イタリアの商店<第30回>「今日は大卒。明日は失業者」学生街の文具店

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 欧州最古の部類に属する1240年創立のシエナ大学。その政経学部からほど近くに、ロレンツォ・ボヌッチさん(73歳)が営む文房具店がある。
 一般文具のほかに、カード、キャンドルなど卒業祝いグッズも多数ある。日本と比べて、入学は易しく、卒業が難しいイタリアの大学を擁する街ならではだ。
 こちらの大学は年間を通じて卒業試験が行われるため、グッズの需要は常にある。ただし「今日は大卒。明日は失業者」と書かれたワッペンも。卒業後3年以内に就職できる大卒者がわずか53%(EU統計局 14年調査)という、厳しい社会情勢を反映した世知辛いユーモアである。
 ロレンツォさんが同業だった父親の店から独立したのは1984年、40歳のときだった。当時は、タイプライターがよく売れたという。
 そう説明するロレンツォさんが、何やら奥から取り出してきた。タイプライターのリボンだ。かつてイタリアを代表する事務機器メーカーだったオリベッティ製である。
 「今でもひと月に1個くらい、リボンを買いに来るお客さんがいます」とロレンツォさん。「もはやタイプライターを使う人は少数派。でも最後のお客さんのことを考えて、いつも切らさないようにしておくのです」
 大学を卒業して社会人となってからも贔屓(ひいき)にする顧客と、彼を支える娘2人に支えられ、ロレンツォさんの店は間もなく創業33年目の春を迎える。
(文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA、写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/大矢麻里 Mari OYA)

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    PROFILE

    大矢アキオ(おおや・あきお) Akio Lorenzo OYA

    コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。東京生まれ、国立音大卒(ヴァイオリン専攻)。二玄社『SUPER CAR GRAPHIC』編集記者を経て独立。30歳でイタリア・シエナに渡る。現在、雑誌、webに連載多数。実際の生活者ならではの視点によるライフスタイル、クルマ、デザインに関する語り口には、根強いファンがいる。テレビ、ラジオでも活躍中。『Hotするイタリア―イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』(二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』(光人社)、『イタリア発シアワセの秘密 笑って!愛して! トスカーナの平日』(二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、電子書籍iPad/iPhone/iPod touch用『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

    大矢麻里

    大矢麻里(おおや・まり) Mari OYA

    イタリアコラムニスト。東京生まれ。短大卒業後、幼稚園教諭、大手総合商社勤務などを経て、1996 年にイタリア・トスカーナの古都シエナに移り住む。 国立シエナ外国人大学で学び、現地の料理学校で通訳・アシスタントを務めるかたわら執筆活動を開始。NHKラジオテキスト『まいにちイタリア語』をはじめ、イタリア文化や生活関連の連載・執筆多数。 NHK『マイあさラジオ』など、ラジオ番組でもリポーターとして活躍中。著書に『イタリアの小さな工房めぐり』(新潮社)がある。

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