沖縄建築パラダイス

夢を追いかけて“浜辺”から“天空”まで「三つの茶屋」

  • 文 馬渕和香
  • 2015年1月16日
伝説のカフェ。巨岩にはめ込まれた建物。「土地を磨く」という発想。すべては、社長業をなげうって「楽しい人生にチェンジ」した稲福信吉さんが描いた夢から生まれた

写真:骨組み以外は稲福さんが自ら「雑(ざつ)づくり」した浜辺の茶屋。「ものすごい苦労をかけた」と稲福さんが話す妻の米子さんと二人でオープンした店は、20周年を迎えた今、多い日で300人が押し寄せる 骨組み以外は稲福さんが自ら「雑(ざつ)づくり」した浜辺の茶屋。「ものすごい苦労をかけた」と稲福さんが話す妻の米子さんと二人でオープンした店は、20周年を迎えた今、多い日で300人が押し寄せる

写真:台風で一度は半壊したこともある。「自分たちでヨイショ、ヨイショって直した。牛小屋ぐらいの建物だから簡単」。そうは言っても台風は怖い。「台風シーズンは逃げたい。でも去年、ハワイに3カ月滞在した時は沖縄の天気予報ばかり見て、気が気じゃなかった」 台風で一度は半壊したこともある。「自分たちでヨイショ、ヨイショって直した。牛小屋ぐらいの建物だから簡単」。そうは言っても台風は怖い。「台風シーズンは逃げたい。でも去年、ハワイに3カ月滞在した時は沖縄の天気予報ばかり見て、気が気じゃなかった」

写真:銀行から融資を受けられず、自宅の立ち退き料をすべて注ぎ込んだ100段の石階段。「恐ろしいぐらいお金を使ったよ。自分でも怖くなった。でも、お客さんを感動させられるアプローチをつくりたかったから」 銀行から融資を受けられず、自宅の立ち退き料をすべて注ぎ込んだ100段の石階段。「恐ろしいぐらいお金を使ったよ。自分でも怖くなった。でも、お客さんを感動させられるアプローチをつくりたかったから」

写真:100段を登り切ると山の茶屋に。壁はわざと歪(ゆが)ませた。「風が強い場所だから、最初から倒しておけばこれ以上倒れないでしょ。それとお客さんに『なんで歪んでるわけ』って思わせて、足の疲れを忘れてもらうための仕掛け。普通に構えてると普通に疲れるから」 100段を登り切ると山の茶屋に。壁はわざと歪(ゆが)ませた。「風が強い場所だから、最初から倒しておけばこれ以上倒れないでしょ。それとお客さんに『なんで歪んでるわけ』って思わせて、足の疲れを忘れてもらうための仕掛け。普通に構えてると普通に疲れるから」

写真:巨岩に建物をはめ込んだ山の茶屋。建設する上で一番大変だったのは、職人を説得することだった。「普通はこんなことしない、とか、やったことない、って言う人を説得するのは難しい」 巨岩に建物をはめ込んだ山の茶屋。建設する上で一番大変だったのは、職人を説得することだった。「普通はこんなことしない、とか、やったことない、って言う人を説得するのは難しい」

写真:3年前に完成した天空の茶屋に暮らす。「住居だけど、みんなで利用する施設。イベントに使い、結婚式に使い、ワークショップに使う公民館みたいな場所。独占しない。そうすることで土地も喜ぶし、みんなも喜ぶ」(写真 馬渕和香) 3年前に完成した天空の茶屋に暮らす。「住居だけど、みんなで利用する施設。イベントに使い、結婚式に使い、ワークショップに使う公民館みたいな場所。独占しない。そうすることで土地も喜ぶし、みんなも喜ぶ」(写真 馬渕和香)

 「どん底のどん底」にあった一人の男性が、20年前、妻と二人で浜辺に小さなカフェをつくった。そのカフェは、やがて沖縄の「海カフェ」の草分けとして人気を集めるようになるが、その時の彼には、そんな未来を想像する心の余裕はなかった。

