ありのままの20代

「まだ見ぬ理想の女性がいるのでは」……恋人がいながら結婚を先送りしてきた本当の理由

  • 文・白岩玄
  • 2018年5月11日

元画像:franckreporter / Getty Images

妻とは一昨年、32歳で結婚した。付き合い出したのは26歳のときなのだけど、交際2年で一度別れて、31歳のときに結婚を前提によりを戻した。

結婚はタイミングだとよく言われる。ぼくもそれに異論はないし、実際にタイミングだったと思う。20代で妻と付き合っていたときも結婚の話は出ていたが、そのとき具体化しなかったのは、お互いが「今じゃない」と思っていたからだ。おまけに途中からは妻が海外で働くことになった(しかも3年の任期付き)。結局はそれが別れるきっかけになったのだが、なんにしても、「いずれ結婚するのはありだけど、今はまだそのときじゃないな」と判断して、ぼくらは結婚を見送った。

結婚を先送りにしたのは、それが初めてではない。それまで付き合ってきた人とも将来を考えたことはあった。でも、結果として、ぼくは20代のうちに婚姻届を提出することはなかった。付き合っていて両思いでも、お互いの足並みが揃わないと結婚には至らない。

ただ、厳密に言うと、決して致し方ない理由だけで結婚を先送りにしていたわけではなかったなとは思う。タイミングが合わなかったんだと言い訳しつつも、実際には自分が得をしないからという打算で結婚を避けていたからだ。

男の人が結婚をしぶる理由としてよく挙げる、自分の時間とお金がなくなるのが嫌だというのと同じように、ぼくは交際相手が結婚を望んでいても、自分のわがままで結婚しない人生を選んでいた。

今なら、我ながらひどいなと思うその一番大きな理由を明言することができる。ぼくはまだ見ぬ魅力的な女性と出会って結婚する可能性が失われてしまうのが嫌で、結婚を回避し続けていた。もっといろんな女の人と付き合ってみたいというよりは、自分の理想を具現化したような人がどこかにいるんじゃないかという気持ちが捨てきれなかったのだ。そして、そういう考えを持つのは、ごく普通のことだと思っていた。少なくとも、自分の目の前にないものに期待するのが、若い人が陥りやすい他人任せな思考だとは理解していなかった。

親友は最初から大切な友達だっただろうか……?

仕事でもそうだけど、20代のうちは「自分にぴったり合った仕事」や「自分にしかできない仕事」を探しがちだ。理想の仕事に就くことができたら、いまいちパッとしない自分の人生が輝く気がする。世の中にはそんな冴えない人生が一変する物語が溢れているから、ついついワンランク上の自分を夢見て、今の仕事を必要以上に否定したり、いきいきと働いている人をうらやましく感じてしまう。

Jirsak / Getty Images

でも、30代になれば多くの人が気づくことだが、現実にはそんな天職のような仕事になんてまず就けない。あったとしても、それをつかみ取ることができるのは、一握りの幸運な人たちだけだ。

じゃあずっと我慢してやっていくしかないのか、というとそんなこともなくて、天職じゃない仕事でも、試行錯誤しているうちに自分にフィットしてくるということがある。目の前のことに真剣に取り組み、あがいたり、もがいたりしていく中で徐々に愛着が生まれて、いろいろと問題もあるけれど、自分はこの仕事が好きなのかもしれないなと思えるようになるのだ。

結婚も、案外それと同じなのかもしれないなと既婚者になったぼくは思っている。たとえ百点満点の理想の人じゃなくても、二人でいろんなことを乗り越えていくうちに、だんだんと居心地がよくなっていくことはある。

たくさん話してお互いのことを知ったり、苦楽を共にすることで、他の人には理解し得ない特別な信頼関係ができあがっていく。もちろんうまくいかない場合だって大いにあるが、もしいがみあって離婚したとしても、他人と一定の期間、真剣に向き合ったことは事実だ。それは「現実を知る」という、人を少しだけ大人にしてくれる効用を与えてくれる。

20代の後半までは、そういった「与えられた状況を自分なりに作り替えていく面白さ」がわからなかった。ぼくは女性と付き合いながら、頭のどこかで理想を求め、目の前の恋人から逃げていた。そのせいで傷つけた人もいるし、当時書いていた恋愛小説にも、そういう甘ったれた考えが多分に含まれてしまっている。若かったというだけで自分の書いたものを否定するわけではないけれど、ずいぶん子どもっぽい考え方をしていたんだなと恥ずかしく思うことはある。

でも、当時だって、よく考えれば想像がつくことだったのだ。たとえば親友と呼べるほどの友達がいたとして、その人は最初から大切な友達だっただろうか? ごく普通の人だけど、ずっと付き合っていく中で、他人には理解し得ない強い絆が生まれたのではなかったか?

courtneyk / Getty Images

大人になるということは、今目の前にあるものに価値を見出していくようになることなのかもしれない。運命の人との結婚を否定するわけではないけれど、一緒に暮らしてずいぶん時間が経ってからの「自分にはこの人しかいないなぁ」の方がぼくは好きだ。そこには共に過ごした月日の重みと、人生の味わいと言ってもいい、ほどよい幸せがある。

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まぁ、誰もがそこに辿りつけるわけではないのは事実だが、倍率はそこまで高くない。自分を知り、身の丈を知る中に人の幸せがあるのなら、それはつまり、誰でも幸せになれるということだからだ。

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PROFILE

白岩 玄(しらいわ・げん)

1983年生まれ。京都市出身。2004年、小説『野ブタ。をプロデュース』で文藝賞を受賞し、小説家デビュー。同作は芥川賞候補作になり、テレビドラマ化。70万部のベストセラーになった。著書に『空に唄う』『愛について』『未婚30』『ヒーロー!』など。Twitter(@gegenno_gen)

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