ミレニアルズトーク Millennials Talk

会社を辞めることよりも、居続けることの方が不安だった

  • 【長谷川リョー✕石井リナのミレニアルズトーク】
  • 2018年3月2日

  

 SNSコンサルタントの石井リナが、ミレニアル世代を掘り下げる連載「石井リナのミレニアルズトーク」。ミレニアル世代の中でも1990年前後に生まれた人間は、現在27歳前後。社会に出て数年たち、ネットネイティブで育った柔軟な感覚で様々な新しい働き方に取り組んでいる。

 中学時代にガラケーを持ち、インターネットとともに育ってきた環境のミレニアル世代たちは、どういった価値観をなにによって形成してきたのか。バブル世代とジェネレーション世代のハザマに生まれ、双方のハブとなり得る存在のミレニアル世代を深堀る。

 第2回目は、弟子をシェアする「パラレル親方」という仕組みにトライする、編集・ライターの長谷川リョー。大企業を1年で退職し、書籍の編集や、SENSORSのシニアエディター、動画メディアの企画顧問など独自のポジションを築いている。4/6に発売予定の堀江貴文・落合陽一共著『10年後の仕事図鑑』の構成なども手がけており、若くして引く手あまたの編集業界のホープでもある。そんな彼が、自分にしかできない仕事を築いていった経緯とは、そしてそのマインドとは?ミレニアル世代の働き方の価値観を探る。

企業に居続けるほうが不安

石井リナ(以下、石井):リョーくんは同い年で、大企業を辞めてからライター・編集として活躍していて、働き方と経歴がすごく新しいよね。アシスタントのライターを複数の親方で教育していく、「パラレル親方」の仕組みは本当に面白い。

 リクルートホールディングスに新卒で入社して1年経たずに退社して、幅広く編集の仕事をしてるけど、大企業を1年で辞めるって少ない選択だと思う。リクルートを辞めようって思った最終的な決断ってなんだったの?

長谷川:将来の目標が馬主になることで、その目標から逆算して全ての意思決定をしているかな。前職は主にデータ分析を担当していたけど、平均的なスキルしかなかった。ただでさえ大企業は昇進が難しいのに、平均的なスキルしかもっていないなら時間が足りないんだよね。

 馬主になるのには資産や年収に条件があり、一般企業で普通に働いていたらたどり着くまでの距離が遠い。フリーで仕事を作っていくかこのまま会社に残るかと考えたときに、圧倒的にフリーで自分の力をつけた方がその夢に早く近づけると思った。

石井:独立を決めて、ライター・編集者になろうと思ったのはどうして?

長谷川:任天堂の岩田聡前社長が、生前「自分の労力の割に周りの人がすごくありがたがってくれたり、喜んでくれたりすることが得意なことだ」とおっしゃっていました。僕にとって得意なことは編集であり、得意なフィールドなら頭一つ抜け出せるんじゃないかと思ったんだよね。

石井:辞めるとき、不安はなかった?

長谷川:よく聞かれるんですが、僕は企業に居続けることの方が不安かな。編集者に限らず、現代は個人名で仕事をしていればSNSやWEBで実績が蓄積される時代。

 いわゆる評価経済社会に移行していて、評価があればお金には困らない社会になってる。会社員の場合、仕事は会社の実績でもあるから、社外での価値や評価が可視化されにくいよね。会社に入ってからはそのことが不安で仕方なかった。このままだとやばいな、と。

石井:確かに、SNSが個人のレピュテーションを可視化する評価経済社会になっていくなかで、組織にしがみついていく方が不安が大きいよね。

 フリーになりたくても自分がどんなことで評価されるのかって気づけない場合も多いと思う。今の仕事を選ぶ上で、ビジネスやテクノロジーに領域を決めたのはどうして?

長谷川:リクルートを辞めるとき、当時の上司に「レアな仕事を探せ」って言われたんだけど、僕の場合はそれがビジネス系のライターだった。「カルチャーに強いライターは多いけど、ビジネスやテクノロジーについて書ける若手がいない」って気づいて、「そのポジションなら空いてる!」って思ったんだよね。そしたら本当に仕事がめちゃくちゃあった。

 ライターに必要なスキルは、感性やセンスではなく、基礎学力と基礎教養。ただ、そうしたスキルに長けた人は名の知れた大企業にいるし、彼らは会社にいた方が安心って思いこんでる。でも僕としては、会社ではなく個人名で仕事をした方が、少なくとも3倍は稼げるし評価もされるよって。

 ただ、頭では分かっていても「会社辞めるの怖い」って思っちゃうのは、会社外で仕事をしたことがないから。学生時代でも、会社員をしながらでもいいから、とにかく自分の名前でなにかやる、っていう経験をすることが大事だなと思う。だからこそ、パラレル親方をやってるんだよね。

  

弟子を親方がシェアをする、新しいカタチのシェアリングエコノミー?

石井:「パラレル親方」について聞きたいんだけど、いずれ独立するライターの卵=弟子を教育するために、自分の名前で仕事をしている編集者=親方が集まるって言うのはすごく新しい試みだよね。フリーランスが集まってチームビルディングをする、チームランサーとも違う形だし……。どういう風に成り立ってるの?

