インタビュー

光石研「僕は煩悩ばかりあるから、モリにはなれない」映画『モリのいる場所』インタビュー

  • 文・武田由紀子 写真・花田龍之介
  • 2018年5月14日

【動画】インタビューに答える光石研さん(撮影・高橋敦、佐藤正人)

30年間家の外へ出ることなく、庭に生きる虫や猫、植物などを見つめ描き続けた画家・熊谷守一。愛称“モリ”のおだやかで豊かな生き様を描いた映画『モリのいる場所』が5月19日(土)から公開される。

モリ役は山﨑努さん、モリの妻・秀子役に樹木希林さん、日本を代表する名優2人が初共演を果たし、話題を集めている。今作でモリの家を訪れる長野の旅館主人・朝比奈役を演じているのが光石研さん。「山﨑さんに樹木さん、沖田修一監督となると、とりあえず飛んで行くしかないと思いましたね」と、撮影時を振り返りながらインタビューに答えてくれた。ネイビーのジャケットにチェックのシャツ、カーキのワークパンツを合わせたトラッドなカジュアルがお似合いの光石さん。洋服は全て自前、飾らない等身大の着こなしがおしゃれでかっこいい。

映画『モリのいる場所』に温泉旅館雲水館の主人役で出演する光石研さん

山﨑努×樹木希林、ベテラン同士の歯車がカチリと合う。「モリの夫婦にしか見えなかった」

「山﨑さんとは、きちんとお芝居をご一緒させていただくのが初めて。役と自分が綯い交ぜ(ないまぜ)になり、いい緊張感で撮影に入りました。山﨑さんが本物のモリのようなたたずまいで、本当に迫力があって。メイクをしていくうちに、どんどんモリになっていくというか。僕は後ろ姿しか見えなかったのですが、勝手にそう感じていました。歩き方もモリになっていて、役に入っている感じでしたね。

樹木さんは、テレビドラマや映画『悪人』など、何度かご一緒させていただいています。さすがベテラン同士だからか、衣装を着てメイクが済み、現場に入る頃には、僕らにはモリと秀子さんにしか見えない。(山﨑さんと樹木さん)2人で相談するでもなく、テストをするとお互いに歯車がカチリと合う感じでした」

モリ役の山﨑努さん(右)と妻・秀子役の樹木希林さん (c)2017「モリのいる場所」製作委員会

沖田作品に出演するのは今回が初めて。『南極料理人』『横道世之介』など、ユーモラスな人間描写が得意な沖田監督の現場は、とてもおだやかな空気が流れていたそう。

「『沖田組はおもしろいよ』とうわさで聞いていたので、すごく楽しみでした。僕の撮影は3日くらいでしたが、とてもおだやかでいい時間の中で撮影が進んでいった気がします。ただ夏だったので、すごく暑かった。葉山の古民家をうまく使ったロケセットで、リアルに虫とかが出てきそうな家でしたね。完成した作品を見たら、よくあの狭い中で撮ったなあと思いました。生き物の特徴もよくとらえられていたし、すごく面白いなと思いました」

映画『モリのいる場所』より (c)2017「モリのいる場所」製作委員会

光石さん演じる朝比奈は、長野の温泉旅館雲水館の主人。モリに旅館の看板を描いてもらおうと、長野からやって来るがモリが描くかは気分次第。なんとか看板を描いてもらおうと奮闘する朝比奈の姿は、ちょっと笑えて愛嬌(あいきょう)もたっぷり。

「キャストみんながそれぞれ面白いんですよね。僕がご一緒したのは池谷のぶえさん、きたろうさん、三上博史さんらですが、みんなモリの庭に集まる虫のような面白さがある。そこでみんなで餌を食べあっているような雰囲気があって、面白かったです」

小さい頃から一人遊び、お絵描きが好き。「緒形拳さんを真似(まね)して、イラストを描いていました」

「実は、熊谷守一さんの本を一冊持っているんです。絵が好きで昔買ったんですよ」と教えてくれた光石さん。画家として一筋に生きるモリの生き様を見て、感じることもあったと言う。

「真の表現者、アートを突き詰めるということは、こういうことなんだと思います。僕は邪念だらけで全然ダメですね(笑)。モリとの共通点をあげるとしたら、絵ですかね。僕はきょうだいがいなかったので、小さい頃から一人遊びや絵を描くのが好きでした。

事務所の先輩に緒形拳さんがいて、ものすごくかわいがっていただいて。緒形さんも詩を書いたり、絵を描いたりしてらしたので、その影響というか真似で絵を描いたりしていました。人や物を、イラスト程度ですが。20代の頃は仕事がなかったので仕事の合間に(笑)。趣味というか遊びですよね」

「山﨑さんに樹木さん、沖田修一監督となると、とりあえず飛んで行くしかないと思いました」

熊谷守一(モリ)は、山﨑さんが“僕のアイドル”と憧れていた人物。それを知った沖田監督が映画化、山﨑さんに当て書きした脚本を書き上げた。光石さんにとってのアイドル、憧れている人を聞いてみると、迷いながらこう答えてくれた。

