アメリカ史上最大級のデトロイト暴動、衝撃の映画『デトロイト』を観るべき理由[PR]

  • 2018年1月26日

  

『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』キャスリン・ビグロー監督最新作『デトロイト』

 女性としてオスカー史上初の監督賞を受賞したビグロー監督の最新作は、衝撃の実話を描いた話題作『デトロイト』。

 1月26日(金)からの公開を記念し、姜尚中さん、パトリック・ハーランさん、三浦瑠麗さんに「なぜこの映画を今観(み)るべきなのか」を伺った。

『デトロイト』はアメリカの縮図
政治学者 姜尚中さん

 暴動によって戦場と化したデトロイト。本作はその極限下で繰り広げられた人種差別と虐殺を描いたサスペンス劇になっており、人間の弱さを余すところなくあぶり出しています。確かに残酷でバイオレンスな映画なのですが、むごたらしいというイメージはありません。実際の騒乱からグッと人の内面に入り、そこから人種問題が浮かび上がる構成も見事だし、キャラクターが黒人白人という単純なカテゴリーで分かれておらず、一人ひとりのポジションにおける葛藤を繊細に描いている群像劇に仕上がっています。あくまで記録に忠実に細部を撮っているので、安っぽいヒューマニズムもなく、エンタメ映画としても見事に成立していると思いました。

  

 それにしてもなぜ黒人が白人警官からここまで理不尽な尋問を受けなければならないのか。おそらく白人警官は職務だけではない何かに突き動かされている。それは不安と妄想です。白人にもヒエラルキーがあり、余裕のない下級層の白人たちは常に不安を抱えている。そのため白人対黒人となった時、自分は白人側だというささやかな自尊心によって、黒人に対して威圧的な行動に出てしまうわけです。本作を観るとアメリカがいかに重層的な差別問題を抱える社会かが分かります。

 また、このデトロイト暴動で起きたことは今なお続いており、昨年だけでもかなりの黒人が白人警官に射殺されています。まさに『デトロイト』はアメリカの縮図。特にオバマ時代はずっと伏在していたアメリカの露悪的な部分がトランプ政権になって一気に吹き出し、ますます増加傾向にあるほどです。

 結局、アメリカは他者と折り合いがついていない気がします。自分以外の他者が人種という形でくくられ、自分たちとは違うという妄想によってさまざまな衝突を起こしている。そういうものがいかにアメリカ社会に根深くあるのかを知るためにも、今こそ本作を観てほしい。そこから日本人がアメリカに託した妄想があることも見えてくるはずです。アメリカを知ることは自分を知ることにもつながると私は思います。(談)

映画『デトロイト』姜 尚中さん(政治学者)インタビュー動画

かん・さんじゅん/1950年熊本県生まれ。東京大学名誉教授、東京理科大学特命教授。専門は政治学、政治思想史。テレビ、新聞、雑誌などで幅広く活躍する。2016年1月から熊本県立劇場館長兼理事長に就任。著書も多数。近著に『逆境からの仕事学』

トランプ政権につながる50年前の悲劇
タレント パトリック・ハーランさん

 デトロイト暴動は、コミュニティー運動や人種間衝突、警察とマイノリティーの関係などアメリカ社会のさまざまなあつれきを象徴する、歴史的にも大きな出来事です。その中で起きたモーテルでの事件一つにスポットをあてて暴動全体の衝撃を伝える演出は、さすがすご腕のビグロー監督です。

 本作の良いところは登場人物それぞれの心情、葛藤、危険な思い込みなどをすべて飾らず隠さず見せていること。だから観る側は自然と感情移入し、その場にいるような錯覚に陥る。観終えた後は切なくやるせなく、平常心ではいられなくなる。それほど感情が突き動かされる作品です。

  

 私は人間の不完全さがこの事件の重要な要因の一つだと思います。例えば暴動の最中におもちゃのピストルを発射する黒人の軽率さ、黒人男性と白人女性が一緒に居るだけでむかつく白人警官の本能的な差別感情など、どれも人間の不完全さから生じること。そんな不完全な個人から成り立つ社会も不完全で、暴動が起こるのも当然です。とはいえ誰かを責めるだけではなく、同じ人間として自分にできることはないかと考えさせられました。

