私の愛用品

ビームス創研の青野賢一さんが「無」になれる時間をつくる、ポーレックスのコーヒーミル

  • 2018年2月27日

 『BEAMS』といえば、センスの良いものが必ず見つかるセレクトショップの代名詞。そんな『BEAMS』にも、まだ社員全員がお互いに顔が分かる小さな会社だった時代がある。

 ビームス創造研究所クリエイティブディレクターの青野賢一さんは、まだ同社が小さかったころ、アルバイト販売員を経て入社した。その後、重要なポジションを歴任して今に至る。組織に所属しながらも、執筆、編集、選曲、イベントの企画運営など、ジャンルにとらわれないクリエイターとしても活躍する青野さんの働き方は、ビジネスパーソンにとって一つの理想形ではないだろうか。

「気鋭のクリエイター」というイメージを抱いて会いに行った青野さんの愛用品は、シンプルなコーヒーミル。青野さんは、身の回りで起きる小さなことや非合理性も大切にする、驚くほど緩やかな空気感の持ち主だった。

  

「どうでもいいもの」「とりあえず」のものは持たない

――今日は手挽(び)きコーヒーミルを愛用品としてお持ち下さいました。コーヒーにはこだわりが?

 こだわりというほどではありません。母親が、わりとコーヒー好きで、昔から当たり前のように飲んでいました。マンデリンの深煎りが好きで、よく自家焙煎の店で購入します。このコーヒーミルは、友人が経営する雑貨店で入手した2代目。初代は、ハンドルと本体のジョイント部分がすり減って回らなくなりましたが、こちらはすり減ることもなく快適に使えています。持ち運びしやすいので、ガリガリやりながら部屋を歩き回ることも(笑)。

 僕にとって、豆を挽(ひ)いたりコーヒーを淹(い)れたりする時間は、余計なことを何も考えずに「無」になれる時間。意外とそういう時に、これまで考えもしなかったことがポッと浮かぶことがあります。

  

  

――このミルもシンプルで素敵ですが、モノ選びの際に基準のようなものはありますか?

 とくにコレといったルールは決めていなくて、直感を大切にしているだけです。強いて言えば「どうでもいいもの」は持たないかな。もちろん、どうしてもすぐ必要なものはコンビニや100均で買ってもいいですが、間に合わせではなるべく買わない。買う側がしっかりと「これはアリ」「これはナシ」と主体的に選ぶようにしていれば、おのずとトーンが定まり心地良いものだけになると思います。モノを選ぶ時に、自分のフィルターを通すというのでしょうか。

 ただ、それは待っていても身につかない。例えば本や映画などからいろいろなものをインプットすることで、自分なりのフィルターが養われます。僕の場合は、とくに本を読まないとダメですね。小説よりも論考とエッセーの間のようなものが多いかな。最近は池内紀さんの『記憶の海辺』を読んでいます。

 映画にしても、話題だからとみんなと同じものを見るのは時間がもったいないし、マーケティングや宣伝に振り回されていたら疲れちゃうのでそういうものは観ません。実は『スターウォーズ』もまともに見ていないです(笑)。

  

「気づくこと」を増やし、なるべくシャットアウトしない

――組織に属しながら、個人としても自由度の高い働き方に憧れる読者は多いと思います。どのような経緯で、現在のポジションに至ったのでしょうか。

 僕がいまビームス創造研究所でやっていることは「いくらの予算を使ってこれをしなさい」というのではなく「それをやることでどんなバリューが生まれるか?」という加算式の仕事です。自由ですよね。

 内容は多岐にわたっているものの、プレス時代からやっていた編集的な仕事や人との関係が、現在の執筆などの仕事につながっていたりもします。これまで社内でしてきたことや、あらたに獲得したことを生かして外部の会社とご一緒するのですが、取り組みによっては社名を出さないこともありますね。会社員でいると、どうしても見える世界が矮小化していきますが、幸い僕はこれまで外の方との仕事が多かったので、むしろ自然に活動の場が広がってきたのかもしれません。

――DJ、映画評論、食に関するエッセー、デザインなど、じつに多様なジャンルで活躍されていますが、普段からアンテナをあちこちに張り巡らせているのですか?

