時計のセカイ

時計に息づく「クラス」とは?

  • 文 広田雅将
  • 2015年4月9日

ブレゲ 5157
顧客にマリー・アントワネットやナポレオンなどがいた典型的な高級時計メーカー。このモデルの表示は時分針のみ。そして薄いケースにローマ数字のインデックスを持つ。時計業界の格で言うと、薄型2針のローマ数字付きが最も高い。自動巻き。18KWGケース×クロコダイルストラップ(直径38mm)。203万円(税別)(問)ブレゲ ブティック銀座03-6254-7211

写真:<strong>パネライ ラジオミール1940 オートマティック アッチャイオ</strong><br>ミリタリーウォッチを範に取るパネライ。インデックスは当然アラビア数字だ。自動巻き。SSケース×クロコダイルストラップ(直径45mm)。100m防水。114万円(税別)(問)パネライ 0120-18-7110 パネライ ラジオミール1940 オートマティック アッチャイオ
ミリタリーウォッチを範に取るパネライ。インデックスは当然アラビア数字だ。自動巻き。SSケース×クロコダイルストラップ(直径45mm)。100m防水。114万円(税別)(問)パネライ 0120-18-7110

写真:<strong>ロレックス オイスター パーペチュアル 39</strong><br>文字盤は、ローマ数字ともアラビア数字とも違うバーインデックス。スチール、サテン仕上げ(直径39mm)。100m防水。2015年モデル ロレックス オイスター パーペチュアル 39
文字盤は、ローマ数字ともアラビア数字とも違うバーインデックス。スチール、サテン仕上げ(直径39mm)。100m防水。2015年モデル

写真:<strong>Apple Watch</strong><br>Apple Watchの標準的なインデックスも、やはりアラビア数字だ。アップルは「普通の人向け」として、この時計を作ったに違いない。SSケース×リンクブレスレット(42mm)。価格は11万9800円(税別) Apple Watch
Apple Watchの標準的なインデックスも、やはりアラビア数字だ。アップルは「普通の人向け」として、この時計を作ったに違いない。SSケース×リンクブレスレット(42mm)。価格は11万9800円(税別)

写真:ロンドンのビッグベンは、いわば大英帝国の象徴だ。重厚な建築に合わせるべく、インデックスはローマ数字である ロンドンのビッグベンは、いわば大英帝国の象徴だ。重厚な建築に合わせるべく、インデックスはローマ数字である

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 産業革命以降、時計は実用品になった。しかしそれ以前は、実用的ではあったものの、基本的には、貴族やブルジョアたちのステータスシンボルであった。重要なのは、どのメーカーの時計を持つか、ではなかった。時計を持つこと自体が、選ばれた存在の証しであったわけだ。そういう成り立ちを持つ時計には、デザインや形に一種の線引きがあったし、今なお残っている。今回はその一部を、述べてみたい。

社会階層が上がるほど目立たない

 多くの人が考えているのとは反対に、社会階層が上がるほど、持ち物は目立たなくなる。というのも、周囲の人間は、皆彼や彼女を知っており、あえて自己を誇示する必要がないためだ。となれば、腕に巻く時計も、薄くシンプルになるだろう。さらにいうとその時計には、秒針や日付表示も不要だろう。持ち主は、秒に追われる生活とは無縁であり、日付も秘書が教えてくれるからだ。

 誇示しないが、自らの社会的立場を暗示する時計。逆説的だが、声高に言う必要のないことが、ステータスの高さを意味するのである。そう考えると、いわゆる超一流メーカーが、いまだに2針の薄型時計をカタログに加える理由もわかる。薄い時計は決して「売れ筋」ではない。しかし私たちの顧客には、そういう時計を好む層がいる、とアピールはできる。

インデックスにも格はある

 時間を示すインデックスにも、やはり格はある。一番格上なのはローマ数字で、普通がアラビア数字だ。これは歴史を考えれば理解できるだろう。ヨーロッパの文明は、一貫してギリシャ・ローマを模倣しようと試みてきた。支配層が学ぶべきはローマの標準語だったラテン語であり、当然ローマ数字がセットについてくる。したがって、かつての支配者たちが街や教会に作り上げたクロック、そして彼らの所有した懐中時計などは、例外なくローマ数字のインデックスを備えている。

 対してアラビア数字は、庶民の数字だ。会計で使われる数字、といわれるように、重厚さは持たないが、実用性は高い。では、アラビア数字のインデックスはどこでよく見かけるか。一番わかりやすい例が、駅舎だろう。庶民の交通手段として発達した鉄道。駅舎に掲げられた時計が、アラビア数字インデックスなのも納得がいく。またかつてアメリカで作られた時計のほとんどは、アラビア数字のインデックスを持つ。これもアメリカという国の成り立ちと、無縁でないだろう。

ユニバーサルなバーインデックス

 1930年代以降に出現したバーインデックスは、ローマ数字ともアラビア数字とも無縁の、単なる記号だ。そういって差し支えなければ、これは初のユニバーサルフォントであり、クラスを無視できるものだった。このバーインデックスを好むメーカーには、ロレックスがある。ロレックスは、腕時計を社会的な階層を問わない万人のものにしたかったのだろう。同社の、バーインデックスに対する好みからは、そういう主張が見え隠れする。

 今やこういった「お約束」は、ほとんど拘束力を持たない。しかし知って向かい合うのと、知らないでやり過ごすには、大きな違いがある。時計は実用品。しかしその背景には、長い歴史が横たわっている。

PROFILE

広田雅将(ひろた・まさゆき)

時計ジャーナリスト。1974年大阪府生まれ。サラリーマンなどを経て現職。現・時計専門誌クロノス日本版(www.webchronos)主筆。国内外の時計賞で審査員を務める。趣味は旅行、温泉、食べること、時計。監修に『100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』『続・100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダー刊)がある

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