長谷川:僕のところには弟子が4人いて、中には社会人も学生もいる。顔を合わせて作業することはそれほど多くなくて、基本的には全員リモートです。Slackなどのコミュニケーションツールを使いながらやりとりをしている。フルコミットしてくれている大学生もいれば、週末だけ仕事を手伝ってくれる会社員の方がいたり、働き方は様々だね。

石井:リョーくんのところで鍛えた弟子は、別の親方のところで修行したりもするんだよね。複数の編集者の親方がいることで、弟子たちにとってはどういう影響があるのかな?

長谷川:僕はビジネス・テクノロジー系の記事に強いから、必然的に集まってくる弟子もそっち系が多い。他の親方も特色があるんだよね。

 僕の仕事を手伝ってくれている弟子を、違う親方に送り込むことによって幅が広がる。人材会社にいながら広告代理店の仕事ができる、みたいな感覚かな。あとは、僕のやり方と合わなかったら別の親方さんのところに行けばいいし、「退職」みたいに大ごとにしなくても一緒に働く人を選べる自由があるよね。

石井:企業に入れば、部署も先輩も選べなかったりする。けど、「パラレル親方」制度には、カテゴリや親方、仕事も選べるってことだよね。ライターとしてのスキルもだけど、いつかは独り立ちしていくお弟子さんたちに精神的な面も教えたりしてる?

長谷川:下積みをちゃんとして型を身につけろって意味なんだけど、弟子には「3年泥水飲め」って言ってる。どんな仕事もそうだと思うけど、ライターも型を覚えることが大切。そのためまず必要なことは「自分が何者でもない」ことを認めること。

 何者でもないという意識から、最初はインタビューの文字起こしなど下積みを経験して、型を身につけることが大切。そのために3年は泥水飲むつもりで頑張れ、って。

石井:それすごく大事かも。今はSNSで誰でも発信者になれる時代だし、個人が目に見えやすくなった時代。もちろん良い面も多いけど、悪い面もあると思っていて、何者かになりたいだけの人も多いように感じる。それは、実績の伴っていない、危うい自信や期待だったりするのかもと。

 実際にSNSによって有名になってる人もいるから、夢物語はあると思うけど、努力や下積みをしないうちから憧れが強すぎて、実際やってみたら理想と現実の違いを痛感して心折れちゃう、みたいな子もたくさんいる。

  

長谷川:会社だと誰が上司になるかは選べないけど、パラレル親方のシステムでは弟子が自分で合う人を選べばいいと思うし、弟子経験を経て会社員になってもいいし、フリーでやっててもいい。複数人の上司から学ぶ機会を通じて、会社に入ることだけが選択肢じゃないよね、って伝えていきたいです。

編集とは時代をキュレーションすること

石井:今は時代の流れ的に動画の編集スキルが求められはじめているけど、テキストでも映像でも編集って仕事の本質は変わらないと思っていて。リョーくんにとって編集ってなんだろう?

長谷川:漫画編集者とか書籍編集者とかって具体的に何やってるか分かるんだけど、僕みたいなタイプの「編集者」の仕事は、なんか定義が難しい。僕としては、「時代の流れを考えて目に見えるものにする人」だと思ってる。

石井:米原康正さんという方がいて、彼は写真家として有名なんだけど、自らを編集者って呼んでるのね。元々、米原さんはティーン雑誌の立ち上げをやっていたっていうのもあるけれど、色んなものをキュレーションするって意味合いで使っているんだろうなって。

 情報が溢れる中で取捨選択していくことが編集の仕事だと思うけど、それは色んな業界において必要だし、時代に左右されない仕事かなって思う。どんな時代でも形を変えながら、誰かが何かをキュレーションするって仕事は常に必要とされるんじゃないかなって。

長谷川:そう思う。編集者のエージェント会社・コルクの佐渡島さんは、経営は「社会を編集することだ」って言っていたし。今は、SNSを使ってたら誰でも「編集者」な時代。例えばInstagramも編集。何を撮ってどうアップするか、って視点が編集者の視点。

 そんな時代で、編集者がすべきことはとにかく「考える」ことだと思う。考えて、時代が求めていることを見つけること。世に出回っているあらゆる情報やコンテンツは、全て誰かの手によって編集されたものだけど、その元になる原液みたいなものは必ず存在していて、それを見つけることが大事。そのためには、哲学や思想を持つことが大事になってくると思います。

  

 2018年のいま、一つの会社に骨を埋める気の若者は果たしているのだろうか。周りの友人をみていても、小さくても自分の会社を持ちたい、趣味を副業にしたい、など働き方は変化しつつある。大手企業への憧れは薄れ、そして一つの会社で永続的に働くことを視座している人は少ないように感じる。彼もそんな一人だろう。

 話に出てきたように、SNSの台頭により、個人が評価され活躍できる時代になった。この流れはキャリアにおいてもますます加速するだろう。評価経済社会のなか、若者たちは組織に依存することなく、「個」の力を強めていく。そして、将来への達観性と、それに付随する柔軟性はミレニアルズの特性といっても過言ではないはずだ。

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Text:保科さほ
Photo:小林真梨子

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