時計のセカイ

何度でも欲しくなるオメガ スピードマスター プロフェッショナル

  • 文 広田雅将
  • 2016年12月21日

1957年に発表された永遠の定番。68年に大規模なモディファイが加えられたが、基本構成は今なお変わっていない。中空のインナーケースにより、無類の堅牢さを誇る。なお現行品は防水性能が向上し、50m防水となった。機械式。SS(直径42mm)。53万円(税別)

写真:裏ぶたにはスピードマスターのマークと、「NASAがすべての有人宇宙計画用として認証した」「月に降りた最初の時計」の刻印が刻まれている 裏ぶたにはスピードマスターのマークと、「NASAがすべての有人宇宙計画用として認証した」「月に降りた最初の時計」の刻印が刻まれている

[PR]

 オメガのスピードマスター プロフェッショナルは、世界で初めて月面に降りた時計として高名だ。とりわけ日本での人気は絶大で、世界で一番スピードマスター研究が進んでいるのは日本、と言われている。そういう理由もあって、日本の時計屋では、必ずこの時計を見かける。しかし数があるのはありがたいような、ありがたくないようなもので、いつでも買えるという安心感は、結局買いそびれの原因となる。いくら後回しにしても、スピードマスター プロフェッショナルだけはなくなることがないのだ。

 かく言う筆者は、今までに3回か4回はこのモデルを買った。いずれも中古である。また欲しくなったので記事を書いているが、今回は新品を手にしたい。というのも、このモデルは、傷が付いてこそサマになる時計だからだ。となれば、人が付けた傷よりも、自分だけの傷を付けた方がなお愛着がわくのではないか。

 NASAが宇宙計画をスタートさせた際、さまざまな時計がテストされた。過酷なテストを勝ち残ったのは、スピードマスターのみだった。理由は簡単で、壊れないようなケース構造を持っていたためだ。1957年にリリースされたスピードマスターは、直径が39.8mmもある巨大な時計だった。今でこそ約40mmという直径はあたりまえだが、当時は純然たる専門家向けとみなされていた。オメガはこのモデルを拡販すべく様々な用途に向く、と広告で謳(うた)ったが、売れ行きは芳しくなかった。

 スピードマスターがNASAのテストに耐えた理由は、大きなケースに小さなムーブメントという組み合わせのおかげだった。筆者はこういった構成の時計を好まないが、数少ない例外のひとつがスピードマスター プロフェッショナルである。搭載したレマニア2310(オメガ銘321)の直径はわずか27mm。39.8mmのケースに比して明らかに小さかったが、オメガはその空白を逆手にとって、ムーブメントを中空のインナーケースで支えたのである。つまり時計が強いショックや微振動を受けても、インナーケースが緩和してくれる。

 普通、ムーブメントを支えるインナーケースはメタル製の太いリング(金無垢〈むく〉の時計の裏ぶたを開けると、太いメタルリングが入っている場合が少なくない。これはコスト削減のためのものだ)だが、時計が重くなる上、ショックを直接ムーブメントに伝える可能性がある。そこでオメガは、大胆にもインナーケースを肉抜きしてしまった。仮にインナーケースがなければ、スピードマスター プロフェッショナルのケースは、34mmぐらいまで小さくできただろう。しかしインナーケースがなければNASAの過酷なテストに耐えられなかったはずであり、従ってオメガ屈指のロングセラーにはならなかっただろう。

 どのモデルも好ましいが、筆者が選ぶならば、ヘザライトクリスタル、つまりプラスチック製の風防を持つモデルだ。ヘザライトクリスタルは傷が付きやすいが、半面、軽くて時計の装着感はまだ良くなる。加えて傷が付いてサマになるスピードマスターならば、むしろヘザライトの方が“らしい”とし、仮に傷が付いても、歯磨き粉で磨けば大体は落ちる。ちなみにオメガは、ヘザライトを好まない人向けに、硬いサファイアクリスタル製の風防を持つモデルもカタログに加えている。傷が付くのが嫌で、重さも気にならないならサファイア製の風防付きを選んでもいいだろう。

 ちなみに、スピードマスター プロフェッショナルは60年近く前に誕生した、純然たる専門家向けの時計だ。従って最新のドレスウォッチのような、快適な装着感を期待してはならない。しかしこの時計には、使い込んで自分だけの時計に育てる、というツール感が残っている。時計に対して一生物という言葉は使いたくないが、スピードマスター プロフェッショナルに対しては、そう言い切っていい。

PROFILE

広田雅将(ひろた・まさゆき)

時計ジャーナリスト。1974年大阪府生まれ。サラリーマンなどを経て現職。現・時計専門誌クロノス日本版(www.webchronos)編集長。国内外の時計賞で審査員を務める。趣味は旅行、温泉、食べること、時計。監修に『100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』『続・100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダー刊)が、共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞刊)『アイコニックピースの肖像 名機30』がある

BOOK

ジャパン・メイド トゥールビヨン-超高級機械式腕時計に挑んだ日本のモノづくり-

ジャパン・メイド トゥールビヨン-超高級機械式腕時計に挑んだ日本のモノづくり-
(B&Tブックス)

独立時計師の浅岡肇さんと由紀精密、工具メーカーであるOSGとの共同企画である「プロジェクトT」をまとめたものです。現役の独立時計師が時計作りについて書いた本は、これを含めても数冊しかないでしょう。その中で広田は日本の時計産業がいかにして興り、衰退したかを書かせていただいています。ベースになったのはクロノスの連載記事ですが、内容は大幅に変えてあります。今の時計作りに興味のある方はぜひぜひ。(広田雅将)

アイコニックピースの肖像 名機30

アイコニックピースの肖像 名機30
(東京カレンダーMOOKS)

各メーカーのいわゆる「アイコン」モデルを、第一作と最新作を中心に取りあげたものです。各モデルのファーストモデルをこれだけ撮り下ろした本は、おそらくこれのみでしょう。また、プロジェクトの当事者たちのインタビューや、ムーブメントの詳細解説なども記しています。価格の高い時計が中心になってしまいますが、各モデルの概要をコンパクトに知るには分かりやすい書籍ではないかと思います。(広田雅将)

&Mの最新情報をチェック


&Mの最新情報をチェック

Shopping