写真を切って組み立てる、昭和レトロな「フォトモ」

写真

 中学に入学した頃、父親が買ったきりで押し入れの中にしまっていたカメラを使ったのが、糸崎公朗さんと写真の出会いだった。ところが、撮影に興味を持って写真部に入ってみたものの、肝心の写真がなかなかうまく撮れず、しばらくカメラとは遠ざかることに。

 その後、美大を卒業し、自分自身がどんな作品をつくっていいか分からずに模索していたとき、現代芸術家の赤瀬川原平が路上で見つけた「上って、下りるだけの変な階段」「高い場所に設置された、むき出しのドア」といった、不思議なモノの数々をとらえた概念(赤瀬川は、これを「超芸術トマソン」と名づけた)と出会った。そして「構図なんて関係ない。面白いモノを見つけたら、素直に撮ればいいんだ」と考えるようになり、路上で写真を撮るようになった。

 バブル崩壊後、美大を卒業してすぐの頃から制作を続けている糸崎さんの代表作の一つが「フォトモ」だ。「写真(フォトグラフ)」と「模型(モデル)」を組み合わせた糸崎さんならではの造語である「フォトモ」は、写真を複数枚撮って組み合わせ、立体的な街の風景を作り上げた「3D写真」と呼べる作品。

 2017年10月に発売された著書「フォトモの世界」(彩流社)には、ふだん撮影している東京に加え、香港、金沢、大阪の街並みが収録されている。切り取って組み立てることで、立体的な模型として街の風景を再現できるのが楽しい。

 糸崎さんによると、フォトモ的な立体ジオラマ作品の歴史は長く、なんと250年以上前の江戸時代には、葛飾北斎が「立版古(たてばんこ)」という浮世絵のペーパークラフトを制作していたという。20世紀を代表するフランスの美術家マルセル・デュシャンの作品「トランクの中の箱」にも、写真を切り抜いた“フォトモの源流”が見られるそうだ。

 「街並みを撮っているときには、この街は貴重だ、という気持ちはないんですが、時代の移り変わりは思っている以上に早いんです。撮影したときの建物が、いまでは随分なくなっているということも多いですね」。私たちが「日常」や「当たり前」と考えているものは、時代の産物であり、普遍的なものではない、と語る糸崎さん。

 写真を切って、組み立てるという、アナログ的な行為で生み出されるフォトモは昭和レトロ的で、眺めているとどこか懐かしい気持ちになるが、街並みの記録という意味でも、面白い見方ができる。見たままの感覚だけではなく、立体になったときにそれらしく見えるよう、遠近法をうまく調整していることも特徴だ。特に香港の街は建物がすごく大きく、フォトモとして仕上げるためにさまざまな工夫を凝らしている。

 芸術そのものを否定したデュシャンや、路上を観察し芸術の新しい見方を提案した赤瀬川のように、試行錯誤を繰り返す糸崎さんのフォトモは「写真は、こう撮らないといけない」といった枠組みを超え、写真表現の可能性を広げてくれるに違いない。

(文・山田敦士)

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    PROFILE

    糸崎公朗(いとざき・きみお)

    美術家・写真家、東京造形大学卒業。1996~2003年まで雑誌「散歩の達人」にて「フォトモ」を連載。2010年、高松市美術館の企画展「コレクション+(プラス)メタモルフォーゼ!!!!! 変身アート」ではマルセル・デュシャン作品と「フォトモ」を組み合わせた展示を企画。「非人称芸術」という概念を提唱し、「フォトモ」のほか、「ツギラマ」「2コマ写真」「デジワイド」など、独自の着想による、写真を素材にした作品を制作。

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