いしわたり淳治のWORD HUNT

「大喜利と同じじゃん」……“腐り芸人”ノブコブ徳井が放った、人生の本質を突いた名言

  • いしわたり淳治のWORD HUNT〈vol.5〉
  • 2018年3月20日

  

 音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな“歌詞解説”が話題のいしわたり淳治。その鋭い批評眼で、今日も世間の言葉を斬っていく。

 女子アスリートのセリフや刺激的な新書タイトル、最近話題の“腐り芸人”による目の覚める一言など、今回も幅広い言葉がいしわたりの標的となる。

いしわたり淳治 いま気になる5つのフレーズ

  

 バラエティー番組『ゴッドタン』(テレビ東京系)で放送された、“腐り芸人”の先輩が腐りかけている若手芸人の悩みに答える「腐り芸人セラピー」の回(編注:“腐り芸人”とは、相方との人気格差など、非情な現実の影響で屈折した思いを抱える芸人。代表格はハライチ岩井、インパルス板倉、平成ノブシコブシ徳井など)。

 お笑いコンビ・Aマッソ加納愛子からの「“彼氏はいますか?”みたいな質問や、イケメン俳優が来た時に狂喜乱舞する役を求められるのがイヤ」という相談に対する、平成ノブシコブシ徳井健太のアドバイスがすてきだった。「人生は大喜利と同じで、常に自分という人間に吹き出しがついていて、そこに何を書き込むか、つまりは“写真でひとこと”の大喜利のお題を常に解いているようなもの」と答えたのである。

 イケメン芸人はイケメンが言ったら面白いこと、太っている芸人は太っている人が言ったら面白いことを求められている。テレビの世界では、誰しも“この人が言った衝撃の一言とは?”というお題に答え続ける必要がある、と言ったのである。

 なるほど。この言葉はものすごく的を射ている気がする。現代はやたらと個性を大事にしたがる時代で、SNSなんかで自分を発信するのも当たり前になっているけれど、そのせいか、対面で自分の個性を相手に伝えるのが下手になっているような気がする。

 初対面の人を相手に要領よく自己紹介を終わらせるためには、やはりある程度自分がどんな人間かをデフォルメ(編注:美術の技法の一つ。忠実な模倣や描写ではなく、意識的に変形、強調して表現すること)して伝える必要がある。そのデフォルメした自分につけた吹き出しに、どんな言葉を書き込めば相手と素早く打ち解けられるか、みたいな発想は日頃の生活でも役に立つと思うのだけど、どうだろう。

  

 友人の失恋話を聞いていた岸谷さんが「いいなあ、また恋が出来るじゃん!」と励ましたのを、その場に同席していた作詞家の木村ウニさんがすてきに思って歌詞にした曲なのだそう。とてもいい言葉だなと思った。

 悩みが長引く原因は「物事を同じ方向から見続ける」からであることが多い。 “失恋”という状態と“いつでも新しい恋が出来る”という状態は完全にイコールなのに、落ち込んでいるとその発想の転換が困難になりがちだ。

 そういえば、以前どこかで“人は最初に好きになった部分を嫌いになりやすい”という話を聞いたことがある。例えば、初めは相手の「明るくて社交的なところがいい」と思っていたのに、そこが「浮気性だ」と感じるようになったり、「マメなところがいい」と思っていたのに「束縛がキツイ」と感じるようになったり、という風に。

 どちらも同じ状態なのに、恋に浮かれた気分か、冷静かの違いで、いとも簡単に長所は短所に変わる。その逆もまたしかりで、「第一印象は超最悪だと思っていたのになぜか結婚した」という話もよく聞く。人間なんて結局は気分まかせの生き物なのだ。

 だからこそ、「また恋が出来る」みたいな、さっきまでのガチガチだった固定観念をじわっと溶かしてくれるような一言は大切で、世界をちょっとだけ明るく変えてくれる気がする。

  

 カーリングはなぜか見てしまう。なんとなくテレビをザッピングしていて手が止まって、気づけば試合終了まで見ている、ということが多かった。それはこの競技の中継方法の特異な性質によるものだと思う。カーリングは1試合が3時間近くかかるが、その間ずっと選手はテレビカメラにアップで表情を抜かれ(編注:「抜く」は「撮影」を意味する業界用語)、試合中の会話をマイクで拾われる。そんなスポーツは他にない。一番近いとすればゴルフだと思うが、それでもここまで執拗(しつよう)に顔色や会話を抜かれることはないだろう。

 当然、カーリングの選手たちは試合に集中しているわけで、テレビ放送のことまではそれほど気にはしていないはずだ。ということは、もし口の悪い選手がいたらおそらくは放送禁止用語を口にしてしまうこともあるだろう。その辺は大丈夫なのだろうかと少し心配になる。でも、逆に言えば、ものすごくノリのいいチームなら試合中に選手同士で冗談を言ったり、軽くボケてみたり、なんならノリツッコミしたりすることなんかも可能だと思う。

