日本サッカーのために

日本の「弱さ」が武器になる日 サッカー元日本代表・福田正博さん

  • 2015年5月15日

  

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 スピードを生かした飛び込みで相手の一番嫌がるところに現れ、多くの重要な試合で決定的な仕事をしてきた天性のゴールゲッター、福田正博。現在はピッチを離れた立場で日本サッカーの強化と普及に取り組みながらも、指導者として現場復帰を望む声が絶えない彼が考える、日本の強みを生かしたサッカーと、これからの育成に必要なこととは。

――福田さんはJリーグや代表で多くの印象的なゴールを決めてきましたが、初めから点を取るのが得意だったのですか。

 サッカーを始めたのは小学校5年で転校した先の先生にサッカーをやらないかと誘われたことがきっかけです。当時は野球少年だったのでずっと断っていたんですが、オフサイドのルールも知らないまま強引に駆り出された最初の試合で2点を決めたんです。そこからあっという間にサッカーに夢中になりました。

 それまでやっていた野球は、1球ごとに監督の指示をあおぐのが普通で、打ちたくても監督がバントといえばバットを振ることができません。でもサッカーは、ライン際で監督がどんなに怒っていても逆サイドに逃げれば聞こえませんから(笑)、一度ピッチに入れば自分のアイデアで何でもできる自由さが面白いと感じました。人に言われた通りにやるのが好きじゃないという性格と、足の速さなどの身体的特徴が、サッカーの攻撃的ポジションに向いていたんでしょうね。

――よく、得点感覚の鋭い選手を「ゴールへの嗅覚(きゅうかく)がある」などと表現しますが、その嗅覚とは性格的なものですか。

 それもあると思います。サッカー教室などで子どもたちと接する時、ポジションを決めずに自由にゲームをやらせると、全員が点を取りたがってフォワードになるかといえば決してそうじゃないんですね。引いて守る子、中盤でボールをさばく子と自然に分かれます。それが本来その子にとって一番やりやすいポジションなんだと思いますし、指導者はそれぞれの適性に合った役割を与えてやることが大切です。

――日本人はパスワークはうまいものの、貪欲(どんよく)さがないのでなかなかストライカーが育たないと言われます。

 本来はゴールを奪いやすくするために、自分たちに有利な形をつくることがパスをまわす狙いですが、日本では方法がいつの間にか目的とすり替わり、つなぐことばかりに終始しやすいという面は確かにあります。でもそれは、日本人のまじめさが理由でもあるんです。毎日ボールをつなぐ練習をしていると、そこでの課題を完璧にこなそうとするあまり、つなぐこと自体に集中しすぎてしまうのです。だから普段からなるべくゴールを置いて、常にゴールの方向を意識させながらすべての練習に取り組むほうが、日本人の場合はいいのかもしれません。

 サッカーは相手より多く点を取って勝つことが目的のシンプルな競技ですが、日本ではサッカーをプレーする人もそれを見る人たちも、点を取る形や試合運びにこだわりますよね。たとえば無理な角度からシュートを狙って外すと、「どうしてあんなところで打ったのか」と批判されます。でも問題はそこで打ったことじゃなく、入れる技術がなかったことのはずなんです。だったら入るように練習すればいいだけのことです。もっとシンプルに考えるべきだと思います。

――大事な場面でシュートが枠を捉えられない、勝ちきることができないというのは日本人のメンタルの弱さが一因でしょうか。

 よくそういわれますが、僕は「メンタルが弱い」という言葉が好きじゃありません。海外の選手と比べて、どちらが強いか弱いかでもなく、上でも下でもないのです。ただ「違いがある」ということを知って、指導や試合に生かしていけばいいんです。

 たとえば日本人には海外の選手のような「マリーシア」が足りないといわれます。駆け引きをするための「ずる賢さ」と訳される言葉ですが、もしそれがなければ勝てないのなら、日本の社会そのものを変えるしかありません。人を育てるものは環境です。でも日本では巧妙に駆け引きをする「ずる賢さ」がなければ、すぐに人に出し抜かれる環境などないですよね。

 まして日本では少年スポーツは教育の一環なので、ルールにふれないギリギリの「ずる賢さ」を教えることは難しいです。日本人の価値観では、「賢い」は美徳ですが「ずるい」は許されないからです。もし本気でマリーシアを身につけさせたいなら、「ずる賢さ」が認められる世の中に変えていく必要があるでしょう。

 もちろん、簡単にはできません。だとしたら、日本人には「ずる賢さ」がないという前提のうえで、違う種類の「賢さ」で勝負するしかないと、僕はそう思うんです。他の国にはまねのできない日本の良さって、たくさんあるじゃないですか。電車がこんなに正確に走る国なんてないですよ。戦後短い間に復興を果たした勤勉さだって誇るべきでしょう。日本人自身が、もっと日本を知るべきだと思います。そしてすでに持っている自分たちの武器を、サッカーというフィールドの中で表現できるようにすることが、これからの課題じゃないでしょうか。

 そのためには海外のトレーニングを取り入れる場合もそのまま輸入するのではなく、日本人の特性を考えてひと工夫する必要があります。日本サッカー協会が中心となって情報発信し、地方の小さなクラブチームまでが同じ意識で育成年代からの指導にあたれば、日本のサッカーは必ず変わります。

――育成年代の指導では、「勝利至上ではなく、まず良いプレーを心がけさせるべきだ」という意見と、「勝ちグセをつけることで勝者のメンタリティーが育つ」という意見があります。どちらも正論のように思えますが。

 たとえば指導者が自分の評価を上げるために子どもを犠牲にしたり、子どもの個性をつぶしたりするような、ゆがんだ「勝利至上主義」は当然ダメですよね。でも誤解を恐れずにいえば、戦いである以上、勝利以外に何をめざすんだと僕は思います。勝つという目的があるからこそ、怖い場面でもボールに飛び込めるし、痛くても相手にぶつかることができる。苦しくても最後まで走りきる力が出るんです。

――では、福田さんのようになりたいと努力している子どもたちにアドバイスをお願いします。

 たとえ試合に出られなくても練習で手を抜かないまじめさは素晴らしいと思います。ただ、そこで満足せず、すべての子が試合に出ることを目標にしてほしいですね。目標を持つことで課題が生まれ、課題があるから成長もできるわけですから。そして、さまざまなレベルの子どもたちが自分の課題に挑戦できる場をできるだけ多く用意することが、僕たち大人の務めだと思っています。

(聞き手・野田朋広 撮影・伊吹徹)

    ◇

福田正博(ふくだ・まさひろ) 1966年12月27日、神奈川県生まれ。中学時代から県下では名が知られた選手であり、高校時代は国体優勝などに貢献。中央大学卒業後の89年、三菱重工(現・浦和レッズ)に入団。95年には32ゴールを挙げ日本人として初のJリーグ得点王に輝いた。その後、チームの2部降格と1年での1部復帰など、苦しい時期もレッズ一筋で戦い抜き、2002年惜しまれながら現役を引退。その後は一時期レッズのコーチも務めるかたわら、サッカーの普及のためメディア出演や全国の少年サッカー教室などで活躍。日本代表では93年のW杯アジア地区最終予選など45試合に出場し、9ゴールを記録している。

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