「う~ん、誰ですかね? 山下達郎さんは、昔からずっと好きです。僕は音楽が好きなんですが、楽器はできないし歌も歌えない、踊りも踊れない。だからアーティストや歌手の方は、とてもリスペクトしています。そのコンプレックスからか、音楽が一番自分をリラックスさせたり、リセットしたりできるものなんですよね。移動中も行きはラジオ、帰りはCDで好きな曲を聴いています。

家では、時間がある時に聴く程度。ものすごく疲れたり、煮詰まったりした時に、真夜中に聴くこともありますね。あとは次の日仕事が休みだと、お酒を飲みながらヘッドホンで聴いたり。本当に煮詰まった時しか、ヘッドホンは登場しないんです。そういえば、この前ステレオの周りを片付けて、やっとプレーヤーが出てきたんですよ。CDがいっぱい積んであって動かせなかったんですが(笑)」

ランニングは一度も楽しいと思ったことがない。「帰ってビールを飲むことばかり考えています(笑)」

音楽に加えて、ファッションや車にも詳しい多趣味な光石さん。十数年前から始めたランニングでは、フルマラソンを3回も完走したことがあるという実力の持ち主。しかし本音を言うと……。

「今の今まで、一度も楽しいと思ったことがないんですよ。辛くて辛くて(笑)。箱根駅伝や市民ランナーのドキュメンタリーを見るとボロボロと泣くんですけど、自分で走って一度も感動したことがない。

走っていると、ものすごく人間性が出るんですよね。ホノルルでフルマラソンに出た時に、コースの先に水があると聞いていたのになかったんです。『さっき水あるって言ってたよね!?』って、すごく怒っている自分がいて(笑)。帰りに落ち込むくらい嫌な男になっていたんです。ボランティアで置いてある水に怒るって、最低じゃないですか? 僕はまだ煩悩ばっかりあるから、モリにはなれないんですよね」

「キャストみんながそれぞれ面白いんです」

「ランニングは、その日によって違いますけど1回に10kmくらい走ります。走り出して調子がよければ距離を延ばしたり、スピードを上げたりしますが、最近はどこか痛いことが多い。40代の頃は、仕事から帰ってから走れましたが、最近は疲れちゃって1~2日おいてじゃないと走れない。夕方に走るのが多いですかね。そんな時も、帰ってお風呂に入って、ビールを飲むことを考えながら走っています。おつまみ何にしよう? とか考えながら(笑)」

若い時は自分がどう見られるかが気になった。「今は作品・スタッフのため、が最優先」

16歳で映画『博多っ子純情』で主役デビューし、今年で俳優になって40年を迎えた。映画、テレビ、舞台など縦横無尽に駆け巡り、敏腕刑事からダメおやじまで、どんな役も柔軟に演じ分けるバイプレーヤーの光石さん。演じること、役への向き合い方に、この40年で変化はあったのだろうか。

「若い時は、なんだかんだ言っても自分自分でしたよね。自分がどう見られたいかが先行してたんじゃないですかね。今は、映画のために、作品のために、スタッフの皆さんのために、監督のために。それが一番に優先というつもりです。

撮影が終われば、台本は取っておかずに捨てるタイプです。昔は取っていましたが、ものすごい数になり、一時は田舎に送ったりしていましたが、田舎から苦情が来ましてね。『こんな送られても』って(笑)。今年は映画に何本出たとか、振り返ることも全くしません。出演させていただいた作品は、もちろん見ますが、繰り返し見たりはしないんですよね」

「若い人からモリぐらいの方まで、いろいろな人に見て欲しい」

見つめる先にあるのは次の役、演じながらひたすら前に進むだけ。役者と画家、表現するものは違えど、モリと同じようにひたむきな一筋の光を放っているように感じる。最後に『モリのいる場所』を見る人へのメッセージをくれた。

「山﨑努さんと樹木希林さん、日本の名優2人のお芝居の掛け合いは、なかなか見られない貴重なもの。それを楽しんでいただきつつ、2人に絡んでくる虫たち(笑)のアンサンブルも絶妙な味つけになっています。熊谷守一(モリ)を知らない人も、もちろん楽しめます。若い人からモリぐらいの方まで、いろいろな人に見て欲しいですね」

【動画】映画『モリのいる場所』予告編 (c)2017「モリのいる場所」製作委員会

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『モリのいる場所』作品情報
監督・脚本:沖田修一
出演:山﨑努、樹木希林/加瀬亮、吉村界人、光石研、青木崇高、吹越満、池谷のぶえ、きたろう、林与一、三上博史
配給:日活
制作:日活、ダブ
2018年/日本/99分/ビスタサイズ/5.1ch/カラー
(c)2017「モリのいる場所」製作委員会
5月19日(土)シネスイッチ銀座、ユーロスペース、シネ・リーブル池袋、イオンシネマほか全国ロードショー
ウェブサイト:mori-movie.com
Twitter:@mori_movie
facebook:@morimovie2017

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