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マラソン界の常識を覆した革命的シューズ 「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%」の実力

  • 山口一臣
  • 2018年3月13日

 いやぁ、カッコよかったですねぇ〜。東京マラソン2018で右手の人さし指を高々とあげてフィニッシュした設楽悠太選手(Honda)である。タイムは2時間6分11秒。日本人1位(総合2位)で、実に16年ぶりにフルマラソンの日本記録を更新した。レース最終盤の約38km地点から4人抜きの追い上げシーンは繰り返し何度見てもいいものだ。

画像:朝日新聞社(撮影=小玉重隆)

 その設楽選手の日本記録で世の中が「1億円の報奨金ゲット」にばかり目を向けるなか、「やっぱり『アレ』はヤバイ」としたり顔で思いをはせるマラソンマニアが少なからずいたはずだ。「アレ」とは、設楽選手の履いていたシューズのことだ。昨年来、ランナーの間で話題沸騰の「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%」である。

ナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%(画像提供:ナイキジャパン)

 発売から1年も経っていないのに、すごい実績を残しているのだ。なんて書くとナイキの回し者だと思われそうなので、まずは「事実」のみを列挙したい。2017年の世界6大マラソン(ワールドマラソンメジャーズ=WMM)で、それぞれの大会の男女トップ3は36人いるが、そのうちナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%を履いていた選手が19人もいた。半分以上だ。内訳は、1位が7人、2位6人、3位6人。

 ボストンマラソンに限っていえば、男子の1位、2位、3位と女子の1位と3位、実に83%の着用率である。それだけではない。ベルリンマラソンで優勝したエリウド・キプチョゲもこのシューズを履いて昨年のWMM最速記録、2時間3分32秒を樹立している。

 国内に目を向けると、福岡国際マラソン2017で日本人トップ(総合3位)の2時間7分19秒をたたき出した大迫傑選手(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)をはじめ、優勝したモーエン選手も2位のキプロティク選手も、いずれもヴェイパーフライ4%を履いていた。

 さらに、今年正月の箱根駅伝では、往路優勝(総合2位)した東洋大学チームを中心に実に40人近い選手がヴェイパーフライ4%を着用していたことで、昨年は4位だったナイキのシューズ占有率がアシックスを抜いて1位になった。メーカーから供給を受けた選手だけでなく、自分で買った選手もいたという。

人気沸騰で品切れ続く ネットで高額取引も……

 製造元のナイキは「ナイキ史上最速のマラソンシューズ」と位置づけている。同社の代表的レーシングシューズだった「ズームストリーク6」を基準(ベンチマーク)にランニング効率を平均4%高めることを目標に開発された。

 ヴェイパーフライ4%の「4%」とはそういう意味で、フルマラソンを同じタイムで走ると、従来の約4%少ないエネルギーで走れるということをコンセプトにしている。逆に言うと、同じエネルギーで走り切れば4%記録が伸びる可能性があるということらしい。

 前出の大迫選手はこのシューズを手にしたときの印象として、「今までのシューズよりも次の一歩に対する反発がスムーズで、しっかりスピードに乗れる」と話している。

 また、ヴェイパーフライ4%を履いてニューヨークシティーマラソンで米国女子としては40年ぶりに優勝したシャレーン・フラナガン選手は、優勝の翌日、シューズが盗まれる夢を見て目が覚めたという。それほどシューズの効果が脳に焼きついたと語っている。

 道具への依存度が高いアマチュアゴルフの世界には「スコアはカネで買うもの」という言葉がある。マラソンにおいても、今やシューズが記録に与える影響は、トップランナーならずとも無視できない状況といえるのだ。

 とはいえ、設楽選手と同じヴェイパーフライ4%は2万5920円、普及版のズームフライでも1万6200円。ランニングシューズとしてはかなり高い。ただ、人気で生産が追いつかず、品薄でなかなか買えない。ネットでは倍以上の値段で取引されているケースもあるほどだ。

従来の常識を覆した「厚底」シューズ

 もうひとつ、このシューズが注目される大きな理由に「上級者はソールの薄いシューズを履くもの」という従来の常識をひっくり返したことがある。ランニングの入門書を見るとほとんど例外なく、初心者はクッション性の高い厚底シューズ、上級になるにつれて軽量の薄底シューズにするといいと書いてある。

 私もずっとそう信じてきた。だが、写真を見ればおわかりのとおり、ヴェイパーフライ4%は「厚底」なのだ。設楽選手も、このシューズを最初に目にしたときは、ソールの分厚さに「本当にこれで試合するの? みたいな感じだった」とのコメントを残している。

一見すると「初心者用」かと思うほどソールの厚さが目立っている(画像提供:ナイキジャパン)

 こんなエピソードもある。フルマラソンで日本新を出した設楽選手は昨年、ハーフマラソンの日本記録も10年ぶりに塗り替えている。チェコで行われた大会で1時間0分17秒の記録を打ち立てたのだ。驚くのは、その1週間後のベルリンマラソンでも2時間9分3秒の自己ベスト(当時)を出して6位になったことだ。ハーフで日本記録をマークしたわずか1週間後にフルでも好タイムを出すというのも、これまでの常識ではあり得ないことだった。その秘密も、実はこの厚底シューズにあるのではないかといわれている。

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 いずれにせよ、設楽選手の日本記録更新でますます注目されることになったナイキ ヴェイパーフライ4%、次回以降、さらに詳しく深掘りする。お楽しみに。

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PROFILE

山口一臣(やまぐち・かずおみ)

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1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWSを設立し、代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン20回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

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