湯山玲子の“現代メンズ解析”

カネ、仕事、評価、強いメンタル……etc. 「リスクの対価」として得られるもの

  • 湯山玲子の“現代メンズ解析”♯04
  • 2018年5月2日

  

失敗に厳しい日本社会において、リスクを取れる人間は魅力的に映る。とはいえ、やみくもに危険な賭けに出ればいいというわけでもない。

では、リスクとの適切な距離感とは――。

サイバーエージェント代表・藤田晋さんと著述家の湯山玲子さんが、この時代におけるリスクとの付き合い方について語り合います。後編のテーマは「リスクの対価」です。

前編「リスキーなチャレンジが許される人の条件」はこちら

人生のスタートラインは不公平

湯山玲子(以下、湯山) 藤田さんは大のマージャン好きとして知られ、AbemaTVで放送しているマージャンのリーグ戦「RTDリーグ」を2016年から主催。過去2回はご自身も出場し、第1回は準優勝されています。マージャンを始めたのはいつからですか。

藤田晋(以下、藤田) 小学校からです。

湯山 それは早い! マージャンのおもしろさは、プレーヤーの技術と力量にプラスして、運とツキが関係してくるところですが、そこを嫌う人は少なくないですよね。自らコントロールできないし、リスクが関わる話だから。

藤田 基本的には、事業もマージャンも、リスクとリターンのバランスです。リーチ(編注:あと一つ必要な牌〈パイ〉がそろえばあがれる状態であることを宣言する行為。あがると点数が上乗せされるが、宣言後は手牌を変更できない)をかけるのは怖いけれども、リスクに対して上がったときのリターンが大きければ、勝負をかけたほうがいい。事業も勝てる確率が8、9割であれば勝負したほうがいい。でも、残り1、2割の失敗にフォーカスしてしまって、チャンスに勝負ができない人は多いです。

  

湯山 そこですよね。成功の可能性より失敗確率を重要視することが、リスクマネジメントだと思っているところがある。とにかく不安なことが耐えられない。

藤田 日本社会は失敗するとかなりたたかれるからかもしれません。

湯山 小さいときから、なるべく失敗を避けるための教育を受けてきたから、というのもあるでしょうね。「リスクを取りつつ、努力を積み重ねて成功すれば楽しい」という思考回路より、「やっちゃダメ。なぜなら、いたい目に遭うから」という考え方のほうが強く刷り込まれている。

藤田 実際、日本企業では一生を賭けたトーナメント制ともいえる出世争いをしていて、失敗していない人は無難に勝ち上がります。その一方で、失敗すれば落ちるし、失敗せずとも辣腕(らつわん)をふるって大きなことに挑戦する人物は、上に行くと嫉妬を買って飛ばされるということも起きてくる。そうなると、「挑戦しないほうが得だ」と判断し、どんどん勝負しなくなってもおかしくありません。

湯山 かつてのサラリーマンとしては身にしみます。だからこそ藤田さんの勝てるラインを論理的に分析して勝負する姿勢といいますか、そういうセンスがどこで培われたのかが気になります。学校教育にもヒエラルキーが強いクラブ活動にもなかったと思いますが。

藤田 明確に、マージャンだと思います。

湯山 やっぱり、それか?!

藤田 日本の義務教育はいわば将棋ですよね。スタートラインをそろえているから公平です。しかし、現実はマージャンのように配牌(編注:「ハイパイ」とは、ゲーム開始時に配られる手牌のこと。ここでは人生のスタートラインの比喩でもある)の時点で偏りがある。クソ配牌から始めなければならない人もいるし、お坊ちゃんで、イケメンで、運動神経も良くて……という、まさにドラ(編注:あがったときに得点が加算される牌)をいくつも持っている人もいる。

湯山 生まれながらにして好配牌の人、確かにいますね。

藤田 今は新卒の社員だって、昔のように一律ではなくスタートラインから違いますよ。大学時代から起業していたり企業で仕事をしていたりする人も珍しくないし、エンジニアに至っては入社して即戦力になるようなスキルを持つ社員も普通にいる。つまり、常に不公平が前提の世界で戦わなければならないからこそ、いちいち自分のクソ配牌を嘆いていても仕方がないし、自分なりに勝算を見つけて勝負していくしかない。

「リスクの対価」はお金に備わる重要な性質

  

湯山 お金のリスクについてもお聞きしたい。昨年あたりから仮想通貨が爆発的に注目を集め、労働せずに莫大(ばくだい)な金を稼ぐ“億り人”なんていう人も出てきています。ところが日本では今なお労働以外でお金を得ることを“悪”とする風潮も根強い。

藤田 僕はそれを悪と思ったことはないです。お金には労働の対価という性質と、いわゆる不労所得と呼ばれるリスクの対価という性質があります。僕の個人資産はほとんどサイバーエージェントの株で築いたものですが、それは不確実性の高い投資が実った結果であり、働いた分確実に支給される給与とは性質が異なります。

多くの人はリスクの対価について学ぶ機会がないから、一度はギャンブルをやってみたほうがいいと思います。たいてい損をしますが、それはお金との向き合い方を知る上で重要な経験になる。

湯山 リスクの対価として多くの富を得られることもある。つまり、やり方次第では働かなくても稼げる人生もあるわけですが、そうなると労働のあり方も問われてきますね。

藤田 たとえ経済的に裕福になっても、それが労働を手放す理由になるとは思えません。会社を売って引退した社長も、すぐビジネスの世界に戻ってきます。“人に必要とされたい”“社会の役に立ちたい”というのは、人間の根源的な欲求なのでしょう。

