マッキー牧元 エロいはうまい

<51>しびれと辛みと穏やかなうまみにほんろうされる……「汁なし担々麺」魅惑の世界

  • 文・写真 マッキー牧元
  • 2018年4月17日

「汁なし担々麺」専門店の先駆けとなった湯島「阿吽」。花椒の香りが鼻をくすぐる

  • 「汁なし担々麺」専門店の先駆けとなった湯島「阿吽」。花椒の香りが鼻をくすぐる

  • 小川町の「担々麺辣椒漢」は唐辛子と花椒がたっぷりかけられた迫力がある

  • 四川料理の店、神楽坂「梅香」の一杯

  • 赤坂「Wakiya 一笑美茶樓」の汁なし担々麺。スパイスからほのかに甘い香りが立ち上る

  • しびれ、辛み、うまみが合わさる「老四川 瓢香」の一杯

  • 本場の味を再現、池袋「六坊担々麺」の「成都式汁なし担々麺」

連日行列! 「汁なし担々麺」専門店の先駆け

 東京では、今「汁なし担々麺」が群雄割拠状態にある。

 従来の四川料理の店だけでなく、「汁なし担々麺」専門店が次々と開店し、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)となっている。

 専門店の先駆けとなったのが、湯島「阿吽」と言われ、ファンが多いこちらは、連日行列ができている

 運ばれると、花椒(ホアジャオ:四川のサンショウ)の香りが鼻をくすぐり、混ぜていくと、混然一体化した香りが漂いだす。

 平打ちの麺は、タレや肉みそをよく絡めながら口元に登ってきて、噛めばモチモチと心地よく、瞬く間に食べ終えてしまう。

 また水菜のシャキシャキした食感、干しエビの香りと深い味わいが、見事なアクセントとなっている。

 辛みとしびれの強さがそれぞれ好みで選べるのもいい。

本場の味を楽しめる都内の名店がずらり

 池袋の「六坊担々麺」の「成都式汁なし担々麺」は、本場の味を再現する。

 色白の中細麺と対照的な赤いタレ、武骨な肉みそと青菜だけというシンプルで潔い姿で、調味料のバランスがよく、一気に食べ終えてしまう魔力がある。

 小川町の「担々麺辣椒漢」は、中太な麺に唐辛子と花椒がたっぷりかけられた迫力あるお姿ながら、全体の調和が良く、一心不乱に食べてしまう。

 また食べ終えても肉みそやタレが残らない仕事が、きれいである。

 四川料理の店では、神楽坂「梅香」がいい。

 正式な汁なし担々麺を、初めて日本に紹介した、新橋「趙楊」直系弟子の山村光恵さんの店である。

 「四川担々麺」は、その端正な姿が美しい。

 最初は花椒の華やかな香りがして、混ぜると様々な香りが立ち上り、顔を包み込む。

 辛みもしびれもしっかりと感じるが、深いうまみもある。

 自家製ラー油やサンショウ油、ネギやヤーツァイ(青菜の芽を塩漬けした四川の漬物)、腐乳(ふにゅう:豆腐をこうじと塩水に漬け発酵させた中国の食品)、にんにく、黒酢などを使ったというタレは、担々麺で最も重要なポイントである“香り”が、優しい。

 食後に気持ちが安らぐような汁なし坦々麺である。

四川料理以外のオススメ店は……?

 四川料理店でない店では、赤坂「Wakiya 一笑美茶樓」をオススメしたい。

 ピリッと辛い「汁なし担々麺」は、たっぷりと散らされた、漢源花椒からほのかに甘い香りが立ち上る。

 肉みその味わいが複雑に混じり合っているので、一口目は甘く、次第に辛みやしびれがやってくる。

 中細縮れ麺、自家製ラー油と香油の香り、肉みそのうまみ、ごまペーストのコクが混然一体となって、笑顔をよぶ担々麺である。

 また「臥龍居」の方でも、テイクアウトコーナーにて「担々まぜ麺」がある。チャーシュー、ナルト、メンマと日本式な具を配し、ラー油の香ばしさが生きている。

 テラスで汗をかきながら食べれば、クーラーの利いた部屋で食べるそれとは異なる魅力があって、まさしく生まれ故郷「成都」元来の光景をほうふつとさせる。

しびれ、辛み、うまみが合わさる究極の「汁なし担々麺」

 最後に最もオススメしたい、「汁なし坦々麺」の店をご紹介したい。

 麻布十番の四川料理店、「老四川 瓢香」である。

 目の前に運ばれるとまず、ほのかに甘い、華やかな香りが顔を包む。

 混ぜていくと、サンショウの刺激香が鼻腔(びこう)を刺し、やがて複雑な香りとなっていく。

 辛みもしびれもありながら、実に味わいが丸い。

 バランスがよく、肉みそ以外はうまみに頼っていないのに、食べ進むに従って、深いうまみが増していく。

 その上、麺がなんともうまい。

 このしびれや辛みと穏やかなうまみが溶け込んで、舌や口腔(こうこう)、鼻やのどをくすぐるのである。

 しびれや辛みの刺激と穏やかなうまみという相対する味わいは、どちらが突出することなく、丸くまとまり、激しく平手打ちされながら、柔らかく温かい頰で頰ずりされているような、叱咤(しった)されながら褒められているような感覚に、ハマるのである。

 やはり人はSとMの両方を内包しているんだなあと、妙なことも確認しつつ、その喜びに浸るのである。

 実はこの担々麺には、裏ワザがある。シェリー酒を合わせるのである。するとシェリーの濃い、かすかな焦げ香とコクが、担々麺と抱き合って、途端につやをにじませる。あたりに怪しい大人の雰囲気が漂いだす。良い子はまねしちゃいけません。

    ◇

老四川 瓢香
東京都港区麻布十番1-3-8 FプラザB1


http://www.piao-xiang.com/

 テレビでも活躍される井桁良樹シェフの四川料理店。汁なし担々麺「正宗担々麺」は、昼夜ともに千四百円。松の実と砕いたピーナツ、極細ネギ、肉みそが上に乗せられた担々麺のタレには、鳥スープ、自家製ラー油、しょうゆ、砂糖、塩、酒、チーマージャン、ピーナツペースト、黒酢、ヤーツァイ、ニンニク、唐辛子、サンショウ、山奈(生姜科の多年草)、砂仁(ハナミョウガなどの種子塊)、カルダモン、八角、桂皮が入れられている。
 複雑さの魔力はここにあるのだ。

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PROFILE

マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問

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1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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