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キッチハイクが「みんなで食べる」を取り戻す! 『人類総ネコ化時代』に動き出した二人

  • 2018年1月10日

  

 ミレニアル世代と呼ばれる人たちが大切にするものを探すインタビュー企画の第2弾。今回は、料理をする人と、それを食べる人を結ぶマッチングサイト『キッチハイク』を運営する株式会社キッチハイク共同代表の山本雅也さん(32歳)と藤崎祥見さん(36歳)に会いに行った。

 キッチハイクは、プロの料理人ではなく、料理をつくりたい一般の人『COOK』と、それを食べたい人『HIKER』をマッチングするサービスで、2013年5月のサイトオープンから累計1万人をマッチングしている。モノではなく、食という文化を扱うサービスの立ち上げには、どんな思いと狙いがあったのだろうか。

株式会社キッチハイク共同代表 左:藤崎祥見さん 右:山本雅也さん

“検証”のため、世界一周バックパッカーの旅に出る

 二人は共通の友人を通じて知り合い、話すうちに“食”を通じて人と人を繋(つな)げるサービスを思いつく。現代の食事は、栄養とカロリーの摂取という目的が重視されすぎているのではないか、忘れられている食の大切な側面があるのではないかという疑問が出発点だった。

 「初めて雅也に会ったとき、僕が当時感じていた社会への不満を、彼も同じように持っていると感じて、すぐに意気投合しました。彼と考えた『食で人を繋げる』仕組みができたら、社会はもっと楽しくなると納得できたし、彼と一緒なら世界をより良い方向に変えていけると思いました。僕らが考えたことを実現する仕組みをインターネットのマッチングサイトにしたのは、今がスタートアップビジネスの力で世界が変えられる時代だからです。少し前の時代なら、本や音楽を発表するか、詩を書いていたかもしれません」(藤崎さん)

  

 二人は、食で人を繋げる仕組みをつくる会社設立を決意するが、ここで山本さんは、本当に食で人と人は繋がれるのかを“検証”するために、450日かけて世界一周バックパッカーの旅に出た。世界中で、一般家庭に突撃して料理を食べさせてもらう旅を続けた結果、「食は知らない人同士を繋げることができるし、国も料理の種類も垣根がない」(山本さん)ことが確認できた。こうして2013年5月にキッチハイクのWebサービスがリリースされた。

『人類総ネコ化時代』は、ひとつの組織に人生を捧げない

 会社設立の前、山本さんは博報堂DYメディアパートナーズに、藤崎さんは野村総合研究所に在籍していた。2人とも5年勤めた会社を退職してキッチハイクを立ち上げたが、会社を辞めることに不安はなかったのだろうか。

 「会社にいるから人生安泰という考えは全くありませんでした。そう考えている人がいたら『目を覚まして! どこにいても安泰は無いよ』と伝えたいです。大学卒業後に就職して、終身雇用で定年まで働いて、年金で老後を過ごすといったレールを歩くのも一つの選択です。一方で、複数の仕事をしながら多様なコミュニティーに所属して、様々な場所に点在して居心地よく暮らす、というライフスタイルが出てきた。僕はそれを『人類総ネコ化時代』と呼んでいまして(笑)、人がネコのように気の向くまま好きなように生きられる時代が来ていると思う。一つの組織に人生を捧げる生き方を選ばない人は増えてくると思います」(山本さん)

  

国籍や人種は「ラベル」でしかない

 もともとキッチハイクは、旅先で『COOK』を探すサービスだったが、2016年からは、日常の食事をマッチングするサービスへと移行した。

 「サイトをオープンした当初は、自分とは違う人と繋がるサービスでしたが、国籍や言語の違いはラベルが違うだけだと気が付きました。『違う人と繋がる』という発想が小さく縮んだ考え方のように感じて、どんな人とでもどんな料理でも繋がるサービスに変えました。一部の利用者は、すでに日常の食事をキッチハイクで探すという使い方をしていたし、それが今の社会に求められている構造だと感じたのも理由のひとつです。この変更によって、キッチハイクはグローバルスタンダードな構造になったと思います」(山本さん)

  

東東京にある“リアリティー”

 キッチハイクのオフィスがあるのは、東上野の元工場をリノベーションしたビル。IT企業のスタートアップというと渋谷や新宿など、東京都心の西側にオフィスを置くイメージがあるが、キッチハイクは東東京を選んだ。

 「東京は東側のほうが、道に本物があるというか、人が生き生きと暮らしている気がします。例えば、新宿や六本木など東京都心の西側でイベントをやって人を集めても、それはネットリテラシーの高い人たちがたまたまその場に居合わせる特別な集まりになります。一方で、東側のイベントに人が集まると、暮らしと地続きでキッチハイクのサービスが浸透していると感じられます。キッチハイクは、暮らしをつくるサービスを目指しているので、ここにオフィスを置くのは必然でした」(藤崎さん)

 オフィスにはキッチンがあり、そこに『COOK』と『HIKER』が集まってイベントを行うこともある。日常的にサービスの利用者と接するメリットのひとつは、利用者から絶えずフィードバックを得ることで、より早くサービスが洗練されていくことだ。

キッチハイクが入るビルの1階はリノベーション・家具の設計施工会社の事務所と工房がある。「彼らのビルの作り込み方はユニークで、自由なアイディアを具現化していることに共感しました。こういう場のほうが、僕たちのクリエイティビティも生まれやすいと思って、ここに決めました」(山本さん)

躯体(くたい)があらわになった空間は、無骨なかっこよさがある。席はフリーアドレスで、各自好きな場所で仕事をする

キッチハイク名物のまかない。ランチは、社員とインターンが毎日交代でつくってみんなで食べる。「チームでごはんを食べるのはとても心地が良いし、これは未来の暮らしの断片だと思っています。僕たちが食で繋がる暮らしを実践して、それをサービスでも実践しています」(藤崎さん)
写真提供:株式会社キッチハイク

キッチハイクオフィス内にあるキッチン。「社内にキッチンがあることで何が生まれるのか見てみたかった」と藤崎さん

“孤食”の無い時代を目指す

 2017年10月、キッチハイクはMistletoeやメルカリなどから総額2億円の資金調達を実施したと発表した。これから何を目指すのか?

 「最近のキッチハイクは、料理をつくる人への興味だけでなく、参加者同士の交流も交ざった『みんなでごはんを食べるコミュニティ』になってきています。僕たちはそれを『みん食』と名付けて、価値化していこうとしています。キッチハイクは『何を食べるか』ではなく、『美味しく食べること』を大切にしてきました。料理をつくった人と一緒に食べるとおいしいし、楽しい。実は、一人で食事をするようになったのは地球上の歴史でここ100年くらいに起きた珍しい状態です。でも、このままだと孤食が増える不自然な方向に向かっていく。僕たちはこれから、『みん食』を当たり前の状態にしたい。それは、今の事業を拡大することで実現できると思っています。その先に、僕たちが起業当時に感じていた社会への不満が解消した、楽しい社会があると思います」

  

 おそらく、食事はみんなで食べたほうが楽しく、美味しいことは誰もが実体験として知っている。しかし、現実には孤食の流れは加速しているように感じる。ひとつの理想に現実を近づけるため、サービスを具体化したキッチハイクの二人。その思いの強さと行動力は、かつて当たり前だった食事風景を、新しい形でよみがえらせるかもしれない。

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文:石川歩 写真:野呂美穂

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