 「真夏にオープンしたかったけど、お金が底をついて、柱を立てたところで工事が止まってね。材木店から廃材をもらってやっと完成させた時には冬になってた。人が通らんところだから、冬はずっと客が来なかったね」

 その数年前、稲福(いなふく)信吉さんは経営していた土木設計コンサルティング会社を人に譲り「楽しい人生にチェンジする」決心をした。

 「仕事をもらうためにおべっかを使ったり、接待ゴルフをしたりって、なんか俺に合わないね、ってずっと自問自答していた」

 親から譲り受けた故郷の小さな土地に「浜辺の茶屋」をつくったのはちょうど40歳の時だ。波打ち際に浮かぶ一艘(そう)の小舟のような店。「まったく無鉄砲に」社長業をやめた自分と家族の人生を託したその小舟を、稲福さんは信じた。

 「客が来なくても、そんなに悲壮感はなかったね。なぜかって、そこの自然も、波のリズムも夕陽も、すべてが最高だったから。共鳴する人がいるって確信してた」

 半年後、運良く新聞に取り上げられて「ババンと」ブレイク。必ずいると信じた共鳴者が県内外から押し寄せた。

 「お金はまったくないの。夢はあるよ」。そう口癖のように話す稲福さんは「ハマチャ」の成功の向こうにさらに大きな夢を見た。近くの山の斜面を18年にわたって買い続けたのはその夢のためだ。断念しかけたこともあったが、どうしても世に出したいものがそこにあった。

 「20年前、その山のジャングルで大木たちと出あった。『うわっ、こんな所にこんなすごい木があったんだ。絶対お披露目しよう』って思った」

 稲福さんの魂を震わせた巨木や巨岩、そして先人たちが残した段々畑の石積みは、ジャングルに埋もれたままではお披露目できない。そこで稲福さんは、ダイヤモンドのように土地を「磨く」ことにした。

 「土地もダイヤモンドと一緒。磨けば、土地が持ってる力が光り輝く」

 磨く土地を、稲福さんはなるべく「いじくらない」。道や建物をつくる場合も、自然の造形にできるだけ「はめ込む」。山の中腹に建てたカフェ「山の茶屋・楽水」は、平面積100坪の巨岩に文字通りはめ込まれている。

 稲福さんが20年間磨いてきた土地は「さちばるの庭」と名付けられ、一般に公開されている。入り口には、無謀だと周囲から止められながらも、ありったけの資金をつぎ込んでつくった史跡のような石階段があり、てっぺんには、住まいでありながらイベントのために開放している「天空の茶屋」がある。

 「夢絶やさんで、夢を追っかけてきたらこっち(天空の茶屋)まで登ってこれた。大変だったけどね」

 今もせっせと磨き続けているさちばるの庭は、あと20年で完成する。

 「それまで生きとかんといかんけど、生きてなくても天国で見届けるよ」。還暦の稲福さんが、若々しい笑顔で語った。

浜辺の茶屋 沖縄県南城市玉城字玉城2-1 電話:098-948-2073

山の茶屋・楽水 沖縄県南城市玉城字玉城19-1 電話:098-948-1227

天空の茶屋 沖縄県南城市玉城字百名1243-2

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PROFILE

馬渕和香(まぶち・わか)

元共同通信英文記者。翻訳家。初めて訪れた沖縄島のヒトとマチに恋をして1999年に移住。以来15年間、素朴で飾り気はないものの沖縄のエッセンスがギュッと詰まった小さな宝石のような築半世紀のカーラヤー(瓦家)に暮らす。建築に興味を持つようになったのは、雑誌で見たファンズワース邸に感動したのがきっかけ。好きな建築家はジェフリー・バワ、そして沖縄の素敵な風景を作り上げてきた無数の名もなきアマチュア建築家たち。


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