湯山玲子の“現代メンズ解析”

リスキーなチャレンジが許される人の条件とは? サイバーエージェント藤田晋さんの経営哲学

  • 湯山玲子の“現代メンズ解析”♯04 前編
  • 2018年5月1日

  

著述家の湯山玲子さんが「現代のかっこよさ」を探る当連載。今回の対談相手はサイバーエージェント代表の藤田晋さんです。

藤田さんは現在、ニュースやバラエティー、アニメ、ドラマ、音楽、スポーツなど、約20チャンネルで展開される各種番組を無料放映するインターネットテレビ局「AbemaTV」に注力。その前例のない取り組みの成否に注目が集まっています。

手堅い事業に安住せず、新しい領域へ果敢にチャレンジする姿に、「リスクを取って勝負に挑む人間ならではの魅力が宿っている」と湯山さん。

今回お二人には、失敗に厳しい時世における「リスクとの向き合い方」について話し合っていただきました。前編のテーマは「仕事上のリスク」です。

後編「リスクの対価」はこちら

「AbemaTV」は“確実”に勝てる勝負をしている!?

湯山玲子(以下、湯山) 地上波放送とは異なる角度からの挑戦的な番組が多く見られるAbemaTVですが、やはり世間が驚いたのは、稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんが事務所移籍後に初共演した「72時間ホンネテレビ」(2017年11月2日~5日配信)ですよ。テレビ離れが進むなか、若者だけでなく、周囲の40〜50代の大人たちも当番組の話をしていたことに驚きました。

  

そのAbemaTV は、今のところ“先行投資”の段階。ガンガンもうかってウハウハというわけではないですよね。失敗をすると厳しく批判されやすい今の日本社会で、藤田さんはリスキーなチャレンジに真正面から取り組んでいる。その姿はとても魅力的に映ります。なぜ藤田さんはリスクを取れるのか。今日はそこをお聞かせいただきたい。

藤田晋(以下、藤田) 昨年、会社全体の利益は約300億円でしたが、AbemaTVは200億円の赤字を出しています。つまりAbemaTVをやらなければ利益は500億円になっていました。しかし、僕は他の事業が順調だからこそ、新しい事業を立ち上げたほうがいいと思っています。

一般的には、本業がジリ貧のときに「新しい事業を立ち上げてなんとかしなきゃ」となるけれど、それはマイナスの循環に陥りやすい。精神的にも体力的にも余裕があるときに投資をしたほうがいい。

湯山 だとしても、もっと他のブルー・オーシャン(編注:競争のない未開拓市場)に乗り出す手はあるでしょう。海外を含めて今後、需要が伸びると予想される分野、たとえば医療、介護、エンディング産業(編注:葬儀など人生の終末期に関わるサービス)……そういった業界があるなかで、あえてターゲットをインターネットテレビにしたのはなぜですか。

藤田 そもそもうちの会社は過去に動画ビジネスを3回ほど立ち上げていたので、全くの未経験ではない。それに加えて、アメーバブログで芸能界との付き合いもある。つまり、ネットテレビを事業化する体制は整っていて、あとはタイミングを見計らうだけというところでした。

そのなかで、2010年代に入って一気にスマートフォンが普及。テレビデバイスもネットにつながりはじめたので、ここが勝負どころだと判断したわけです。みんなが「いい」と思うよりも少し早いくらいのスタートがちょうどいい。早すぎてもダメですが、遅いと完全にゲームオーバーですから。

湯山 インターネット事業は、最初に手をつけ、シェアを治めた人の一強ですからね。二番手に勝ち目はない。

藤田 おっしゃる通り、ウィナーテイクオール(編注:勝者総取りの選挙方式。転じて最終的な勝者が全てのパイを獲得する一人勝ち状態を指す)です。僕の感覚としては今、据え置き型の受信機で地上波放送などを見ている人たちも、将来的にネットでテレビ番組を見るようになるし、受信機はタブレットやスマートフォン端末で構わないという時代は確実に訪れるでしょう。そのときにAbemaTVが独自のポジションを築いていれば成功という考え方。自分の中では、ほぼ確実に来る未来に対して投資しているつもりです。

