ブラボー★NIPPON

外国人も芸人もご近所さんも温かく包む、下町の銭湯

  • 蛇骨湯
  • 2015年1月15日
江戸時代から続く天然温泉の銭湯・蛇骨湯の様子はフォトギャラリーで、どうぞ。

 浅草寺の門前町として、今も昔も多くの人でにぎわう東京・浅草。ランドマークである雷門から表参道沿いに続く仲見世は、江戸時代にはじまる由緒ある商店街だ。当時は本堂裏に大道芸やら見世物小屋やらが集まり、さらに北側にはいわずと知れた吉原があって、浅草は日本随一の繁華街だった。時代が下るとそれらの見世物小屋は一大興行街へと成長し、昭和の最盛期には演劇や落語、映画にオペラ、ストリップなど大衆芸能を求める人でごった返した。そしてここから、渥美清やビートたけしら多くの芸人が生まれた。

蛇骨湯

オープンの15分ほど前から一番風呂を目指して人が集まり始め、シャッターが開く時にはこの人だかり

蛇骨湯

露天風呂もあります。

 浅草の入り組んだ路地にあって、そんな街の歴史をつぶさに見てきたのが、江戸時代から続く天然温泉の銭湯・蛇骨湯だ。吉原から朝帰りした客、料亭の芸妓(げいこ)、有名無名の芸人がここへやって来ては、疲れた体を癒やしたり英気を養ったりした。「料亭のお姉さんたちはここでお店の衣装に着替えていくんですけど、それを眺めるのが楽しみでした。今日はどんな着物を着るのかな、どんな帯を締めるのかなって」とはご主人の室塚茂夫さんの母・志津子さんの話。落語家の立川談志も「頭が休まる」といって寄席の合間に来たという。

 しかし大正に隆盛を極めた花柳界は衰退し、吉原は昭和に消え、テレビが普及したことで浅草芸人たちも活躍の場を移していった。代わりにいま、近所の常連に交じって蛇骨湯の新たなお客さんになったのは、浅草を訪れる外国人観光客だ。見ると入り口にある券売機にはちゃんと、日英中韓の4カ国語表記がされている。増え続ける外国人客に番台が対応できなくなり、2006年に銭湯をリニューアルした際、券売機も一新した。

蛇骨湯

外国人客が増え始めたのは7~8年前からとか

 タオルと歯ブラシ、かみそりがセットになった「手ぶらセット」と入浴券を買って、湯につかった。清潔で新しいのに、富士山の大きなタイル絵や「でんき風呂」がどこか懐かしい。しばらくして外国人の女性が一人やって来た。するとそれに気づいたほかの客がすぐさま「ここに座って、まず体を洗ってね」と声をかける。日本語上等、おかまいなしだ。「洗面器といすはそのままでいいから、早く風呂に入りなさい。風邪ひくよ」「あっちには露天風呂もあるからね」。公衆浴場を初めて体験したというその女性は、1カ月かけて日本を旅しているイタリア人だった。「伝統的な場所で、より伝統的な方法で温泉に入ってみたくて」ガイドブックで調べてやって来た。「どう振る舞っていいか分からなかったけど、みんなが全部教えてくれたし、助けてくれた」。湯上がりのボディークリームまで貸してくれたの、とうれしそう。

 時代が変われば街も変わり、蛇骨湯を訪れる人も変わる。これからもどうか、誰もが心までぬくもる場所であってほしい。「とりあえず、今まで怒って帰った外国人はいないかな」。室塚さんがそう言って、笑った。

(文・写真 加藤千絵)


場所名:蛇骨湯
住所:東京都台東区浅草1-11-11
アクセス:東京メトロ田原町駅から徒歩3分、同浅草駅から徒歩5分
電話:03・3841・8645
ホームページ:http://www.jakotsuyu.co.jp/
メモ:営業時間は午後1時~午前0時。火曜休み。入浴料460円、手ぶらセット140円。古生代に埋もれた草や木の葉の成分が地下水に溶け込むことでできた冷鉱泉で、黒褐色透明、微塩味無臭。体の芯まで温まり湯冷めしにくいのが特徴。

マウスホイールのスクロールでも見ることができます
(Windows IE6以降・Mac Safari3以降推奨)
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