インタビュー

知らずに消えていく日本の工場を救いたい。『ファクトリエ』山田敏夫さんに聞く“応援経済”のつくりかた

  • シリーズ『価値を創る』
  • 2018年5月17日

  

ファストファッションからハイブランドまで、膨大なアイテムから好きなものを選ぶことができるようになった一方で、日本の繊維産業の危機的状況を耳にすることが増えた。アパレル品国産比率は1990年の50.1%から2009年には4.5%まで減少しているのが現状だ(※1)。

今回は、この状況を変えようと奮闘するライフスタイルアクセント株式会社代表取締役の山田敏夫さんに会いに行った。同社が、日本各地のアパレル工場と一緒に運営するブランド『ファクトリエ』は “日本の工場から世界一流ブランドをつくる”をビジョンに掲げた日本初の工場直結ブランド。ファクトリエでは、工場が“工場希望価格”を提示して、消費者に買ってもらう。従来の方法よりも工場の利益を確保しやすく、消費者は既存価格の半額程度で購入でき、アパレル工場の職人が、妥協せずに製品をつくれるよう考え出したシステムだ。

  

『ファクトリエ』は販売方法もユニークで、東京銀座・名古屋・熊本・台湾台北市にフィッティングスペースがあり、購入はiPadなどオンラインで行う。店舗に在庫はなく、注文した商品は、在庫が一括管理された倉庫から届けられる。

従来のアパレル業界の常識にとらわれずに事業を進める山田さんに、銀座のフィッティングスペースで、ブランドの理念と現状について話を聞いた。

  

強烈な逆風を受けながら、アパレル業界のタブーを破っていった

――服を買うときに重視するのは、デザインと値段、ブランドという人がほとんどだと思います。“どこで作られたか”をポイントに置く服選びは、新しい価値観の創出を目指しているように感じました。

山田 自分の着る服が“どこ製”なのかは、多くの人にとって大切ではありません。ですから、大きなチャレンジです。でも僕は、矛盾のなかにしかビジネスチャンスはないと思っているので、“どこで作られているかは気にしない”という価値観を、“どうでもよくない”という状況に変えることに挑戦しています。

もともとファッションの世界では、誰が作っているかを明かすのはタブーです。

理由はいろいろあるけれど、アパレルメーカー側には、ブランドイメージと工場という理想と現実のギャップをあまり世に出したくないこと、またライバルブランドに工場を知られると、年間生産量が決まっているなかで、生産量を奪われることや、技術流出の危険性が挙げられます。工場はアパレルメーカー側に守秘義務契約等の重い責任を課されていて、ホームページも持っていない。作っている人たちと、着る人たちの間には断絶がありました。

僕がまずやったのは、工場の情報を明かして、誰が・どんな場所で服を作っているのかをオープンにすること。これには業界の強烈な逆風が吹いたのですが、常識って今までの人たちが勝手にやってきたことだと思うし、僕がやりたいことを実現するには、常識通りにやることが無理でした。

  

――“強烈な逆風”に立ち向かう原動力になったのは、どんな思いですか?

山田 最初は、そんなに強い思いや使命感はありませんでした。ただ、提携している工場が銀行からお金を借りて一緒にがんばろうとしてくれて、工場のおっちゃんたちや、『ファクトリエ』を買ってくれるお客さんたちと会うたびに責任感が増していきました。自己満足でやっていたことに、少しずつ、使命感が生まれてきました。

100円で作ったものを10,000円で売るマーケティングは、今も正しいか?

――日本の工場からブランドを作りたいという思いは、山田さんのどんな原体験から来ているのでしょうか?

山田 熊本の実家が100年続いている洋品店で、部活がない日は実家の店番をするという子ども時代でした。僕がラッキーだったのは、日本製の仕立ての良い服に囲まれて生きてきたこと、これが原体験です。

さらに、20歳のときにフランスに留学して、GUCCIのパリ店で働いたのが僕の人生の転機になりました。ヨーロッパのブランド『GUCCI』『Louis Vuitton』『HERMES』などは、全部工房から生まれていることを理解しました。

GUCCIの同僚と飲みに行ったときに、「なぜ日本にはブランドがないのか?」と聞かれました。

僕は、日本のいろんなブランド名を挙げたけれど、彼らからするとそれは日本製ではないから日本のブランドではないとなる。彼らは、“誰が作っているのか”が基本でそれを大切なポイントにしているし、立ち戻れる場所があるという自信を感じました。

  

一方で、日本のファッションはブランディングやマーケティングから入ります。日本にも何千年という着物の染めや縫製の歴史があるのに、その歴史を消して“made in china”で作って、どう売るかを大切にしている。例えば、フィリピンの工場で製作費に100円かけて作った靴を日本で10,000円で売ることがすごいと。

文化の違いといえばそうだけれど、日本にも長い歴史のある技術があるのだから、日本からそういう技術を使ったブランドをつくりたいと思ったのがきっかけです。

――山田さんはパリ留学から戻って会社員をした後、29歳で起業されました。そこから日本各地の工場を1年に100箇所、累計で600の工場をめぐったそうですね。まず、日本にそれだけの工場があることに驚きました。

山田 それは、多くの皆さんが知らない事実です。さらにいうと、1990年から2010年までに800万人の何らかのものづくりに携わる職人がいなくなりました。それも誰も知らないうちに。僕はそれが良い悪いではなく、資本主義の原理の中で「そんなものだよね」と黙殺されて、日本の様々な産業でものづくりが消えている現状に危機感があります。

ものづくりとは文化そのもので、ものづくりのできなくなった国は滅びるんです。ものを大切にする人は自分を大切にする、自分を大切にする人は相手も大切にする、これはコミュニティの基本です。

僕は、服を大切にしないことは自分を大切にしていないことだと思っていて、昔は当たり前にあった思いやりをもう一度取り戻したい。作った誰かに対してきちんと考えてものを大切に使う人を増やしていく、そういうチャレンジをしています。

  

工場の“言い値”で買い、捨てない前提で服を売る

――2018年4月現在で提携工場は55カ所、海外にもフィッティングルームを置くなど、『ファクトリエ』は徐々に規模を拡大しています。創業から6年経って、どんな変化を感じていますか?

