マッキー牧元 エロいはうまい

<50>コラーゲンが唇、舌、のどに絡みつく? 多幸感を覚える豚のスープ

  • 文・写真 マッキー牧元
  • 2018年4月3日

肉骨茶(バクテー)。白いボウルにスープにつかった肋肉が二本

  • 肉骨茶(バクテー)。白いボウルにスープにつかった肋肉が二本

  • 肉骨茶に入れて食べるとおいしいミースア(中華麺)

  • 同じく肉骨茶をもり立てる油条(ゆうじょう・揚げパン)

  • 油条はスープにひたしながら食べると美味

  • ごはんもスープと一緒にいただきたい

 「なぜ日本には、バクテーを手軽に食べさせる店がないのだろうか?」

 シンガポールやマレーシアに行かれたことがある方なら、必ずそう思っているはずである。

 「肉骨茶」と記す「バクテー」は、この両国では専門店が数多くあって、老いも若きも食べている大衆料理である。骨ごとぶつ切りにした豚の肋肉(ばらにく:あばら骨のある腹側の肉)を漢方に用いる香辛料と中国じょうゆで煮込んだ料理なので、ファストフードといえど、健康にも美容にも良い。

 現地の人は、朝食や昼食で肉骨茶をおかずにして、ごはんを食べる。マレーシア発祥ともシンガポール発祥とも言われ、両国の人たちはうちの国が元祖だと言って譲らない。元々は、中国人の港湾労働者たちが安価でスタミナのつくものをと考え出したものだという。

 その肉骨茶専門店が、日本にもできたのである。うれしい。これでいついかなる時でも肉骨茶を楽しむコトができる。はやる気持ちを抑え、まずはハイボールを頼み、「酢キャベツ」と「辛味噌ホルモン」を頼み、専門店誕生を勝手に祝福した。

 そして肉骨茶である。白いボウルには、薄茶色のスープにつかった肋肉が二本顔を見せている。スープから複雑な漢方の香りが、漂って顔を包む。

 ああ、これだけで幸せになる。たまらず飲めば、優しい。豚の滋味が溶け出したスープは、ゆっくりと舌に流れ、体に染み入るように胃の腑(ふ)に落ちて行く。

 漢方の滋養や溶け込んだコラーゲンが、唇や舌、上顎(あご)や喉(のど)をいたわるようになめ回す感覚。肉をかじれば、臭みはみじんもなく、うまみはスープに溶け出しているものの、かみ締めれば肉の甘みがあって、脂は甘い香りをにじませながら溶けていく。

 この肉骨茶をもり立てる炭水化物は、ご飯、油条(ゆうじょう・揚げパン)、ミースア(中華麺)の三種類。

 ミースアはそのままスープに入れて、塩ラーメン的展開を試みても楽しいし、油条はスープに浸して、軽くふやけたとこで食べると、中からスープがじゅわりと飛び出して、これまたおいしい。

 ご飯は、肉を黒しょうゆに漬けて食べて喚起欲を高めてかき込むもよし、現地の人風にレンゲに乗せて、スープに浸して食べるもよし、スープに入れて茶漬け風にして食べるもよし。まあこうして食べ進めば、すぐになくなってしまうわけですね。

 唇の周りについた油の滑りを感じながら、体は漢方効果でポカポカしてくる。この気軽なお得感が肉骨茶の魅力でもある。

 空腹時でも食欲減退時でも、温かく迎え入れ、そして何より酒飲みの私にとってうれしいのは、二日酔いを迎えた朝食に最適なコトなのである。

    ◇

新加坡肉骨茶(シンガポールバクテー)
東京都港区赤坂5-4-14 ベルテンポ赤坂 1F
http://www.sgbkt.jp/

 シンガポールで有名店を食べ歩き、研究と試作を繰り返したオーナーが作った店だという。香味料・漢方は、黒コショウと白コショウ、桂皮、西洋当帰、八角など10種類。骨つき肉骨茶ライスセット、骨つき肉骨茶ミースアセット、骨つき肉骨茶油条セット 各980円。油条、ミースア、ライスをセットにした骨つき肉骨茶満喫セット1280円。肉骨とは「そぎ落としきれなかった肉片がついた骨」からきているとされ、茶も入っていないのに茶とつくのは 元々は肉骨地といい地と茶の発音が似ていることから入れ替わったとされる。海南鶏飯(チキンライス)と共に、マレーシア人とシンガポール人の間では、発祥を巡り論争となっている。

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PROFILE

マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問

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1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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