イタリアの商店<第39回>ふるさとの“なまり”懐かしピッツェリア

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 「ナポリでは今も“ピッツァイオーロ”(ピッツァ職人)と、一般の料理人は厳然と区別されています」と語るのはロザンナ・ピシテッリさん。幼い頃、親戚の店が手がけるピッツァに魅せられた。

 「ピッツァはナポリ人にとって、日々の生活であり、文化でした」。気がつけば、自らも師匠についてピッツァの道に入っていた。女性だからといって容赦はない、厳しい修業だった。

 そしてナポリでも数少ない女性ピッツァ職人になった。

 7年前、故郷から400km離れた中部トスカーナ州シエナに同郷の夫カルミネさんと店を開いた。ロザンナさんがピッツァ、従業員のコックが他の料理、そしてカルミネさんが店全体を仕切る。“ピッツェリア・オステリア”(ピッツァも提供する食堂)だ。

 中世からの大学都市シエナには南部出身の学生や、卒業後もそのまま残って研究員となる人が少なくない。「そうした人々に懐かしい味を楽しんでもらえることが、この仕事をしている喜びです」とロザンナさん。

 筆者のテーブルの隣では、ナポリから出稼ぎでやってきた左官工の男性たちが夕食を楽しんでいた。

 “ピッツァイオーロ”はけっして楽ではない仕事ゆえ、今や多くの若者が敬遠する。イタリア農業連盟によれば、今日イタリアでは3人に1人以上が外国人だ。

 しかしロザンナさんの長男リッカルドさん(17歳)は、母親の仕事を継ぐべくあえて“ピッツァイオーロ”の道に入った。徐々に右腕となりつつある今日このごろだ。

 その日も店内には、ロザンナさんの家族と客が交わす南部方言が、あたかもBGMのごとく夜遅くまでこだましていた。

(文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA、大矢麻里 Mari OYA)

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    PROFILE

    大矢アキオ(おおや・あきお) Akio Lorenzo OYA

    コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。東京生まれ、国立音大卒(ヴァイオリン専攻)。二玄社『SUPER CAR GRAPHIC』編集記者を経て独立。イタリア・シエナに渡る。雑誌、webに連載多数。日本のさまざまなラジオ番組でコメンテーターとしても活躍中。イタリア在住20年ならではの国際的視点によるライフスタイル、クルマ、デザインに関する語り口には、根強いファンがいる。『Hotするイタリア―イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』(二玄社)、『イタリア式クルマ生活術』『カンティーナを巡る冒険旅行』(いずれも光人社)、『イタリア発シアワセの秘密 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)など数々の著書・訳書あり

    大矢麻里

    大矢麻里(おおや・まり) Mari OYA

    イタリアコラムニスト。東京生まれ。短大卒業後、幼稚園教諭、大手総合商社勤務などを経て、1996年にイタリア・トスカーナの古都シエナに移り住む。国立シエナ外国人大学で学び、現地の料理学校で通訳・アシスタントを務めるかたわら執筆活動を開始。NHKラジオテキスト『まいにちイタリア語』をはじめ、イタリア文化や生活関連の連載・執筆多数。 NHK『マイあさラジオ』など、ラジオ番組でもリポーターとして活躍中。著書に『イタリアの小さな工房めぐり』(新潮社)がある。

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