沖縄建築パラダイス

楽しみ抜いてこそ生まれる「遊び心ある建築」

  • 文 馬渕和香
  • 2014年12月19日
浜辺で拾ったサンゴを屋根にのせた家。まるで地球からポコンと産まれたような家。沖縄の建築風景には既存の枠にとらわれない自由な遊び心が溢(あふ)れている

写真:佐久川さんの「海の家」は、同じ街の反対側に建つ「山の家」と一対でデザインされた。「図面が合体するんです。二つを合わせると丸くなっちゃう。海も山も友だちだから一緒になろうよ、という意味を込めて『みんなともだち』というタイトルを付けました」 佐久川さんの「海の家」は、同じ街の反対側に建つ「山の家」と一対でデザインされた。「図面が合体するんです。二つを合わせると丸くなっちゃう。海も山も友だちだから一緒になろうよ、という意味を込めて『みんなともだち』というタイトルを付けました」

写真:佐久川さんの自邸。「光や風とうまく対面したくて」生まれた造形。壁に付けた「植物の手を吸収する」突起にポトスが這(は)う。「デザインは、使われてこそデザインで、使われないデザインはデザインじゃなくてただのサイン。だから遊びにもできるだけ“用”を見つけたい」 佐久川さんの自邸。「光や風とうまく対面したくて」生まれた造形。壁に付けた「植物の手を吸収する」突起にポトスが這(は)う。「デザインは、使われてこそデザインで、使われないデザインはデザインじゃなくてただのサイン。だから遊びにもできるだけ“用”を見つけたい」

写真:根路銘さんが「奇抜すぎて断られるだろう」と思いながら見せた最初のプランを、家主の小林祥宏さんは「面白そう」と受け入れた。「自分たちだけの家になりそうだな、と思ったんです」と小林さん。根路銘さんは「施主さんに成長させられている」と話す 根路銘さんが「奇抜すぎて断られるだろう」と思いながら見せた最初のプランを、家主の小林祥宏さんは「面白そう」と受け入れた。「自分たちだけの家になりそうだな、と思ったんです」と小林さん。根路銘さんは「施主さんに成長させられている」と話す

写真:「地面とつながる家」の内部は、地球の懐に抱かれているように居心地がいい。高さ4メートルの天井まで目いっぱいに広がる窓ガラスから、光や風がふんだんに入り込む。リビングに居ながらにして星空を眺めることもできる 「地面とつながる家」の内部は、地球の懐に抱かれているように居心地がいい。高さ4メートルの天井まで目いっぱいに広がる窓ガラスから、光や風がふんだんに入り込む。リビングに居ながらにして星空を眺めることもできる

写真:シュガーホールの東屋は、視察に行ったカザルスホールの演奏会の感動から生まれた。「感動の余韻が沖縄まで続いたんです。余韻を感じられるホールにしたくて東屋をつくりました。ホールへ向かう高揚感と帰る時の余韻を高めるための仕掛けです」と照屋さん シュガーホールの東屋は、視察に行ったカザルスホールの演奏会の感動から生まれた。「感動の余韻が沖縄まで続いたんです。余韻を感じられるホールにしたくて東屋をつくりました。ホールへ向かう高揚感と帰る時の余韻を高めるための仕掛けです」と照屋さん

写真:街おこしのためにつくられたシュガーホール。南城市観光協会の宮城光也さんは「『文化ホールがまちをつくる』という本がありますが、本当に街をつくっています」と話す。「ここができて、みんなの心に楽しい気持ちが芽生えて、それが花開いたのかな」と照屋さんは言う(写真 馬渕和香) 街おこしのためにつくられたシュガーホール。南城市観光協会の宮城光也さんは「『文化ホールがまちをつくる』という本がありますが、本当に街をつくっています」と話す。「ここができて、みんなの心に楽しい気持ちが芽生えて、それが花開いたのかな」と照屋さんは言う(写真 馬渕和香)