 今回のカーリング女子は「そだねー」という流行語の卵を生んだが、もしもこの先、スポーツ中継なのにたっぷり会話をお届けできるという、カーリング中継の特異性に気づいたそれこそTEAM NACSみたいなオモシロ仲良しチームが現れたりなんかしたら、テレビ中継は最高のプロモーションになるわけで、この競技からスターが生まれる可能性は計り知れないなと思う。

  

 新書のタイトルはどんどんインパクト勝負になって来ている。ついには「歯はみがいてはいけない」と来た。やったー! 磨かなくていいならそんな楽な話はないじゃん! と思って喜び勇んで読んでみると、朝晩はちゃんと歯磨きをしなさいと書いてある。何だそりゃ。だまされた。

 つまりは“研磨剤”で磨くのはよろしくないけど、「歯垢(しこう)を落とすためのフロスやブラッシング」はちゃんとしましょうという話。「みがく」には研磨剤で削るという意味もあるから、タイトルにうそがないといえばないのだけれど、ズルいというか、なんというか。

 とはいえ、この「当たり前だと思っていたことを否定する」ことで字面のインパクトを強めるという技術は、日頃の企画書なんかを書くときにも使える気がする。

 例えば、簡単な変換で「顔は洗ってはいけない」というのはどうだろう。いかにも最先端の美容ケアの提案が始まりそうだ。「人から愛されてはいけない」なら、いかにも新手の自己啓発理論が始まりそうだ。

 たぶん、当たり前だと思い込んでいたことを当然のように否定されると、反射的に脳は混乱して、理由を求めるのだろう。そこに相手を話に引き込む“引力”のようなものが発生するのだと思う。「おれ、恋愛に興味ないんだよね……」とか何とか言う男子にまんまとだまされちゃう女子の心理なんかも同じことが働いているのかもなと思う。

  

 共演者に「そのメイクは……」と振られると「メイクではない」と言い、年齢を聞かれると「10万55歳だ」と答える。“こりん星”なんかの残念な終焉(しゅうえん)を見るにつけ、デーモン閣下のこのお決まりのやりとりの揺るぎなさは改めてすごいなと思う。やはり“本物”は違うな、と格の違いを感じざるを得ない。

 それにしても、年齢の前に「10万」を付けるというのは、いつの世でもキャッチーに響くエポックメイキングな発明だなと思う。

  

人生は本当に大喜利だった

 先日、家族で温泉施設に遊びに行ったときのこと。水着着用のスパ・エリアは直径5メートルくらいの露天風呂が7つ並んでいて、それぞれの湯の色と薬効が違うというスタイルだった。3歳半の息子は「つぎは何色だろうねー」と、はしゃぎながら、順々に風呂に入っては出て移動していた。

 だが、最後の白色の湯には先客がいて、十数人のいわゆる「やんちゃそうな若者たち」が丸い風呂おけを一周、アルファベットのCの形に陣取って盛り上がっていた。芋洗い状態というほどではないが、普通の大人ならばその風呂には入らないだろう。

 しかし、どうしても湯の色をコンプリートしたい息子はそれでも入りたいと言う。私は意を決して息子と一緒に入った。当然、さっきまで盛り上がっていた会話はぴたりとやみ、若者たちの刺さるような視線がこちらへ注がれる。息子も顔がこわばっている。私は苦笑して「どうした? 緊張してる?」と息子にたずねた。すると息子は、蚊の泣くような声で、「きんちょうはしてないけどー、ぜんぜんきんちょうしてないけどー……もう出たいっちゃあ、出たい」とつぶやいた。その瞬間、若者たちから爆笑が起こった。まさに前述の「人生って大喜利」だなと思った。息子は「3歳半にしてはやけに言葉が達者である」という自己紹介を、ほんの数秒でしっかりと終えたのだ。

[PR]

 ホテルの部屋に戻ったあと、「あの空気の中で一言で爆笑をとるなんて、お前はすごいよ」と言うと、息子は「だってねぇ、ぼくねぇ、ぜんぜんきんちょうしてなかったんだもーん! えーっ、パパがきんちょうしてたんでしょー?」と言って、ベッドで跳び跳ねながらうれしそうに謎のダンスを始めた。言葉はすっかり大人顔負けのレベルで、生意気なことばかり言うけれど、うその下手さはまだまだ子供だなと思って、つかまえて抱きしめた。

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

いしわたり淳治(イシワタリ・ジュンジ)

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

BOOK

『次の突き当たりをまっすぐ』
筑摩書房/1400円(税別) いしわたり淳治 著

ミニマルな構成にシャープな風刺と驚きの結末が仕掛けられた“ことば”のエンターテイメント。鮮やかな幕切れの連続が読者を虜にする。20万部を突破した前作『うれしい悲鳴をあげてくれ』から10年。“歌詞解説”で話題沸騰の作詞家・いしわたり淳治による筑摩書房ウェブマガジン「webちくま」の連載「短短小説」に書下ろし作品を加えた28編が待望の書籍化。

今、あなたにオススメ

Pickup!