになってくる。

 店の賄い料理はほぼ100%パスタだが、それでも仕事帰りや仕事の合間にほしくなるのは、アルデンテの食感。そんな原さんが「ラーメン界のアルデンテ」と太鼓判を押すのが、博多ラーメンの「しばらく」だ。

 博多で昭和28年創業という老舗で、本店以来の長い付き合い。東京で唯一ののれん分けが、偶然にも2002年、自分の店のすぐ近所にできた。

 そのスープは、「豚骨だけどあっさりしている。骨を傷めつけて白いエキスを出しきる“長浜系”には骨の酸味やえぐみが出るのに対し、こちらは脂やコラーゲンすべてが水分に乳化(水と油がよく混ざり合った状態)している。純度の高いエキスに満ち、体にもよい」と、さすがプロならではの解説。この「乳化」こそが、口当たりのなめらかさを生むテクニックだ。

オリジナルサイズのラーメン一番700円に、玉子100円をトッピング

  

 そして肝心の麺。材料は九州産小麦粉を中心に、26番(1.15㎜)という細さの超低加水麺(水分の含有率が低い麺)だ。

 博多ラーメンの店は、麺のかたさを注文できるのがマニアの心を揺さぶる。

「しばらく」の場合、いちばんかたい「粉落とし(ハリガネ)」のゆで時間は12〜13秒、「バリかた」が15秒、「かため」が20秒、普通でも32〜33秒という短さだから、どの段階でもアルデンテ。むろんタイマーは使わず、手の感触で計る。

 しかし、かたさはあえて指定しないほうが正解と言っておこう。客の年齢や雰囲気、性別などから読み取って、ベストと思われる具合にゆで上げてくれるからだ。

 食感のブレを抑えるため、丼は小ぶり。大きいと丼の中で麺がよく動いてスープを吸収するスピードが一定でなくなり、味のブレにもつながってしまうからだという。口をつけてスープを飲む人がやけどしないよう、盛りつけ前に丼を温めるのはスープラインまで、という入念さには感心した。

 こんな店では、すべてをお任せして、主人の心技を堪能したほうがいい。

「アルデンテ」を長くキープ プロの食べ方

  

 原さんは、まずスープを一口、「やっぱり、うまい」と一言。

 やおら麺を下から勢いよくすくって、スープ上に引き上げた。こうすると、アルデンテのキープ時間が長くなるそうだ。これまた、さすがである。

 途中から、すりゴマを1杯。博多ラーメンにすりゴマを合わせたのは、「しばらく」が元祖だ。

 肩ロースを使ったチャーシューは、とろけるように柔らかく、シャキッとしたキクラゲとともに、麺の食感との違いが鮮やかだ。

  

 替え玉は最初のよりやや硬めにゆでてもらい、「かえし(醤油ダレ)」を少し足して、紅生姜も加えて食感と味の変化を楽しむそう。残ったスープにご飯を入れて、しめにすることもある。

 スープ室を見せてもらうと、ステンレスの大きな角鍋が4つ並んでいる。下ゆでした豚骨を9時間ずつ、鍋から鍋に移しながら計36時間煮込む。豚骨の「上質なくさみ」を生かすため、材料は宮崎産の銘柄豚に厳選し、使うのは水だけ。他の材料はいっさい入れない。

 驚いたのは、スープ、かえしの両方とも、創業時からの「継ぎ足し」なことだ。若いスープだけでは味が足りないため、最終段階まで煮込んだものを必ず残しておき、翌日の最終段階のものと合わせる。かえしはウナギのタレと同様、継ぎ足しだからこそ、本店から受け継いだ創業以来の変わらない味が守られている。

 染付の丼は、鍋島焼の特注品。底には店名の由来になった歌舞伎十八番、「暫」のくま取りがひそんでいる。スープを飲み干した人だけのお楽しみだ。

元“隠れメニュー”のおでん、のど越し絶妙なワンタンに舌鼓

  

 深夜まで営業の店だから、酒のさかなにも気を抜けない。おでんは隠れメニューだったが、リクエストが多く、季節限定の表メニューに昇格した。

 味の要は、牛アキレス。アクを丁寧に取りながらトロトロになるまで煮込み、そのスープで他の材料を煮る。牛のよい香りが全体に行き渡り、まるで牛コンソメ煮のように澄んだ味わいだ。

 とりわけ大根は下ゆで後に一晩氷水で締めるので煮崩れがなく、芯まで味がしみて美味しい。

  

 水ワンタンは、ひらひらの皮を楽しめるよう、包み方を工夫している。原さんに食べ方を指南してもらうと、「入念に湯を切ってレンゲにすくい、最初はポン酢1滴だけで、途中から柚コショウの刺激を加えると最後まであきない」。

  

 するっとしたのど越しがたまらない。これは日本独自な「のどで食べる」パスタではないだろうか。

作る側、食べる側ともに真剣 店と客の幸せな出会い

原シェフと料理談義に花を咲かせる「しばらく」店長の熊谷正司さん

 ご当地ラーメンには、「職人はその土地出身でなければならない」という不文律が存在する。博多生まれではない店長の熊谷正司さんからは、それだから余計にかもしれないが、正統派の博多ラーメン継承に対する気迫がひしひしと伝わってくる。

「原シェフの食べ方からは、たくさんのことを教わります」と謙虚だが、すべてに真剣すぎるほど真剣に作る熊谷さんだから、原さんの食べ方も自然と真剣になるのだろう。

 それを「客と店との真剣勝負」と称することもあるが、おいしく食べようとする人と、おいしく食べてもらおうとする人との幸せな出会いがここにある。作る人と食べる人の関係性はかくありたい。

(撮影・小島マサヒロ)

              ◇◇◇

■PROFILE
畑中三応子(はたなか・みおこ)
編集者、ライター、フードジャーナリスト。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)の元編集長。料理本を幅広く手がけるかたわら、流行食関連の研究や執筆も行う。著書に『ファッションフード、あります。――はやりの食べ物クロニクル 1970-2010』(紀伊國屋書店)、『カリスマフード 肉・乳・米と日本人』(春秋社)など。

■店舗情報
博多ラーメン しばらく 日本橋店
東京都中央区日本橋蛎殻町2−14−4
半蔵門線 水天宮前駅5番出口 徒歩3分、日比谷線 人形町駅A1出口 徒歩5分
03-3665-0088
平日:11:00-25:00 日・祝:11:00-20:00
不定休
http://www.shibaraku.jpn.com/

■大御所シェフのお店
リストランテ アルポンテ
東京都中央区日本橋浜町3-3-1 トルナーレ日本橋浜町2F
都営新宿線・浜町駅、半蔵門線・水天宮前駅ともに徒歩7分
03-3666-4499
ランチタイム:11:30-15:00 (13:30 ラストオーダー)
ディナータイム:17:30-23:00 (21:30 ラストオーダー)
日曜日定休
https://www.alponte.jp/

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ

Pickup!