一眼気分

「写真は写心」あいまいさに見るカメラの魅力

  • 文・写真 宮田正和
  • 2018年2月23日

荒涼とした原野、写真で見るとその瞬間に自分が東京にいたとは思えない。これも写真の持つ表現力だ。Canon EOS-1DX Mark II EF16-35mm F4L IS II USM SP:1/640 F:8.0

 さあ今日はどこへ行こうか? 何も特別なものを撮ることだけが写真ではないので、日々の暮らしの中で気軽に何か感じたものを撮ってみる。何よりもフィルムと違い、失敗は消去すればいい。ランニングコストもかからないし、撮影画像は背面の液晶画面で確認できるのだから。まずは普段使っている状態で「あっ!」と思ったシーンがあれば、とりあえずピントを合わせてシャッターを押してみること、これが大事だ。

 自分のイメージ通りに撮れる時もあれば、「全くイメージと違ってこんな感じではなかったはずなのに……」などと自分の想像していた画像と実際の撮影画像とのイメージにギャップがあることも最初のうちは多い。でもこれも写真の面白さの要素の一つでもあるのでガッカリせずに楽しむ。実は僕たちプロでも思うようにいかない場合はあるし、逆に想像以上の結果が生まれることもある。

 タイミングや偶然という要素が絡み、写真はさらに面白さを増していく。

 動画は全てを見せるけど、写真はある場面の一コマを切り取るだけ。だからそのカットの前後にどんな光景が続くのか、見る人の想像力を喚起させる。同じ写真を見直しても、その日の気分や感覚で全然違う受け取り方をすることもよくある。このあいまいさもまた写真の魅力だけど、だから写真展の前には候補作品をA4程度にプリントして、それこそ家中に貼ったり置いたりして、24時間見るともなく見る。すると不思議なもので、最初にいいと思っていた写真が次第に色あせてきて、全く気に入っていなかった一枚が急に光り輝き出す瞬間がある。これだから写真はやめられない(笑)。

 全てを見せて何かを訴える「動画」と、一枚で想像力をかき立てられる「写真」、どちらが魅力的だろうか?

 時に、一枚の写真が動画以上に強烈なメッセージを放つこともある。それは人が想像する生き物だからだ。

 ではこの一枚を見てどう思うだろうか?

逆光によって浮かび上がった黒い雲海のエッジが迫力ある一枚。Canon EOS-1DX Mark II EF600mm F4L IS II USM SP:1/800 F:8.0

 朝日か、それとも夕日か? この太陽は昇ってくるのか沈んでいくのか? 答えはどちらでも問題ない(笑)。現実には沈みゆく夕景だが、気分で朝に感じたとしてもいい。では次の写真はどうだろうか?

イスタンブールのブルーモスク。トンビが絶妙なタイミングであらわれた。Canon EOS-1DX Mark II EF85mm F1.2L II USM SP:1/500 F:2.8

 これは朝か夕方か? 撮影したのは早朝だが、人によってはこれが夕方の景色に見えるかもしれない。何度も言うがこのあいまいさが実は写真の持つ最大の魅力で、僕が「写真は写心」という意味でもある。見る人の「心」の状態でどう感じるか? 撮影した僕は自らそのギャップを楽しんでいる。

 少し前になるが1月、関東地方は大雪の洗礼を受けた。雪の多い地方に住んでいる方にはなんでもないような降雪だったが、首都圏ではとんでもない事態となった。都会の便利さと裏腹に脆弱(ぜいじゃく)さを思い知らされる場面だが、写真を撮るには非日常的な景色が続いているので、実際に迷惑を被っている方々には大変申し訳ないが、僕の内心はソワソワ、ワクワクしていた(笑)。

雪が止まって見えないように、手持ちでもブレない程度の遅めのシャッタースピードで。Canon EOS-1DX Mark II EF16-35mm F4L IS II USM SP:1/250 F:5.6

 だから横殴りに降りつけるような雪でも気にせずカメラを持って表へ! あきれる周囲をよそに、自身が真っ白になりながら夢中で撮影した。

 そして翌日はさらに期待が高まる。もしも晴れて青空でも現れれば言うことはない! これこそまさに完璧だろう。

雪解けの水たまりに映り込む公園の大木を見つける。水面には青空と白い雲。お気に入りの一枚が生まれた。Canon EOS-1DX Mark II EF16-35mm F4L IS II USM SP:1/500 F:5.6

 翌日、残念なことに午前中のミーティングがあった僕は朝の撮影はできなかったのだが、ミーティングが終わると一目散に帰り、昨夜の雪が残るぬかるんだ道をまるで子供のようにしぶきをあげ早足で歩いた。僕の狙いは自宅近くの河原と土手だ。西の空がオレンジ色に染まりだしている……日没に間に合うのか? 息を切らしながら太宰治のメロスになった気分で、なんとか目的地にたどり着く。

 おそらく与えられた時間は最大でも30分程度だろう。そう判断した僕はいくつか目標を定め、お気に入りのアングルを見つけるとシャッターを押した。

 どうやら僕の願いは通じたようで、雪解けの水たまりに青空と白い雲が映り込む、なんとも不思議な景色を見せてくれた。

 心の中で「もう少し待ってくれ~!」 と太陽の沈む早さに叫んでみるが、だからといって日没が遅くなるわけではなく、暗くなっていくばかりなのだが。

「もう限界だ……」動きやすくするために今日は三脚も用意していないので、ここで撮影終了かと思った瞬間に最後のチャンスが訪れた!

まさに偶然の産物。雪解けの水たまりと夕日、そしてそこに人がいて初めて完成した一枚だろう。Canon EOS-1DX Mark II EF16-35mm F4L IS II USM SP:1/500 F:4.0

 これは人がいなければつまらないカットだった思う。いつもなら大勢のランニングやウォーキングの人たちが行き交う土手の道だが、この日ばかりは違った。残雪の影響もあり決して歩きやすい状況ではなかったからだ。この少ないチャンスが最後の最後に僕に訪れたのだ。

 しかしどこから見てもこの景色は東京には見えないな。

 眼前には全く僕の知らない沈みゆく夕日に照らされた美しい世界が広がっていた……「写真は写心」。

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PROFILE

宮田正和(みやた・まさかず)写真家

東京浅草生まれ。1984年のロサンゼルス・オリンピックをはじめ、NBAバスケットボール、各種世界選手権、テニスのグランドスラム大会、ゴルフの全英オープンなどスポーツを中心に世界を舞台に撮影を続ける。1987年、ブラジルF1グランプリを撮影。マシンの持つ美しさ、人間模様にひかれ、1988年よりフランスのパリ、ニースに4年間ベースを移し、以来F1グランプリ、オートバイの世界選手権、ルマン24時間耐久レースなどモータースポーツをメインテーマとして活動を続ける。AIPS(国際スポーツ記者協会会員)A.J.P.S(日本スポーツプレス協会会員)F.O.P.A(Formula One Photographers Association会員)http://f1scene.com

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