 今から30年ほど前のこと、沖縄本島北部のとある海岸に、台風で荒れ狂う海から大量のサンゴの死骸が打ち上げられた。

 「これを使おう」。建築家の佐久川一さんにアイデアがひらめいた。浜のすぐ隣で住宅をつくっていた佐久川さんは、瓦葺(ぶ)きにする予定だった屋根の一部にサンゴをのせようと考えた。

 「海の真ん前の土地は暮らすにはシビアな環境です。家主さんは、海風や浜から飛んで来る砂をさえぎってくれて、しかも海を感じていられる家を希望していました。海がかぶさったような屋根。その屋根が風や砂をよけてもくれる。オーナーの要望にサンゴで応えたということです」

 そうあっさりと佐久川さんは語る。しかし、マンタ(オニイトマキエイ)が悠々と泳ぐ姿にも見える屋根に、波でえぐられたような壁柱、窓や扉にランダムに埋め込まれた色ガラスなど、独創性のスタンプがいたる所に押された建物は「要望に応えた」家にしては楽しすぎる。

 「遊びも大事です。遊びがないとひらめきもない。お金をかける必要はありません。知恵を出して、遊べることを見つけちゃえばいい」

 遊び心の系譜。そう呼びうる一筋の流れが沖縄の建築にはあるように思う。子どものように天真爛漫(らんまん)な発想でつくられた佐久川さんの「海の家」。同様の無邪気さが、ひと世代若い根路銘(ねろめ)安史さんの「小林邸」からも伝わってくる。

 地中に眠っていた家が、ふとした拍子にムクムクと地上に飛び出て来たような小林邸は「地面とつながっている建物をつくってみたかった」という根路銘さんのビジョンに、スタッフの吉岡雄一郎さんが描いた「ペローンと地面がめくれ上がるイメージ」がブレンドして完成した。

 一体どこからそんな発想が生まれるのだろう。その疑問に、根路銘さんは意外な言葉で答えた。

 「特殊な建物や目立つ家をつくろうという気はぜんぜんないんです。この土地ならどんな建物がいいだろう、この家主さんなら、って考えるところから形が出てくる。形優先ではありません」

 はじめに形ありき、ではないと照屋(てるや)寛公さんも言う。照屋さんは、沖縄屈指の建築家である真喜志(まきし)好一氏の右腕として、氏の代表作の一つ「シュガーホール」の設計に携わった。

 「『これで行こう』と決めてしまうと、それが呪縛になって、そこから離れ切れなくなってしまいます」

 アプローチに並ぶとんがり屋根の東屋(あずまや)が、音楽ホールというよりおとぎの国への入り口を連想させるシュガーホール。照屋さんによれば、楽しみながら「ジョークみたいにして」つくられた部分もあるという。

 「例えば、ホール内のコンクリートブロックのレリーフは、作者の能勢孝二郎さんと設計チームが交わした『バロックからブロックへ』というダジャレから、デザインの一部が生まれた。自分が楽しくなければ、人は楽しくなりません。人を遊ばせる前に、自分が遊び切れるか。そこが大事です」

 楽しませるために、自分が楽しむ。遊び切る。胸がときめき、心がおどる建築は、つくる人が楽しみ抜いてこそ生まれる。

アトリエガィィ(佐久川一)
電話:098-897-1379

アトリエ・ネロ(根路銘安史)
電話:098-889-0103

建築アトリエTreppen(照屋寛公)
電話:098-859-0710

シュガーホール 沖縄県南城市佐敷字佐敷307
電話:098−947−1100

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PROFILE

馬渕和香(まぶち・わか)

元共同通信英文記者。翻訳家。初めて訪れた沖縄島のヒトとマチに恋をして1999年に移住。以来15年間、素朴で飾り気はないものの沖縄のエッセンスがギュッと詰まった小さな宝石のような築半世紀のカーラヤー(瓦家)に暮らす。建築に興味を持つようになったのは、雑誌で見たファンズワース邸に感動したのがきっかけ。好きな建築家はジェフリー・バワ、そして沖縄の素敵な風景を作り上げてきた無数の名もなきアマチュア建築家たち。


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