小川フミオのモーターカー

ベンツの万能クロスカントリー型4WD 新型Gクラス試乗記

  • 文 小川フミオ
  • 2018年5月16日

南仏のオフロードコースをいくメルセデスAMGのG63

39年ぶりのフルモデルチェンジ。メルセデス・ベンツのクロスカントリー型4WD車、Gクラスが新型になり、南仏のダカールラリーの練習コースで試乗会が開かれた。

そもそもNATO軍向けに開発されたオフロード車を民生用に転用して生まれたGワーゲン(とメルセデス・ベンツのひとたちは呼ぶ)。

G63は「パナメリカーナグリル」と呼ばれる縦バーのグリルに大きめのエアダム

新型Gクラスでは開発当初からAMGも参画

1980年代まではアクセルペダルは脚がつりそうになるぐらい重たく、高速走行もあまり得意ではない、本当の意味で“本格的な4WD”車であった。

最近ではだいぶマイルドになってはいた。AMGによる高性能版も出て、多少、木に竹を接いだ感はあったものの、楽しむために乗るクルマという印象すら出ていた。

すこし乗用車的になりインフォテイメントシステムも充実

助手席には従来モデルと同様のグラブハンドルが残された

女性ユーザーも少なくないようで、東京などでは適度にスリムな全幅による扱いやすさと、ブランドイメージも手伝って、高い人気を維持している。

そこに持ってきてのフルモデルチェンジだ。この内容がユニークだ。見慣れていないと“あれ、どこが変わったの?”と言われてしまいそうである。

「私たちがやったのは(Gクラスという)キャラクターを守ることでした」。メルセデス・ベンツでオフロード車の開発を担当するドクター、ギュンナー・グーテンケは語る。

急勾配の坂を上るとき目視できない部分はフロントカメラが役に立つ

ひっくり返っているのではなくこれでも走行中

「箱型のボディー、丸形ヘッドランプ、フェンダー上のウィンカー、プッシュボタン式のドアアウターハンドル、外づけのスペアタイヤ、外に出ているヒンジ……、Gクラスを特徴づけていたディテールはできるだけ守ろうと努力しました」

たとえば飛び出したウィンカーで現代の安全基準を通過するために、並々ならぬ苦労があったようだ。90キロまでの荷重には耐えつつ、大きな衝撃を受けたら中に引っ込む構造にして当局の認可が下りたそうだ。

四角い箱が車輪に載せられているような機能主義的なデザインは踏襲された

G63には写真の「トレイル」(出力が抑えられステアリングの反応が敢えて鈍くなる)に加え「サンド」と「ロック」というプリセットされたオフロードドライビングプログラムがある

さらに音にもこだわっている。ドアの開閉音はGクラス独特の金属と金属がぶつかるような音だが、新型では同じような音が鳴るようチューニングが行われた。

ウィンドシールドも同様だ。従来モデルは平面ガラスだった。新型も「かぎりなく平面に見える」曲率のガラスを採用したとドクター・グーテンケ。

新型もラダーフレームという本格的な4WD車の定番といえる堅牢なシャシーを採用。従来モデルよりさらにねじれ剛性を強化した。

新型はごくわずかだがウィンドシールドに曲率がついた(小川フミオ撮影)

フロントサスペンションが独立式になったのも新型の特徴。理由として操縦性があげられている。ちなみにステアリング機構も運転支援システムのため電動となっている。

エンジンは4リッターV8ガソリン版が今回の試乗では用意された。メルセデス・ベンツG500は310kW(422ps)の最高出力と610Nmの最大トルク。

同時に登場したメルセデスAMGのG63は同じ4リッターV8をベースにチューンナップし、430kW (585ps)と850Nmを誇る。

乗り味が驚くほど向上している。市街地では高級セダンなみの乗り心地である。よりパワフルなG63はさらにその上をいく。スポーツカーのようだ。

走ったのはペルピニャンというラングドック=ルシオンの空港からカルカッソンヌの間である。

ドアのヒンジを外に出したのは従来型のデザインを踏襲したため(小川フミオ撮影)

村と村をつなぐ細い山道だろうと国道だろうと、サスペンションはしなやかに動き、ラダーフレームシャシーを持ったクルマ独特の、シャシーとボディーが別べつに動くようなかんじは皆無だ。

ハンドリングは応答性にすぐれ、狭い道で対向車とすれ違うときに焦ることはない。ぎりぎりまで車両を右に寄せられる(右側通行なので)。

エンジンは気持ちよく回り、すかっとしたとでも表現したくなるような爽快なドライブフィールである。G500もおなじで、クルマとの一体感がすばらしい。

オフロードでは、いっぽうで、「従来モデルより性能を上げました」(ドクター・グーテンケ)というだけあって、期待以上の体験ができた。

ディファレンシャルロックスイッチに書かれた数字は入れるべき順番(フロントが最後なのは操舵できなくなるため)

Gクラスには通常走行用のハイレンジと、オフロードをゆっくりとしかし確実に走るためのローレンジの設定がある。

加えて前と中央と後ろに備わった差動(ディファレンシャル)ギアのロックスイッチ。オフロードでどこかのタイヤが接地性を失った場合、差動装置があるともう片方も空転してしまう。それを防ぐ装置だ。

低いギアとディフロック装置を使えば、30度という急勾配の上り下りでも、三つのタイヤが接地しなくなるほどのでこぼこな路面でも難なくこなす。砂だろうが、岩場だろうが、泥だろうが、河だろうが、恐るるに足らずである。

Gクラスの“アイコン”としてこだわったフェンダーマウントタイプのウィンカーは安全基準をパスするため、衝撃が加わるとベース部分の合成樹脂製のキャッチが折れて中に落ちる仕組み

今回試乗したのはワイナリーのオーナーが最初は趣味で開設したオフロードコースで、いまは苛酷さで知られるダカールラリーの練習に使われているそうだ。

Gクラスは(その気になれば)静粛性が増した室内でいい音楽を楽しみながら、人はまず歩けないであろうオフロードをガンガン走っていけるのだ。

荷室は容量がたっぷりあって使いやすい

オールマイティーな性能を手に入れたGクラス。クルマとしてより楽しめるのはメルセデスAMGのG63だろうが、乗り心地などよりソフトなメルセデス・ベンツG500も日常での良きパートナーになってくれるだろう。

クルマの性能を突き詰めていくとどうなるか。そのひとつの答えが新型Gクラスだろうと、ぼくは思っている。

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※写真は一部を除きDAIMLER提供

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PROFILE

小川フミオ(おがわ・ふみお)

写真

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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