私の一枚

「もう一人の父」と目指す三度目のオリンピック 八木かなえ

  • 2017年12月25日

ロンドン・オリンピックでの競技終了後、恩師の横山信仁先生と

  • 2017年11月の世界選手権で6位入賞。東京オリンピックへ向け成長を続ける八木さん

  • ALSOKウエイトリフティング部の仲間たちと

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 初めてのオリンピックは2012年のロンドン。当時は金沢学院大学の2年生で、ウエイトリフティングを始めてまだ5年目でした。これは競技が終わったあと、ロンドンで撮った写真。一緒に写っているのは、高校の部活の顧問であり、卒業後は私を指導するために単身赴任で一緒に金沢に来て大学のウエイトリフティング部のコーチになった横山信仁先生です。

 メディアの方々にはオリンピック行きが決まる前から注目選手だと言っていただいていましたが、実際はまだまだ力が足りないって、私自身も横山先生もよくわかっていたんです。だから代表に選ばれた時、先生はそれまで見たことがないような笑顔で喜んでくれました。もう、見ていて訳がわからないぐらい(笑)。結果は12位でしたが、無事に終わってお互い解放されたような表情に見えますね。

 先生に初めて会ったのは、中学3年生の進路見学で須磨友が丘高校を訪ねた時です。ウエイトリフティングの体験をしている私を先生が見て「センスがある。絶対に全国大会に行ける。連れていってあげるよ」と言って下さったので、「それならやってみようかな」って。競技のことは何も知りませんでした。そもそもオリンピックにウエイトリフティング競技があることすら知りませんでしたから。

 でも瞬間的に「上げるだけでいいんだ!」って思っちゃったんです。5歳からの10年間は器械体操をやっていましたが、難度の高い複雑な技を決めなければ勝てない体操競技に比べ、その時の私にはとても単純そうな競技に思えました。帰って両親に話したら、母は「意外と向いてるんじゃない?」って言ってくれましたけど、父は「え? え?」みたいな感じでしたね(笑)。

 ウエイトリフティングは階級制の競技で、女子の最軽量は48kg。でも入部当時の私は40kg前半しかありませんでしたから、先生に「どんどん食べて体重を増やせ」って言われて、それがうれしくて。器械体操の時にはあんなに我慢していたのに、「本当に食べていいの?」って。それで食欲が爆発して、高校の帰りや友達と遊ぶ時にはアイスクリームばっかり食べてました(笑)。だんだん筋肉もついてきて、ちょっと恥ずかしいなあとも思いましたけど、それも最初だけだったかな。勝っていくとやっぱり楽しいですからね。

 ただ、食べていいということ以外は生活面も含めてかなり厳しい先生で、お父さんがもう一人いる感じ。いろいろ言われすぎて、心の中で日々「モー」みたいな(笑)。プライベートなことまで知りたがるので、その辺はうまくはぐらかしたり。ストレスがたまった時は同じクラブの子とボウリングに行ったりして発散しました。あ、私、ウエイトリフティングをやってますけど、みなさんと同じで、ボウリングすると筋肉痛になるんですよ(笑)。

 でも、先生との出会いはやっぱり縁だったんだと思います。指導者が競技者と一緒に大学に移籍するなんてあまりないと思いますけど、私の高校卒業と先生の定年退職が同じ年だったことや、2人を同時に受け入れてくれる大学に出会えたことなど、いろんな縁やタイミングが重なって実現できました。当時はよくわかっていませんでしたけど、先生も家族から離れて知らない土地に住む決断をしたわけですから、今思えば感謝しかありません。

 社会人になってもうすぐ2年。練習のメニューは自分で決めるようになり、先生からいろいろと言われることもすっかり減りました。最近はもうプライベートを聞かれてはぐらかすことすらしなくなりましたね(笑)。でも、要所要所で的確にアドバイスをくれる、今も私にとって欠かせない存在です。2020年の東京オリンピックは、先生も私も集大成のつもり。「悔いのないように準備しよう」と話し合っています。そのためにも、それまでの一試合一試合を大事にして、今のうちにベスト記録を上げておきたい。あと3年あると思うと甘えが出ちゃうので、一つひとつ、目の前の試合でいい記録を出すことを考えています。それが東京でのメダルにつながって、初めてオリンピック行きが決まった時のように訳がわからないぐらい喜んでいる先生の顔がまた見られたら最高ですね。

    ◇

やぎ・かなえ 1992年兵庫県生まれ。5歳から器械体操を始め、中学時代には「全日本ジュニア選手権(2部)」の個人総合で7位入賞。2008年兵庫県立須磨友が丘高校入学と同時にウエイトリフティングに転向した。金沢学院大学入学後、2012年の全日本選手権53kg級で初優勝。同年のロンドン・オリンピックの代表に選ばれ同級12位。16年のリオデジャネイロ・オリンピックでは同級6位入賞を果たす。翌13年、ロシア・カザンで開催されたユニバーシアード53kg級で優勝。2015年、ALSOK入社。

◆ALSOKウエイトリフティング部は2014年に創部。八木選手のほか、63kg級で八木選手と共にリオデジャネイロ・オリンピックに出場した松本潮霞(なみか)選手、男子77kg級で全日本選手権優勝2回の笠井武広選手、男子85kg級で全日本選手権優勝4回の山本俊樹選手、男子105kg級で現在全日本選手権3連覇中の持田龍之輔選手の5名が所属している。

(聞き手・髙橋晃浩)

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