パパって楽しい

息子の「ミュージシャンになりたい!」に反対 辻仁成の複雑な親心

  • 2018年2月16日

料理上手な辻さんでも時には失敗することがあるそうで、「最近だと、カレーですね。息子が一口食べるなり『食べられない』って。バジルと間違えてコリアンダー(パクチー)を入れてしまったんです」

 「彼が石橋をたたいて渡るタイプなら、僕は石橋をたたき壊しちゃうタイプ。まるで正反対な親子です」と話す、作家の辻仁成さん。2014年に離婚し、現在はフランスで父子2人きりの生活を送っています。フランスでは、14歳は“決断の年”。大人への第一歩を踏み出そうとしているお子さんについて、お話を伺いました。

     ◇

 フランスで暮らして16年。パリで生まれた息子は、もう14歳になりました。身長なんて僕より大きいし、体格もね、ちょっと前までは「ぽっちゃりしてるなぁ」って感じだったのに、中学でバレーボール部に入ってからはすっかり引き締まって、だいぶたくましくなりました。

 フランスは移民が多い国だから、日本人であることに特に引け目を感じることもないようで、彼にとってはすごく生きやすい場所みたい。友達にも恵まれていて、なんか、いつも楽しそうです。このままフランスの大学に進学して、フランスで生きていくつもりだと、彼は最近話していました。

 そう、もう将来の話をしているんですよ。14歳なのに。フランスではこの年で進路を決めるのが普通なんです。「バカロレア」(中等普通教育の修了資格証明かつ大学入学資格証明)っていう、日本でいうところの大学入試センター試験みたいなものなのかな、その模擬試験もすでに始まっていて、友達と集まってはどうやってパスするか熱い議論を交わしています。

 フランスの大学は、人文系、科学系、経済・社会系の三つしかなくて、選んだ時点で就ける職業がほぼ決まってしまう。だから早くも将来何になりたいかの決断を迫られる時期がきている、というわけなんですね。

 親の影響か、「ミュージシャンになりたい」と言っていたこともあったんだけど、それは反対しました。「曲を作れば自然に印税が入ると思ってるだろ? そうじゃないんだぞ。相当がんばらないと音楽だけで生きていくことはできないし、一瞬大金持ちになれたとしてもずっとは続かない。別の仕事をしながらでも音楽はできるから、その方がいいんじゃない?」って。

 僕が自由業で生きていけてるのは、たまたま。ラッキーなだけなんです。自分が味わったような苦労を、息子にはさせたくないですから。

 でもね、そういう親心もある一方で、僕の影響を受けていることをうれしく思う気持ちもあるんです。フランス語に翻訳された僕の小説やエッセーを読んだ学校の先生から、「遺伝子を受け継いでいるからおまえにも書けるはずだ」と言われた言葉を素直に受け止めたのか、息子はときどき長い文章を書いては「こんな物語を考えたんだけど……」なんて言いながら見せにきます。

 内容はまだまだ子どもだましですが、僕の仕事に興味を持ってくれるのはやっぱりうれしい。まぁ、作家も未来の職業候補にはしないでほしいんですけど(笑)。

 僕が見る限り、音楽家とか作家には向いてないような気がするんですよね。そういう仕事ってある程度型破りな人間じゃないとできないから。僕は石橋をたたき割っておぼれるタイプだけど、彼は石橋をたたいてきちんと渡りきるような、父親とは逆のタイプなんです。

 息子には人望もあるし、会社の経営とかそういう仕事の方がいいんじゃないかなぁ。勉強が大好きで、「宿題やりたいから、パパ話しかけないで!」とか言うんですよ。本当に、僕とは全然違います。

「いつかは日本に戻ろう」とずっと思ってきたけれど……

 今年は息子にとって将来を見据える大切な年なので、先月の彼の14歳の誕生日には念願だった「友達と一緒にパリのディズニーランドに行きたい」をかなえてあげました。

 13歳の誕生日のときにも同じお願いをされたんだけど、そのときは断ったの。友達全員にケガがないように目を配るのは骨が折れそうだなと思ったから。でも2年連続ともなるとさすがにね、これはもう行くしかないな、と。

 なんかね、友達をとても大事にする子なんですよ。ディズニーランドが一番の目的じゃなくて、友達と一緒に楽しい時間を過ごすのが目的なの。アトラクションの長い待ち時間も、ずーっと楽しそうにおしゃべりしてました。

 でね、みんなを送り届けたあと、息子がこう言ったんです。「今日が人生で最高の一日だった!」って。14歳の誕生日がそんなにもすばらしい思い出になったのなら、連れて行ってあげて良かったと心から思いました。……少し疲れたのか、僕はその後風邪で一週間寝込むはめになっちゃいましたが(笑)。

 「いつかは日本に戻ろう」。ずっとそう思ってきたけれど、最近はちょっと考えが変わってきました。息子はこの先もフランスで暮らしていく覚悟みたいだし、パパもできるだけそばにいようかなぁって。彼が積み重ねていく思い出の一つ一つを間近で見ていられることが、今、すごく幸せなんです。

(聞き手・渡部麻衣子)

◆辻 仁成(つじ・ひとなり) 東京都生まれ。1985年、ロックバンド「ECHOES」のボーカルとしてデビュー。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。現在の活動は、作家、ミュージシャン、映画監督、演出家など多岐にわたる。

自身のツイッター上で話題になったツイートをまとめた新刊「立ち直る力」(光文社/920円・税別)が、2月16日に発売されたばかり。「生きていると時折、人生を投げてしまいたくなるようなこともあるじゃないですか。そんなときはぜひこの本を手にとってみてください。僕もね、ときどき過去の自分のツイートを読み返しては、『あぁ、いいこと言うなぁ』って励まされてます(笑)」

辻さんが脚本・演出を手がける舞台「99才まで生きたあかんぼう」は、2月22日から東京・よみうり大手町ホールで上演される。詳細は公式サイトで。

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