京都古文化特集

石清水八幡宮ルポ 手足を切られた美しい女神像が意味するものは

  • 文 渡部せつ子(フリーライター)
  • 2013年4月22日

写真:石清水八幡宮にて=撮影・小林勝彦石清水八幡宮にて=撮影・小林勝彦

写真:石清水八幡宮にて=撮影・小林勝彦石清水八幡宮にて=撮影・小林勝彦

写真:石清水八幡宮にて=撮影・小林勝彦石清水八幡宮にて=撮影・小林勝彦

写真:石清水八幡宮にて=撮影・小林勝彦石清水八幡宮にて=撮影・小林勝彦

〈2013年(平成25年)の、春の京都非公開文化財特別公開は終了しました。新しい情報は「古都 京の文化」ページで、ごらん下さい。【古都 京の文化】

 恒例の京都春季非公開文化財特別公開が、今年も4月26日(金)から5月6日(月・休)まで、公開対象社寺と公益財団法人 京都古文化保存協会の主催で開かれます。同協会常務理事で事務局長の後藤由美子さんに、事前に現地(西方寺・長建寺・石清水八幡宮・得浄明院)を案内してもらい、ふだん見ることができない秘仏やお宝に出会う旅。第3回は朝廷からも武家政権からも崇敬され、数多くの貴重な文化財をいまに伝える石清水八幡宮です。

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◆国家鎮護の神として発展した「石清水八幡宮」

 石清水八幡宮の起源について、京都古文化保存協会が作成した「拝観の手引き」には、次のように書かれています。「平安時代の初めの貞観元(859)年、奈良の大安寺の僧・行教(ぎょうきょう)が大分県の宇佐八幡宮にこもり日夜祈祷したところ、”吾れ都近き男山の峯に移座して国家を鎮護せん“との八幡大神のお告げを聞いた。そこで同年、男山の峯に御神霊が遷座され、翌貞観2(860)年、朝廷により造営された八幡造り(はちまんづくり)の社殿に御鎮座になった」と。男山は木津川・宇治川・桂川の合流地点を挟んで天王山と対峙する位置にあり、都の裏鬼門(西南の方角)に当たることから、都の守護、国家鎮護の社として篤い崇敬を受けてきたのです。宇佐八幡宮、鶴岡八幡宮などと並んで日本三大八幡宮のひとつとされ、最近はパワースポットとしても注目が集まっているとか。さっそく出掛けてみましょう。

 京阪八幡市駅で、後藤さんと小林カメラマンと待ち合わせ、のどかな風情の男山ケーブルに乗って約5分。石の鳥居をくぐり、参道を歩いてゆくと、木々の間から小鳥のさえずりが聞こえてきました。清々しい空気を吸い込んで、まるで別世界に踏み込んだような気分です。

◆もう少しで焼かれるところだった神像

 社務所の一室では、2躯の小さな女神像が私たちを待っていました。真っ赤な唇、伏し目がちの目、鼻筋の通った鼻、ヘアバンドを巻いた豊かな髪・・・どこから見ても完璧な美人です。高さ30センチほどの木造の坐像ですが、着ている唐服には花柄の彫刻と赤い彩色がはっきり見て取れます。でも、手や膝など前の部分は2躯ともスパッと切り落とされたかのよう・・・。「これは神像としての役目を終え、魂を抜くために人為的に欠損させているらしいんですよ。平成3(1991)年に8躯が発見され、制作年の古い4躯(平安末期から鎌倉中期)が国の重要文化財になり、こちら(室町時代)は京都府の指定文化財になりました」と後藤さん。

 石清水八幡宮に昭和52(1977)年から勤務している禰宜の西中道さんは「実は、このご神像が発見されたとき、もう少しで誤って焼却されるところだったんですよ」と驚きのエピソードを明かしてくれました。西さんによれば発見前年にテレビ局から「鉢巻を巻いたような女神像があるはず。昭和初期の資料にスケッチも描かれている…」と取材申し込みを受けましたが、見つからず。ところが翌年3月、校倉(あぜくら)を掃除していた学生たちが木片の入った木箱をごみとして運び出そうとしているのを西さんが見て「もしや」と。「木片には彩色が残っていましたから、すぐに研究所に連絡しました。先生が木片を組み合わせるとご神像になったというので本当に驚きました」

 天皇陛下もお入りになったという部屋のレトロなガラス窓のそばに女神像を置き、男山の満開の桜をバックに小林カメラマンが撮影を始めました。あっ、女神像の赤い唇がわずかに笑ったような…。

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◆信長、秀吉、家康…天下人の書状が次々

 次に西さんは、収蔵庫から武将の書状の入った箱を出して来てくれました。「これは信長の有名な”天下布武”の印が押された書状です。こちらは秀吉が領地を安堵するという書状、こちらは家康の…」と。次々に天下人の名前が出てきます。西さんは「石清水八幡宮は武将の守護神として崇敬されてきましたからね。石清水文書として、ざっと1000点を超える古文書があり、全て国の重要文化財です。今回はその中から、信長、秀吉、家康の書状を出展します。3人が石清水八幡宮を手厚く遇することで、政権基盤を固めていったことが分かると思います」。そんな説明を聞きながら書状に目を落とすと、書いてあることはよく分からないけれど、歴史上の人物の息づかいまで聞こえてくるようです。

 権禰宜(ごんねぎ)の櫻井宣人さんは「源氏の出身である徳川家の石清水八幡宮への崇敬はとりわけ強かったようです。徳川三代将軍家光は、あの日光東照宮を造営する前の寛永11(1634)年、石清水八幡宮の本殿の造営をしました(国の重要文化財)。八幡造りの最高傑作といわれ、今回の特別公開では、平成の大修造を終えた回廊をご覧いただきます」と話します。この日は回廊を見学することはできませんでしたが、輝くような極彩色の楼門の前に立つと、スカッとした気分になります。これは特別拝観を見に来なくては! あの有名な左甚五郎作と伝わるサルの彫刻も見られます。

◆江戸時代には山全体がテーマパーク状態だった

 江戸時代までは日本の宗教は「神仏習合」でした。つまり中国から伝来した仏教が土着の神道と接触しながら、独特の思想が形成されていったのです。石清水八幡宮はその最たるもの。櫻井さんは「江戸時代、男山には48の坊(寺院)があったと言われ、周囲には様々な仏教施設やみやげ物屋などが並び、山全体がテーマパークみたいだったようです。しかし、あまりにも力と財力を持ってしまったためか、明治の神仏分離、廃仏毀釈の波が押し寄せてきたとき、周囲の寺や施設はすべて廃止され、石清水八幡宮の“寺“の要素も排除されました」と話します。残念ながら、このとき多くの文化財も失われました。ご鎮座から1153年、いまも“やわたのはちまんさん”と親しまれる石清水八幡宮に、時代の大きなうねりを感じずにはいられませんでした。

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    ◇

【石清水八幡宮】京都府八幡市八幡高坊30
電話:075−981−3001
地図:http://goo.gl/maps/s0cOc

【京都非公開文化財特別公開】4月26日〜5月6日(百万遍知恩寺のみ4月27日〜)
【時間】午前9時〜午後4時(拝観受付)
【拝観料/1カ所につき】大人800円、中高生400円(東寺のみ高校生700円、中学生以下500円)
【主催】京都古文化保存協会および公開社寺
【特別協力】朝日新聞社
【問い合わせ】協会075・561・1795
【協会ホームページ】http://www.kobunka.com/hikoukai2013har.html

【朝日新聞デジタル特設ページ】http://www.asahi.com/koto/


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