ハンディ越え、仕事に厚み パリで独立のテーラー・鈴木健次郎

  • 2014年3月17日

写真:「カッティングが服の出来を左右する」と語る鈴木健次郎 「カッティングが服の出来を左右する」と語る鈴木健次郎

写真:店はパリ8区にある 店はパリ8区にある

写真:スーツのスタイルはフレンチクラシック=いずれも大原広和氏撮影 スーツのスタイルはフレンチクラシック=いずれも大原広和氏撮影

 服飾の都パリで、紳士服のテーラーを開いた日本人がいる。繊細な技術で評価される鈴木健次郎、37歳。異郷での努力の末、フランスを代表する名店「フランチェスコ・スマルト」で型紙作りを統括するチーフカッターに上り詰め、昨夏に独立を果たした。

 採寸するのは、ジャケットで24カ所、スラックスで10カ所。ほかの店よりも細かくデータを集め、電卓をたたきながら型紙を引いていく。ただ、「それは数字でしかない」と鈴木は言う。猫背なのか。どちらの肩が下がっているのか。顧客の体つきに沿うように、みけんにしわを寄せながら微妙なラインを表現する。

 服の中に入れる芯地には、ミシンなら15秒で済むところ、45分をかけて手縫いを施し、適度な丸みを作る。見えないところに手間をかけるのは、パリのタイユール(テーラー)の真骨頂だ。「こうして生まれる着心地、立体感、ドレープが命」と鈴木。仕上がったスーツは、すぽんと肩に乗って重さを感じさせない。1着が約60万円からという最高級の世界だ。

暴力耐え渡航費

 鈴木は東京都武蔵野市出身。専門学校を出てファッション業界で働いたが、個性のない洋服を作ることや自分の未熟さに苦悩した。「美しいものはパリに集まる」と聞き、渡航費用を作るために浴室リフォームの営業職に転じる。上司からの暴力にも耐えてためた350万円を手に、26歳で妻とフランスに渡った。

 名門の専門学校で学び、大きなテーラーに職を得る。そこで縫製技術を身につけ、「スマルト」に花形のカッターとして移った。だが就職すら容易でない道のりで感じたのは、東洋人としてのハンディだった。職場でも無視されたり、難癖をつけられたりするいじめに遭い、「顧客の相手はさせられない」と言われたこともある。一方で、勤め先を探してくれた出身校の校長ら、親身になってくれた人たちもいた。勤めながら個人でも仕事を受け、顧客を確保していった。

人の3倍努力

 アジア人では極めて珍しい独立を可能にしたのは、固い扉をたたき続ける行動力と、昼食後の休憩時間にも針を動かす勤勉さだ。「不器用だから、人の3倍は努力しなければという思いが常にあった。何でもパッとできてしまったら、仕事に奥行きが生まれなかったかもしれない」と語る。

 世界中の富裕層から注文を受ける名店がいくつもある中で、鈴木の強みは店伝統のスタイルにとらわれず、顧客の要望をきめ細かく反映させる点だ。「厳しい注文によって自分の限界が壊れてくるのが快感」。審美眼に優れた人々が集まる都市で、さばききれないほどの注文が集まり始めている。

 28日から4月1日まで銀座・和光(03・3562・2111)で、3~7日は東京・恵比寿(申し込みはcontact@kssm-cecilia.com)で、受注会を開く。

 (中島耕太郎)

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