それに加えて社会的な活動をする上で肩書が有効なところもある。引退した途端、名門ゴルフクラブで「こちらはお金持ちの田中さんです」などと紹介されるのはつらいですよね(笑)。役割や肩書がほしいという欲求は、永遠に変わることはないと思います。だからこそ人は労働をやめられない。

  

ゴシップもダメージにならず ホリエモン最強説

湯山 最後にリスクと男性のメンタリティーの関係性についてお聞きします。男性の内面は変わってきていると思いますか。昨今、「草食化」なんて言われて久しいですけど。

藤田 それで言うと、渋谷で不良が減っているように思います。親が体罰しなくなって、家に反抗する理由がなくなった。さらに不良というスタイルも、以前よりモテなくなってきた。そういう流れのなかでみんないい子になって、その先に草食化がある気がしなくはない。

湯山 失敗によって経験値が上がるのに、失敗すると自分の殻にこもっちゃう。打たれ弱い。

藤田 そうですね。経営者の世界も、ホリエモン(編注:堀江貴文氏)が2006年に逮捕されたあと、草食化というか、優等生の起業家ばかりが出てきた。「出るとたたかれる」と思ってしまうんでしょうね。小さくまとまってしまうともいえます。

湯山 これは個人的な経験に基づく実感ですが、私がプロデュースでかかわるイベントなどで、現場のトラブルをおさめることができる人は、必ずといっていいほど体育会系出身の人でした。体育会系の弊害もいろいろ取りざたされていますが、忍耐力、ダメージに対する耐性は確かにある。厳しい部活動で理不尽にたたかれることが男性のイニシエーション(編注:「通過儀礼」の意)になっているんですかね。

  

藤田 そう思いますね。僕自身、たたかれて精神力を鍛えてきた面があるし、たたかれる場を経験しないと胆力も磨かれない。世の中、そういう経験をたくさん積んだ者勝ちです。堀江さんなんて、逮捕もされるわ、プライベートな報道をガンガンされるわ、世間からもみくちゃにされてきた。あらゆるバッシングも受けまくって、もはやスキャンダルがダメージにならない。こうなると強いですよ。

湯山 今や多くの人がネットなしには生きられない時代ですが、ネットには「炎上」もビルトイン(編注:「内蔵」の意)されているから、たたかれても沈まないタフさは必要ですよね。この点については、世代差を感じる。若い子たちは、悪い弾のよけ方を知っているけど、中高年は致命傷を負いかねない。

藤田 確かにネット上での振る舞いに世代差は感じます。経営者でいえば、僕らより上の世代はイメージを作り込む傾向にある。でも、ネットの世界では、自分の中身以上のことを見せようとすると、本質を見抜かれ、すぐにたたかれる。だから自然体でいるしかない。僕もしょっちゅうアホなことをツイートしています。

湯山 エゴサーチってします?

藤田 普通にしますよ。あまりにいろいろ言われすぎて、悪口を言われても、ほめられてもなんとも思わない。いや……まったく気にしないというわけではないけど、かなり感性が鈍りました。慣れるものですね。

  

湯山 藤田さんにとって「男のかっこよさ」とは、今の時代も「強さ」「タフさ」というところでしょうか。

藤田 そうですね。精神力が重要じゃないですか。

湯山 精神力を鍛えるためにも、マージャンをやったほうがよさそうですね。

藤田 やったほうがいいと思いますよ。

湯山 マージャンが強いと仕事もできますか。

藤田 いや、そこは全然イコールじゃないです(笑)。

  


湯山玲子の取材後記

広告、編集の仕事をやっていたとき、ベンチャー企業の社長と接触する機会がたびたびあった。彼らの特徴は目力。一種のカリスマ性というか、部下たちに忖度させるようなムードがあり、年齢が近い社員の中でトップを張るには、こういったスタイルを作らなくてはダメなのか、と思ったことがある。

しかし藤田社長からは、そういった匂いがみじんも漂って来ない。親しみやすいというわけではない。男性の多くは自己防衛のためか、人間関係において「負けたくない。バカにされたくない」という虚勢のスイッチを、あまりにも頻繁に入れるが(前述の社長たちは、ずっとソレを入れっぱなしだったのだろう)、藤田社長にはそのスイッチ自体が存在しない感じがする。と、もうこれだけで、藤田社長の人モテの秘訣(ひけつ)が浮かび上がってくる。

彼が熱中するマージャンのようにフラットでフェア。競争というものを我が身から切り離せないならば、実は威張るだけの簡単な「男らしさ」である虚勢を止めてみるといい。それだけで、「勝ち」が手に入る可能性が高い。藤田社長の「らしくない」トップのスタイルは、その物言わぬ証拠でもある。


(文・ライター 安楽由紀子、撮影・野呂美帆)

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PROFILE

湯山玲子(ゆやま・れいこ)

プロデューサー。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッション等、文化全般を独特の筆致で横断する執筆を展開。NHK『ごごナマ』、MXテレビ『ばらいろダンディー』レギュラー、TBS『情報7daysニュースキャスター』などにコメンテーターとしても出演。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舍文庫) 、『クラブカルチャー ! 』(毎日新聞社)、『女装する女』(新潮新書) 、『四十路越え ! 』(角川文庫)、上野千鶴子との対談集『快楽上等 ! 3.11以降を生きる』(幻冬舎) 、『文化系女子という生き方』(大和書房)、『男をこじらせる前に』(角川文庫)等。月一回のペースで、爆音でクラシックを聴くイベント「爆クラ」を開催中。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。

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