 アンテナを張るというよりは「気がつくこと」を増やすようにしています。例えば、僕は街を歩く時には音楽を聴きません。同じ通勤路でも、天気も違えば歩いている人も違う、季節も違うし聞こえる音も違う。同じ瞬間は二度とないのに、それをシャットアウトして逃すのはもったいないと思っているからです。事務所がある原宿でランチをしていて最近思うのは、みんな姿勢が悪い。なぜならスマホを見ながら食事しているから。姿勢が悪いと食べ方が汚くなるだけでなく、周りの何にも気づかないまま時間が終わっちゃう。もったいないなあと思います。僕はたとえば映画評を書く時に、映画そのものとは全然関係ないことを書いたりします。読んだ人を、どこまで違う文化や世界に誘えるかが大事だと思っているからです。昔はそういうスタイルの評論が多かったけど今は少ないですね。こういう感覚は、澁澤龍彦や種村季弘の影響ですが、もしかしたら子供の頃に愛読していた投稿雑誌『ビックリハウス』などのサブカル的で雑多な文化のせいもあるかもしれませんね。

リアリティのある提案と確かな品質・信頼感が求められている

――モノが売れない時代と言われますが、小売りビジネスの今後についてどう思いますか?

 かつてのように、メディアがマジックワード的に使った大雑把であいまいな「ライフスタイル」をつくる時代は終わったと思います。

 昔はなんとなくゆるい提案をすればよかったけれど、これからはもっと細かくてリアリティのある、いくつかの小さな“パイ”をナチュラルに繋げて提案するスタイルが支持される。そこにはある種のスペシャリティとかプロフェッショナル性が必要です。

 敷居は低いけど、提供されるものはクオリティーが高くてプロの仕事が感じられるような信頼感。例えば、観葉植物とコーヒーショップのコラボのような、別々のベクトルを持つもの同士が違った視点から眺めて接点を探し、それらがくっついて何かが生じるというのが面白いと思います。この接点こそが「ライフスタイル」を示しているわけですが。

――青野さんのコーヒーミルにもクオリティーへの信頼性があったということですね。

 そう、信頼している友人のセレクトですから。値段も手頃で簡単に手に入りつつ、この人がやっているこの店に置いてあるのだから間違いない、というようなことですね。これは冒頭にお話した「どうでもいいもの」を持たないということにも繋がってきます。信頼できる店や人というのも、自分のフィルターになるものです。まあ、みんながみんなそんな風に「本物志向」になったら気持ち悪いけど、好きなものに対してだけはそうあってもいいのかなと。

 

(取材・文 花摘麻理、編集・スケロク)

〈今回紹介した愛用品〉

JAPAN PORLEX/ ポーレックス コーヒーミル / PORLEX TALL COFFEE GRINDER

紹介者のプロフィール

青野賢一
1968年東京生まれ。大学1年の夏(1987年)より原宿「インターナショナルギャラリー ビームス」で販売のアルバイトを開始。卒業後、株式会社ビームス入社。販売スタッフ、店次長を経て、1997年より販売促進部プレスに異動。カタログ、広告制作、商品貸し出しなど販売促進全般に携わる。1999年、音楽部門「ビームス レコーズ」の立ち上げに参画し、翌年店舗も設ける。2000年代半ば頃から、オフィシャルサイトおよび「ビームス クラブ」会員サイトのスーパーバイザーも担当。以後、2010年まで3部門を兼務した。2010年、個人のソフト力を主に社外のクライアントワークに生かす、社長直轄部門「ビームス創造研究所」発足に際してクリエイティブディレクターとして異動。執筆、編集、選曲、大学や専門学校の講師、他企業の販促企画やイベントの企画運営、他ブランドのクリエイティブディレクションなどを行いながら、「ビームス レコーズ」のディレクターも兼任。DJ、選曲家としても1987年より活動を開始し、都内のクラブやラウンジスペース、ファッションショー、さまざまなレセプションパーティーなどで、ジャンル、年代にとらわれないタイムレスな選曲を行っている。また、執筆家としてファッション、音楽、映画、文学、美術、食などを横断的に論ずるエッセイ、コラム、論考を寄稿。現在、「CREA」、「ミセス」、「オーシャンズ」、「In The City」、ぐるなびが運営する食のキュレーションサイト「ippin」などに連載を持つ。

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ

Pickup!