出石尚三 紳士服飾研究

「ネクタイの結び方研究」 帯の結び方にヒントを得る

  • 文 出石尚三
  • 2014年3月17日

写真:センター・ディンプル(左)とダブル・ディンプル(右)
(イラストレーション 桑原節) センター・ディンプル(左)とダブル・ディンプル(右) (イラストレーション 桑原節)

 「黒繻子(しゅす)の帯をやの字にしめまして……」。これは江國滋(えくに・しげる、1934~97年。演芸評論家、エッセイスト、俳人)著『落語への招待』の一節です。六代目三遊亭円生の落語「派手彦(はでひこ)」を紹介しているのです。「小紋縮緬(ちりめん)の一ツ紋の着物に黒繻子の……」とつながります。この「やの字」は、帯の結び方で、正確には「やの字結び」といいます。結んだ形が「や」の字に見えるところから、そう呼ばれています。これは正式ではなく、カジュアルな結び方です。サテンの帯をくだけた結び方にしているのです。

 今、紳士服飾の中でサテンを身に着ける機会はあまり多くありません。たとえばウールのスーツにコットンのシャツ、そしてシルクのネクタイ。端的な言い方をしますと、ネクタイは、数少ない絹物ということになるでしょう。

 さて、ネクタイを買うとなりますと、たいていの場合は銘柄や値段などで選ぶことが多いようです。もちろん銘柄も値段も大切です。しかし、それ以上に大切なことは結び方です。なぜならば、自分の指先で形を仕上げるというアイテムであるからです。多少極端にいえば、ある程度高品質であれば、どのようなネクタイでもよいのです。問題は、いかにして自分の結び方をするかです。昔の人たちが帯の結び方を工夫したように。

 ごく一般的な結び方として「センター・ディンプル」があります。結び目の下、中央に小さなくぼみをつける方法です。しかし、これがすべてではありません。「ダブル・ディンプル」でもよいのです。小さなくぼみを左右の2カ所につくります。この結び方も昔の帯の結び方にヒントを得ているのではないでしょうか。

 銘柄、色・柄、値段を吟味する。しかし、それと同等、いやそれ以上に結び方を吟味することで、胸元全体の印象が大きく変わってくるものなのです。

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PROFILE

出石尚三(いづいし・しょうぞう)

1944年12月16日生まれ。香川県高松市出身。射手座のB型。よくペンネームかと訊かれるのですが、本名。身長177cm、体重75キロ。服飾評論家。ファッション・エッセイスト。国際服飾学会会員。主にメンズ・ファッションの記事を執筆。1960年代にファッション・デザイナー・小林秀夫の弟子となったのが、メンズ・ファッションの道に入った最初。つまり自分ではファッション・ライターになるつもりはまったくありませんでした。幼少期からおしゃれ好きで、結局この道を選んだということでしょう。趣味が仕事になったようなもので、今もってコレといった趣味がありません。強いて言えば散歩と古本屋巡りでしょうか。今、昔風の「古本屋」が減る傾向にあって淋しいことです。好きな作家はサマセット・モオム。好きな画家はロオトレック。好きな音楽家はショパン。好きな花は薔薇。好きな色はピンク。好きな言葉は「夢」「希望」「愛」。


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