湯山 “確実”なんですね。

藤田 そうですね。たとえば、かつて「ネットショッピングに抵抗感がある」という人は多かったけれど、今ではamazonや楽天の売り上げが百貨店を抜いてしまいました。やがてスーパーやコンビニを抜くのも確実と言われています。それと同じように時代が変わることは決まっていて、AbemaTVは長い目で見れば勝つ確率がかなり高い勝負を仕掛けている。

  

藤田晋(ふじた・すすむ)

1973年生まれ。福井県出身。1998年にサイバーエージェントを創業し、2000年には史上最年少社長(当時)として東証マザーズに上場。「21世紀を代表する会社を創る」をビジョンに、「Ameba」をはじめ各種のインターネット事業を展開。2016年からはインターネットテレビ局「AbemaTV」のサービスの拡充・拡大に注力する。著書は、『渋谷ではたらく社長の告白』『起業家』ほか多数

湯山 なるほど。それなのに他の会社は参入して来ないと。私が情報出版社「ぴあ」に勤めていた80~90年代から、「これからはインターネットの時代になる」とみんな言っていました。当然、電通、博報堂もそう思っていただろうし、テレビ局もきっとそうでしょう。なのに、なぜ彼らは“絶対に来る未来”に思い切って投資しなかったんでしょうね。いや、そういう部門をスタートさせていたのかもしれない。しかし、「赤字を出さなければ何やってもいい」ぐらいの、様子見だったような気がします。

藤田 それは口でいうほど簡単ではないからですよ。当社もスマートフォンの普及率がまだ15%にも満たない2011年にスマートフォン市場に本格参入し、短期的な業績が多少悪くなることを覚悟の上で事業のスマホシフトを実施しました。今から振り返ってみると、正しいことを当たり前にやっただけですが、その渦中では、思ったような評価は得られないこともありました。

なぜなら、組織の論理のなかでは、その時点で利益を生み出している事業が評価され、それに対して先行投資で赤字を出す部門は迷惑な存在と見なされる。さらに、短期的な視点を持った投資家なども「業績を悪化させるなら責任を取れ」と言ってきたりもする。そんな厳しい状況のなかで、リーダーは周囲を黙らせて、やるべきことを前に進めないとならない。

AbemaTVにしたって、この事業を始めなければ、今期500億円の利益を出してほめられていたと思います。僕もそのほうが楽ですよ。でも、その後につらくなるのは明らかだから、あえて200億円の赤字を出しても進めたわけです。

リスキーなチャレンジをしても許される人の条件とは

  

湯山 短期的には損するわけですし、未知の領域へのチャレンジとなれば反対派が出てくるのは必然ですよね。そのなかで、藤田さんは新規事業を推し進めることができた。ところで、リスキーなチャレンジをすることを許される人の条件ってあるんですか。人間は社会的な動物なので、行動を起こす時や起こした後に、周囲の応援が必要です。

藤田 言い続けることでしょうね。実績がなかったころは、僕も社内外の批判に屈したことはありました。それでもずっと言い続けていると、だんだん「ハイハイ、また藤田か」となってくる。もうそういうキャラになってしまうことです。それでやりきる。僕以外の人が年間200億円の赤字を出してまでAbemaTVを始めようとしたら、他部署につぶされていたでしょうね。

湯山 「これは勝てる」と確信したら、ブレずに同じことをやり続ける。藤田さんのマージャン好きは有名ですが、そこに通じているのかもしれませんね。周りの人はそういう藤田さんの姿勢に「賭けた」。

藤田 そうかもしれません。AbemaTVで赤字を出していても、今のところサイバーエージェントの株価は上がっています。それは株主の皆さんに理解いただいているし、彼らが僕のチャレンジに賭けてくれているということ。やはり同じことを言い続けるしかないでしょう。

湯山 藤田さんのマージャンの師匠である雀士・桜井章一さんは、「石橋をたたきすぎると運が逃げていく」と言っています。これはその通りだなと思いました。一般的な仕事観では、何事も調べ尽くして動くのがいいとされていますよね。念入りなデータが上がってきて初めて「このプロジェクトを進めましょう」と。しかしながら、インターネット時代のビジネスは早さが勝負なので、それをやっていたらチャンスを失うのかもしれない。