 私はハッピーエンドものも大好きですが、本作のようにどっしり重く心にのしかかるような後味の映画も好きです。「人間とはこういうもの」というメッセージをリアルに、かつ全身でつかみとるだいご味があるからです。しかも本作にはアメリカを読み解くヒントがたくさん詰まっています。デトロイト暴動の概要が理解できるだけでなく、人種間の、お互いに対する恐怖、懸念、不信も分かります。そしてその感覚こそが、実は今なおアメリカを動かす大きな要素になっているのです。

 ちなみにデトロイト暴動によって、白人の中に黒人への恐怖が膨れ上がり、後にニクソンが大統領選挙で「秩序と法律」を掲げて当選し、今日のトランプまで続く共和党政権の流れができることになります。「今のアメリカを知るために観るべき」というのはおこがましい。でも間違いなく、それを含めて、観る価値のある映画です。(談)

映画『デトロイト』パトリック・ハーランさん(タレント)インタビュー動画

パトリック・ハーラン/1970年生まれ。米コロラド州出身。ハーバード大学卒。93年に来日し、97年お笑いコンビ「パックンマックン」結成。現在はテレビやラジオへの出演、連載執筆のほか、東京工業大学の非常勤講師なども務める。著書に『大統領の演説』など多数

差別を増長させる共感の欠如
国際政治学者 三浦瑠麗さん

 リアリズムは冗舌です。逃げ場のない密室状態で次々に黒人が獲物のように白人警官に捕らえられ、強制尋問を受けていく。このシーンは約40分続くわけですが、ビグロー監督は事実に即し、俳優たちを徹底的に追い込みます。それによって一人ひとりのストーリーが冗舌に浮かび上がってくる。だから、私たちは俳優たちの表情、演技を観ているだけで身震いするし、息が詰まります。

 しかも、こういうことが起こってもおかしくないと思わせる何かが歴然とそこにある。誰も白人警官を止められないし、自分がもし黒人たちの立場だったら抵抗できないと納得してしまう。監督は実話を通し、極限状態の人間心理をあぶり出し、見事に描き切ったと思いました。

  

 ただ、監督が一番テーマにしたかったのは人種差別問題。オバマ前大統領が8年かけても変えられなかったこの問題の根深さ、深刻さ。事実、今なおアメリカは『デトロイト』的です。昔よりは暴力による弾圧や抑圧は減っているかもしれませんが、SNSによって情報が拡散し、暴動が飛び火しやすいという新たな状況も生まれています。

 トランプ大統領が「人種問題は経済問題である」と語っているのですが、ある意味その通りで、経済問題が解消すれば白人の偏見はなくなり、黒人側の差別的な状況も解消されるのではないかと思います。ただ、アメリカは分配をしない国で、社会保障もなければ、すべてが実力によってのみ成立しています。それもあって白人と黒人の経済格差は一朝一夕には縮まらないのが現実です。

 また、共感の欠如が、暴動や白人警官の弾圧につながっているというのもあります。差別をなくす道は分かっていても、変化を起こすより単に正義と邪悪なものを対比させて、自分は正義の側だと唱える人権擁護派が多いのも悲しい現実です。ただ本作では黒人を救う白人警官も登場します。苦しんでいるものを助けるという人として当たり前の行動こそが解決策であり、希望につながることを示唆してくれています。

 本作を通して自分は誰かを差別していないか、誰かがつらい時に手を差し伸べているかと考えてみませんか。(談)

映画『デトロイト』三浦瑠麗さん(国際政治学者)インタビュー動画

みうら・るり/1980年神奈川県生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科修了。専門は国際政治学、比較政治学。現在、東京大学政策ビジョン研究センター講師、青山学院大学兼任講師。著書に『「トランプ時代」の新世界秩序』など

STORY/1967 年夏、権力や社会に対する黒人たちの不満が爆発したデトロイト暴動が勃発。43人の命が失われ、負傷者は1100人以上を数える大惨事となった。その暴動発生から3日目の夜のこと、黒人たちでにぎわうアルジェ・モーテルに、銃声を聞いたという通報を受け、大勢の警官と州兵が殺到。警官たちは偶然そこに居合わせた若者へ暴力的な尋問を開始。やがて、それは異常な“死のゲーム”へと発展し、新たな惨劇を招き寄せていくのだった……。

公式HP:http://www.longride.jp/detroit/

  

監督:キャスリン・ビグロー 脚本:マーク・ボール
出演:ジョン・ボイエガ、ウィル・ポールター、アンソニー・マッキー、アルジー・スミス
配給:ロングライド© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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