今日からランナー

気温がパフォーマンスを大きく左右 ロンドンマラソンでまさかの結末に……

  • 文・山口一臣
  • 2018年5月11日

(写真提供=筆者)

4月22日(日)に行われた世界6大マラソン(Abbott World Marathon Majors=WMM)のひとつ、ロンドンマラソンは37年の大会史上「もっとも暑い」レースになった。観測された気温は24.1℃、直射日光がきつく体感気温は27℃にまで上昇。過去の記録では1996年と2007年の22.2℃が最高だった。2007年大会では選手73人が熱中症などで病院に搬送された。今年も多くのランナーがレース中に倒れ、うち1人が搬送先で死亡するという事故まで起きたのだ。

この過酷なレースが、何を隠そう私にとってのWMM最終戦。Six Star Finisher(6大会完走者)の完成試合でもあった。正直、気温についてはまるで想定外のこと。その前週に開催され、川内優輝選手の優勝で話題となったボストンマラソンは逆に、大雨、強風、超低温に見舞われ「史上最悪の天候」といわれていた。なので、自分が走るロンドンでは、とにかく晴天を願い、長袖シャツやカイロを準備するなど防寒対策に余念がなかった。

ところが、出発日が近くなると「ヨーロッパは異常気象で暑い日が続いている」という情報が入ってきた。だが、そうは言っても東京よりは涼しいはずだとタカをくくった。なにしろロンドンは北海道より緯度が高い(北にある)。この時期の平均気温は12℃くらいで、朝夕はヒトケタになる。いくらなんでも20℃を超えることはないだろうと。

しかし、そんな根拠レスな楽観は19日(木)、ロンドン入りした当日に打ち砕かれた。ヒースロー空港に降り立った瞬間に驚きの事実が待っていた。“真夏”なのだ。BBCウェザーによれば、その日の最高気温は29.1℃で、ロンドンの4月の気温が29℃を超えるのは1949年以来、実に70年ぶりのことだという。「なんじゃ、こりゃ」と思わず叫びそうになったが、グッと堪えた。レース本番までまだ3日ある。今日明日暑くても、明後日には平年並みに戻るだろうと、これまた根拠のない予想に期待をかけた。事実、天気予報では22日は「曇り時々雨」となっていた。

計算上は「3時間55分」で完走 結果は……?

連載の読者ならご存じのとおり、このWMM最終戦には「6大会平均サブ4(4時間切り)」という情けない記録がかかっていた。一時は諦めかけていたが昨年9月のベルリンマラソンでかろうじてサブ4を達成したため、望みをつないだ。ロンドンを3時間56分15秒未満で走り切ればこの目標は達成できる。はっきり言って自信はあった。いや、楽勝とさえ思っていた。

前回、ベルリンに向けての“不安”については、この連載を通じて何度も報告している。事前の練習が足りていないままスタートラインに立ったが、レースマネジメントが功を奏してなんとか3時間58分台でフィニッシュできた。だが、最後の最後まで不安いっぱいのレースだった。ロンドンでは同じ轍(てつ)は踏みたくなかったので、早めに準備に取りかかった。年明け以降、月走200km超の練習量をこなし、スピードも復活していた。なにより減量が順調で、ベルリンでは71kg台だった体重が、今回は68kg台とベストなところまで持っていけた。

目標タイムを3時間55分に設定する。ベルリンより約3分速いが、自己ベストよりは約14分遅くてもオッケーだ。ペースにすると1kmあたり5分34秒〜35秒で、練習ではかなり余裕を持って走れていた。さらに、直前に出たハーフの行田市鉄剣マラソンでは、抑え気味に走って1時間50分56秒の成績だった。

これを、ダニエル式という計算式に入れるとフルマラソンなら3時間49分39秒に相当するという結果が出た。5分以上、余裕がある。「A判定」だ。おまけにロンドンは例年、東京より気温が5℃〜8℃は低い(はずだった)。気温が低ければ確実にタイムは縮む。あとは風邪をひいたりおなかをこわしたりしないよう健康管理に努めれば、たぶん大丈夫だ。目標は達成されたも同然だと思っていた、のだが……。

結果は、4時間23分36秒でサブ4どころか6大会中のワースト記録になった。詳細は次回に譲るが、やはり“猛暑”が原因で心が折れてしまったというのが今のところの分析だ。マラソンは奥が深いと改めて思い知らされた。

(写真提供=筆者)

気温が上がると走力は低下する

一般にマラソンの適温は10℃以下で、気温が上がるとパフォーマンスが低下することは多くのランナーが肌感覚で知っている。学術的な研究もあって、筑波大学体育系(体育センター)教授の鍋倉賢治さんが、欧米の主要マラソンの完走者約180万人を分析した「フルマラソンに影響する環境要因は何か」という論文の内容をブログで紹介している。

それによると、走力にかかわらずマラソンにもっとも影響する環境要因はやはり気温だという。中上級ランナーにとっての最適温度は6℃〜8℃で、11℃〜13℃までならなんとか実力を発揮できるが、16℃〜18℃まで上がるとタイムが5%程度(サブ4ランナーなら10分〜15分)悪くなるかもしれないという。さらに、走力の低い人ほど気温上昇の影響を受けやすいことも指摘している。

気温が上がると体温もあがり、消費エネルギーが普段より増える。汗をかくことで水分はもちろんナトリウムなども不足することになり、疲労感やけいれんの原因になる。直射日光を受けることで、疲労がさらに増大する――といったことが複合的に起きるようだ。これまであまり意識していなかったが、そう思って過去に私が参加した6大マラソンの結果と当日の最高気温を調べてみた。

2014年 ニューヨークシティ 晴れ/9℃ ・・・・・・4時間09分06秒
2015年 シカゴ 晴れ/21℃ ・・・・・・4時間04分43秒
2016年 東京 晴れ/15℃ ・・・・・・3時間41分19秒
2016年 ボストン 晴れ/22℃ ・・・・・・4時間09分46秒
2017年 ベルリン 小雨/17℃ ・・・・・・3時間58分51秒
2018年 ロンドン 晴れ/24℃ ・・・・・・4時間23分36秒

ニューヨークシティマラソン(NYCM)を除くと、サブ4できなかったレースはことごとく気温が20℃を超えていた(NYCMは6大メジャーの初戦だったこともあり、興奮して突っ込み過ぎで脚がつった)。

なるほど、そういうことだったのか。つまり、シカゴやボストンは気温が低ければサブ4できていたかもしれないということなのか?!

次回は、心が折れて記録はダメダメだったが、レースとしては最高だったロンドンマラソンの大会リポートをお届けする。お楽しみに!

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PROFILE

山口一臣(やまぐち・かずおみ)

写真

1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWSを設立し、代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン20回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

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