藤田 ネット業界でそれでは完全にダメですね。それなら早く始めて失敗したほうが、経験値が得られるからいい。石橋をたたいている間に状況も変わってしまいますから。ネットは製造業のように初期コストはかからないし、それであれば早く始めて失敗したとしても、知見がたまります。伝統ある会社は、石橋をたたきすぎる傾向があるように感じます。

湯山 石橋を慎重にたたきすぎた結果、失敗して心がズタズタになった経営者を何人も見ています。「こんなに万全にやったのに、なぜ?」と。

藤田 石橋をたたいている時間がコストなんですよ。「ピボット(pivot)」というんですが、市場の反応を見ながら事業内容を少しずつ変えて調整すればいい。うちもそうですが、創業時の事業でずっとうまくいっている会社はほとんどないですよ。少しずつ事業を変えていき、当たったところを伸ばしていくことで長く続けられます。

湯山 桜井章一さんの言葉でもう一つ気になるものがあって、「準備・実行・後始末をすると澄んだ気持ちになる」。これはどうですか。ビジネスにおいても、準備、実行はできても、後始末って嫌なもので、“やりっぱなし”になることも多い気がしますが。

藤田 後始末、特に、失敗したあとの検証は大切ですよね。なぜ仮説と違ったのか、何が問題だったのか見直さないと同じ過ちを繰り返してしまう。人間はうまくいったものは何回も見直したくなるもので、マージャンも勝ったときほど振り返りたくなるものですが、本来は失敗したときこそ、その過程を詳細に見るべきです。

湯山 企業では上司に報告書を出したりしますよね。御社ではどうですか。

藤田 失敗を会社の資産として生かそうと、本にしています。ライターに過去の失敗事業やプロジェクトについて、関係社員へ取材してもらって、“読ませるもの”にしています。人の失敗談だとみんな読むんですよね(笑)。

  

その上で、「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを」という会社のミッションステートメント(編注:会社としての行動指針)があって、失敗してもその経験を次で回収すればいいと考えています。

湯山 これはまた、素晴らしいアイデア!!  「失敗は水に流して、無かったことにしたい」という気質は少なからず誰にも存在しますが、たとえば、第2次世界大戦の日本軍などは、失敗から教訓を引き出さず、同じ失敗をまた繰り返していたことが指摘されています。そういう「失敗が嫌」という人間の性格を踏まえた素晴らしいシステム。第三者のライターが入ることで、失敗が単なる反省文ではなくなりますし、傷を言語化して距離を取れるようになるのは、本人の再生のためにもいい気がします。しかし、データではなく「本」という形にするのはなぜでしょう?

藤田 失敗の本質をあぶり出すには、その出来事を長い時間軸で捉える必要があります。長期的に見れば成功した事業も、その過程において一時的に批判されることがあるように、結果的には失敗している事業が短期的には成功したように見えることもあるためです。取り組みの経緯を詳細にまとめると、それなりの分量になりますし、「本」という形態だと収まりがいい。

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湯山 全体像がつかみやすくなるというわけですね。

藤田 そう思います。僕が2013年に出した「起業家」(幻冬舎)も、アメーバを立ち上げて「赤字、赤字」と言われていたころから黒字に転じるまでの経緯を記録したもの。「あのときこんな批判してくれたよな」といったこともできるだけ恨みがましくないように書いていて、あの本を見て「そういうことだったんですか!」と驚く社員も少なからずいます。渦中にいる人間が状況を客観視できなくなることはままあること。批判してもみんな都合良く忘れているんですよ(笑)。

(文・ライター 安楽由紀子、写真・野呂美帆)

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PROFILE

湯山玲子(ゆやま・れいこ)

プロデューサー。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッション等、文化全般を独特の筆致で横断する執筆を展開。NHK『ごごナマ』、MXテレビ『ばらいろダンディー』レギュラー、TBS『情報7daysニュースキャスター』などにコメンテーターとしても出演。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舍文庫) 、『クラブカルチャー ! 』(毎日新聞社)、『女装する女』(新潮新書) 、『四十路越え ! 』(角川文庫)、上野千鶴子との対談集『快楽上等 ! 3.11以降を生きる』(幻冬舎) 、『文化系女子という生き方』(大和書房)、『男をこじらせる前に』(角川文庫)等。月一回のペースで、爆音でクラシックを聴くイベント「爆クラ」を開催中。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。

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