山田 あらゆるもののレベルが上がってきていると感じています。ファストファッションが続々と進出して、流行りのデザインを安く手に入れて満足する人がいるし、食に関しても、例えば回転寿司でもある程度は美味しい。実は、ネクタイが日本で一番売れているのは100円ショップです。そういうもので満足する人がたくさんいるなかで、僕たちがやっているのは消耗品ではなく嗜好品(しこうひん)だと考えるようになりました。

――ものを売るだけでなく、それを買うときや身につけたときの高揚感や楽しさを嗜むということでしょうか?

山田 そうですね。あとは、服の背景にあるストーリーに共感を得るということ。例えば、アパレル業界には52週マーチャンダイジングというのがあって、52週間製品を作り続けます。しかし、消化率(消費者に売れる割合)は50~60%程度なので、作り続けたものの半分を捨てていることになります。

しかし、『ファクトリエ』は作ったものは必ず売り切るし、セールもしない。全ての服には工場の名前をつけていて、工場の“言い値”で買っています。

「自分たちの代わりに社会を良くしてくれている」「知的欲求を満たしてくれる」「ファクトリエを着ている自分が好き」など、ものではなく感情を買ってもらうことが大切だと思っています。それは『ファクトリエ』のような思想を持つチームに所属している欲求を満たしているとも言えます。これに共感する人は100人いたら1割もいないと思いますが、輪が広がればそれも一つの経済圏になります。

  

――『ファクトリエ』はファンが多いのがブランドの一つの特徴と言われていますね。

山田 熱狂的なファンとは、お金を払うことでそのお店や価値観を支持している、応援することだと気がついた人たち。単にものを消費するのではなく、価値主導でものを消費することを選ぶ人たちです。今はSNSもあって、この“応援経済”がどんどん広がっていて、そこにできたコミュニティが活性化してさらに広がる……価値観が多様になって、テクノロジーが追いついてきた今が、僕たちにとって「天の時」だと思います。

新しいマーケットを作るには前を向くしかありません。僕たちは横は見ない、前しか見ないと決めているから、であれば、今はインターネットの画面の先にいる多くの皆さんがとても大切です。

  

世の中は、そこまでドライじゃない

――『ファクトリエ』は、海外から来た原綿を港までチェックしにいったり、独自配合の糸づくりからはじめるなど、従来のアパレル業界からすると非効率な方法で製品を作っています。ファクトリエの商品の需要が高まるほど、その非効率性が首を絞めることになりませんか?

山田 確かに、僕たちは素材の到着から製品の出来上がりまでの工程に時間をかけているし、原価率は50%を超えています。アパレル業界では原価率が50%を超えるなんてあり得なくて、一般的な消化率や原価率とは逆転しています。

ファクトリエにはセールスマンがいないのですが、今では、日本各地の工場から提携希望の連絡がくるんです。結局、工場の課題解決をすれば向こうから来てくれるんですね。僕たちが非効率というのは経済効率から見ると非効率なのであって、良いものをつくるためには一番効率のいい方法です。

だからといって、大量生産が悪いとは思わないです。大量生産をしているから、一定レベルのものが多くの人に行き渡るというメリットがある。ただ、丁寧なものづくりをする人もいないと、日本の文化は終わってしまうのではないかと思うんです。

  

――山田さんの人生をかけて、日本の文化を守っていく活動を続けているのですね。

山田 過度なことをやろうとは思っていませんが、自分たちでできる課題解決や、僕にとって心地いいことはやろうと思っています。

僕は、人生は幸せになるためのゲームだと思っているんです。僕はこの事業のために個人で数億円の借金をしています。結果は誰もわからないから、もしも何かあったら個人の借金が残るんですね。でも例えば、残りの人生をコンビニとか何かの兼業で40~50年働けば借金は返せると計算する。こんなふうに、リスクは数値化できるんです。それよりも危ないのは、取らなかったリスクです。チャレンジしなかったことは、人生における後悔=不履行として残るんです。それに、90歳になって人生を振り返ると、どんな過去でも良い思い出になると思うんですよ。であれば、チャレンジして、振り子を振り切った人生のほうが絶対楽しい。だからこれは、“絶対に大丈夫”というゲームなんです。それに、そういう人生のほうが酒の肴にもなるでしょう?(笑)

――『ファクトリエ』の製品から気迫のようなものが伝わってくるのは、山田さんやスタッフの皆さんの思いが詰まっているからなのですね。ペラペラで流行デザイン風の服ではなく、工場を応援するために買う人がもっといてもいいですよね。

山田 いますよ! います。世の中は、そんなにドライじゃないですから。

  

※1 経済産業省「繊維・生活用品統計月報」2010年

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インタビュー・文:石川歩
写真:野呂美帆

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